第二十三話 VSアイリス
そして、大体2時間くらいの休憩の後、2回戦が始まった。
相手は、Sランク冒険者のアイリスという女性だった。オッズは3。数字だけを見れば、かなり強そうだ。
彼女の武器は見間違えていなければレイピアのようだ。左手には盾を持っている。
「第98回セントラル闘技大会その2回戦を始めます。まず右手はSSランクにもっとも近いとされているSランク冒険者、アイリス選手。『ウオオォォォォォオオ!!』そして左手再び魅せてくれるのでしょうか今回のダークホースのレックス選手。今回の審判は、私フランが勤めさせていただきます。……試合始め」
彼女がフィールドに立つと共に、会場が盛り上がる。
俺のときは何もなかった。少しだけ悲しいような気がする。
今回も、前触れなく試合が始まる。前の試合の時のように様子見などなく、そんなものは必要ない!と言わんばかりのスピードで始まると同時に突進をしてきた。
だが、動きは直線的なもので、余裕で避わすことができた。今回は魔法が制限されていないので、レイピアの刀身は淡く光っている。そして、突き出されたレイピアを俺がかわすと同時に目の前を炎が支配した。
直撃はしなかったが、いきなり目の前に現れた炎の勢いによって、場所を後退させられた。……強い。即座にあれだけの魔力を練り上げることのできるとは、流石Sランクの冒険者なだけはある。そう思った一瞬だった。
「シッ!!」
気合の入った声と共に、炎を纏ったレイピアが再び突き出され、先ほどと同じように炎が舞い上がる。今回は、先ほどのようにぎりぎりで避けることはせずに、少し余裕を持って避ける。そのため、彼女と俺の間に舞う炎は虚しく消え去る。
刺突武器であるレイピアは、切れない変わりに突くことに特化している。逆を言えば、切るという行為ができない武器である。ということは、相手の武器は常に突き出され、振り下ろされたり、なぎ払われたりすることが無い。他の武器でもいえるが、常に相手の目を見ていれば、回避することはそう難しいことではない。もちろん出される攻撃を避ける事のできる身体能力と、ある程度の視力は必要であるが。
ある程度攻撃に目が慣れ、少しづつではあるが余裕が出てきた。
一度大きく後にとび、間を開く。そして、地面に着地すると同時に地面を蹴り反撃に出る。空中で剣を抜き、自分の間合いに入ると同時に縦に剣を振りぬく。攻撃は避けられたが、流れをこちら側に引きずり込むことがでた。
標的を捉えることのできなかった剣は、そのまま地面に刺さり2メートルほど地面を切り裂きながら動きが止まる。剣がすぐに抜けないと判断し、すぐさま体術切り替える。手と足を使い殴る蹴るの動作を繰り返し時々フェイントを混ぜながら攻撃していく。
だが、相手はSランクだ。攻撃は1度も当たることは無かった。少し悔しい。だが、だんだん壁際に近づいていった。そして彼女の背が壁についた。ここまでこれば、素人でも分かる。最大のチャンスだということが。だが、そのときの彼女の顔は、不敵な笑みを浮かべていた。追い詰められたときの顔ではなく、獲物を追う豹の顔だった。俺そのことにへんな違和感を感じながらも、相手を気絶させるくらいの力を込めて、渾身の一撃を当てるべく腕を振り上げ、振り下ろす。そのとき、俺の中で電撃が走った。
―――このまま攻撃すると危ない―――
その直感にすぐさま従い、腕を止めようとする。が、すでにかなりの勢いがついた拳を止めることは叶わず、その拳は彼女の後ろの壁当たり、その勢いを失った。だが、懸命な脳からの命令のおかげか拳の勢いは弱まり壁を殴っただけですんだ。もしあのままの強さで打ち込んでいたらもしかしたら壁に埋まっていたのかもしれない。
そして、ピリピリと頭の中で警報が鳴り響く。―――早くその場から離れろ―――と。
すぐさまその場所から《縮地》を使った。一瞬の溜めのあと何かに引っ張られるようにその場所から退避した。その直後今さっきまでいた場所から発せられた轟音が会場内を支配した。
非殺傷用のキャップをつけているとはいえ、あの勢いではかなりのダメージを負うことになっていただろう。自らの行動に自画自賛しておき、さっきまでいた場所を見る。かなり晴れてきた砂埃の中に、人影が見えた。
「あれ?いないわ。……あぁ、あんなところにいる。よく避わせたわね。結構いい作戦だと思ったんだけどなぁ…」
「いやいや、あんたもなかなかいい性格をしてるよ。わざと壁際まで追い詰められて、その後に反撃するなんてさ」
「でも、よく分かったわね。私が壁を蹴ってあなたの後ろにいたこと。参考程度に教えて欲しいわ。あと、どうやってあの状態から逃げ出せたのか」
彼女は、あの瞬間壁を蹴り俺の後ろにいた。あまりにも突然で、直後に砂煙が立ったため、分かりにくく、また速かったため消えたように見えた。
