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HMDを外すと、友幸はHunter33からただの那智友幸に戻る。

比較的簡単な基地警備の任務を終えると、汗だくの体が気になった。

別に運動したわけではないが、任務を終えるといつもこうなる。汗っかきなのだ。

シャワーでも浴びようと、椅子から立ち上がりタオルを用意する。ものが散乱した床を器用にあるいて行き、シャワールームにたどり着く。既に一人暮らしも2年が過ぎ、整理整頓は諦めている。男の一人暮らしだ、そんなものだろう。

服を脱ぎ、バストイレが一緒になった部屋に入る。空の浴槽に足を踏み入れて、シャワーの栓を開ける。

熱いお湯が友幸の体の疲労を洗い流していく。

こういうときに男は便利だと、そう思う。彼には姉がいるのだが、彼女はシャワーを浴びるだけで1時間はかける。男である友幸には絶対に理解できない領域なのだろう。

水滴が体をたたく感触を得ながら、記憶をさかのぼる。

Aランカーとの出会いだ。

任務でAランカーにであったことはある。日本にはAランカーが3人いるが、そのうち二人、badman12とこの前実際に遭遇したsignal01だ。

Signal01が自分より年下なのことには驚いたが、その後の模擬戦で感じた彼の技能はAランカーにふさわしいものだったと思う。

だが、同時に彼には不安定さを感じた。若いゆえに、ではない、過去に闇を持つもの特有の不安定さだ。

だが―――友幸には関係のないことだった。

そう思うことにしている。いくら同じところに雇われているとはいえ、一時的なものだし、何より友幸には他人まで気遣う余裕は、現状ではない。所詮は他人だ。

体が十分に湿ったところでシャワーを止め、かけてあったタオルで体をふくと、服を身にまとってシャワールームから出ると、そのままだしっぱなしの蒲団に身を横たえる。

まもなく朝9時。大学の授業はもう始まっている。これで授業に行かないのは1カ月になる。もう、行っても仕方ないと、そういう考えさえ浮かんできている。

「まあ、いいか…」

そのつぶやきとともに、友幸は眠りに落ちた。起きるのはきっと、大学が終わったころだろうと、そう思いながら。


その後、1週間に2回ほどのペースで呼び出しが警察からなされた。そのたびに訓練が行われ、少しずつ「警察流の」やり方を3人は学んでいった。

その中でも異色だったのはやはりsignal01こと、村上格一だ。

もともと、RECOBILOSTで逮捕術を行うのは簡単ではない。基本的な攻撃手段が「撃つ」だからだ。

ファルシオンは警察用に設定されていたが、それでも今までの慣れという面からもそうそう簡単に操作を習得できるわけがない、と思われていた。実際、ファルシオンの開発中に行われたトライアルが開発の中で相当の時間を食ったといわれている。

実際、召集された3人のうち2人まではぎこちない動きを繰り返していた。。彼らは勝手の違いに四苦八苦していた。だが、例外―――村上格一だけは1時間ほど練習するだけですぐにファルシオンの操作に習熟した。

「まったく、操作はかなり変わっているはずなんだがなあ…」

RCS社のエンジニア、利根は愚痴っぽく言う。ファルシオンには警察用の動作ソフトを入れているため、軍用のM32とは動作特徴がかなり異なっている。ハードの性能自体も、M32のほうが先行企業が作っただけあって優れているといっていい。

格一の操作技術は理解していたつもりだったが、その応用力、適応力には感嘆せざるを得なかった。世界中を探しても、これほどの技能を持つものは少ないだろう。

「僕はFPSをやっていたわけじゃないですから。そんなに癖がついていなかったんだと思いますよ」

その言葉にはさすがに利根も驚いたようだ。

オペレーターの多くはFPSゲーム、特にオンラインFPS出身者だ。A,Bランカーの多くはオンラインFPSでプロか、セミプロだったものだと聞く。

そんな中、日本におけるトップランカーの一人がFPS未経験だということは、十分驚くに値するものだ。

「じゃあ、RECOBILOSTが初めて…?」

その質問に、格一は頷く。

「正確にはほんの少しだけFPSもやってましたけどね。まあほぼRECOBILOSTが初めてです」

その会話を聞いていたのは、利根だけではなかった。

汗をタオルで吹いていた友幸が、驚きの声を発する。

「マジか…Aランカーは全員プロ上がりかと思ってたけど、そうでもないんだな…」

友幸自身、BランカーとはいえFPSのプロやセミプロではない。それは美音も同様だ。

「まあ、日本はそんなにプロが多いわけではないですからね。アメリカや韓国はプロやセミプロがオペレーターに転職する事例が多いってききますけど」

格一の言葉は事実だ。FPS自体、以前は日本企業の参入が少なく、韓国やアメリカ企業が中心だった。そのため、オペレーターへの人材供給体制は日本はまだそれほど整ってはいないともいえる。

「ということは、村上がオペレーター始めたのは日本のAランカーの中では遅い方なのか?」

訪ねたのは友幸だ。

「ええ、俺はAランカーの中じゃ最後ですよ。第二次朝鮮戦争末期のあたり、ミサイル施設攻防戦が初陣でした」

「ほー、あの激戦が初陣なのか」

感心したのは利根だ。RECOBILOSTの技術者である彼は、先の戦争にも詳しいらしい。

北朝鮮の最後の切り札、長距離弾道ミサイル発射基地。第二次朝鮮戦争において、平壌陥落後の最大の激戦はその発射基地を守り、講和の時に少しでも有利にしようとする北朝鮮軍と、核ミサイルを警戒した米韓連合軍の戦いだった。

そしてその時、はじめて大規模戦闘でRECOBILOSTが投入されたのだ。

この戦いには現在存在するAランカーすべてが参加したと言われ、当時トライアル中だった日本のオペレーターとしては、テスターの3人が参加したとされる。


その言葉を、美音は少し離れて聞いていた。

偶然、HMDを外した時に聞こえてきたのだ。

時期が合わない。美音の兄が死んだ―――殺されたのは、もっと前の話だ。では、あのときの機体を操っていたのは、村上ではないのか?

その時期はまだオペレーターの正式採用は行われておらず、故にテスターのみがあの期待を操ることが出来た、ということになる。そして、当時のテスターは全員現在Aランカーであることは有名な話だ。そして、あれだけの事件を一人のオペレーターで起こすことは難しい以上、日本人Aランカー3人全員がかかわっている、と美音は判断していた。

実際、美音自身、当時複数の機影を目撃している。炎の中、動き回る邪悪な機体を、まだ記憶している。

だが、当時村上がオペレーターになっていないのであれば、話は違う。

美音はHMDを脇において、格一に視線を向ける。

あいつは、兄の仇ではないというの…?

美音も馬鹿ではない。年代的な区別はついているつもりだ。実際、日本においてRECOBILOSTのトライアルが始まったのは、第二次朝鮮戦争より前、イラクやアフガンへのRECOBILOST投入時点からだ。そのため、あの闇色のRECOBILOSTを日本人テスターが操っていたという考え自体は、合理的なものだ。勿論、外国のオペレーターが操作を行っていたという可能性もあるが、美音は機体のスピーカーから日本語が流れたのを聞いている。音が割れていたが、紛れもなく日本語だ。

格一が嘘を言っているのは、それとも美音自身がどこかで勘違いをしているのか―――もう一度、考え直す必要があった。


そしてその日の訓練から数日後、『ファルシオン』初陣が決まった。


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