「最初に違和感を持ったのは、あんたの背が壁に当たったとき。あんたはあまりにもその状況じゃあわない顔してたんだよ」
あのときの顔は、狩られる側ではなく、逆の狩る側の顔だった。それが最初の違和感だった。
「そして、俺が攻撃を当てようとしたとき、一瞬魔力が感じ取れた。たぶん、蹴るときに使ったんだろうけど、それがもう1つの違和感だ」
「それじゃあ、もし魔力を使わずにあの状態から切り抜けていたら、私は今頃あなたとの勝負に勝っていたのかしら?」
「認めたくは無いが、たぶんそうだと思う」
「なら、あの状態からどうやって抜け出したのかしら?」
「それは、秘密です」
「あら、そうなの?それじゃあ仕方ないわね。そろそろ始めましょうかしら?」
「ああ、そうだな。周りも早くしろって言ってるみたいだし」
俺がそういい終わると、一拍を置いてから目の前にいたアイリスが脚に魔力を込めて駆け出してきた。普通に避けようとしてもおそらく間に合わないだろうし、かといって《縮地》を使えば見逃せない無駄が出てくるため、《ステップ》を使って少し間合いをとった。
《ステップ》は出が早く、また前後左右に動けるためかなり便利なスキルである。だが、移動距離が短い。せいぜい一歩~一歩半といったところだ。1対1の接近戦ならばこれで十分だが、1対多や、図体のでかいモブの時には《縮地》の方が役に立つときも多々ある。魔法使いの範囲攻撃のときは言うまでもあるまい。
《ステップ》を使った先には、地面にブッ刺したままにしてあった、愛用の剣(その割には最近は地面に刺さっていることが多いような……)を地面からバカ力で抜き、構える。剣に軽く魔力を纏わし、それを前方に放つように宙を切り裂く。
すると、剣に纏わしてあった闇の魔力は、魔力の刃となって前方に飛んでいった。すばやく反応したアイリスは、飛んできた魔力の塊に対して、己のレイピアに自身の魔力を纏わせ対抗した。
それぞれの力によって相殺しあった魔力は、行き場を失いその場で消え去り余韻として暴風を残した。
「チッ、あれにあわせるか…。やっぱ中途半端な攻撃じゃダメだな」
大丈夫だとは思っていたのだが、どうしても不安がぬぐえなかったため使わなかった《筋力1段階上昇》と、《攻撃魔力1段階上昇》を併用し、さらに攻撃力を底上げする。
そして、俺も自身の脚に魔力を通し、脚力をあげる。脚力を上げるスキルもあるにはあるのだが、上昇値が固定でいきなり早さが変わるため意外と扱いにくい。クリスのときは緊急だったから最大値直前まで一気に引き上げたが、今回は急を要するほどではないから魔力を通しておくだけでもいい。
SIDEアイリス
いきなり速さとそれぞれの威力が上がったことに対応できずに、私は防御を誤った。とっさにレイピアのほうで防いでしまったが、基本的に剣は横からの攻撃に弱い。レイピアなどの細長い武器はさらに華奢だ。そのためいつもは盾で受け止めるか、レイピアのほうなら威力を受け流していたのだが、今回は受け流しきれずにそれは半ばほどから折れた。結構高かった武器だったのに……と、悔やむ暇もなく今戦っているレックスの攻撃を反射神経で避ける。だが、これまでは素手であったし先ほども武器を使って体を守ったほどだ。しっかりと剣というものを習っていないだからこそ生まれる変幻自在の攻撃を避け続けるのはなかなかに難しい。なんせ今までは基礎ができた者と戦ってきたのであったから、ある程度のパターンがあった。だが、彼にはそういうものがない。つまり、今までの経験を完全には生かすことができないのだ。
無論盗賊などは、ほとんどが我流のもので彼と似ているところもあるが、なんせ弱いのだ。隙だらけの攻撃を余裕をもって避け、その隙に喉や心臓を一刺しにする。そのため大概は5分と持たない。だが彼はどうだ。隙があるにはあるが、そこを突けば蛇どころかドラゴンが出てきそうで突くにつけない。
1発で意識を飛ばされるほどに威力を秘めた攻撃をぎりぎりで回避や盾で守るために精神がガンガン削られていくのが手に取るようにわかる。このままではジリ貧だ。かといってこの状況を打破するほどの策もなければ、最低限必要な武器もないし、魔法を唱えるほどの余裕もない。こんなときに無詠唱ができたら、と思うが、かなりの高難度なテクニックだ。この状況では諦めざるをおえない。
だんだんと被弾するものも増えてきた。まだ掠る程度なので動ける。逆を言えばそれだけ余裕がなくなってきたと言えよう。少し前までは相手のスタミナを切れるのを待とうと思っていたが、それもなさそうだ。最初から同じように同じ威力を含みながらせまい来る剣を5分以上永遠に見続ければそう思えてくるだろう。それに彼の強烈な攻撃の嵐に耐え切れずに左に持っていた盾も先ほど崩壊した。
それに彼の持つ大剣には常に魔力が纏わりついている。よくここまで常に維持できる魔力を持ち続けることができるものだ。でも、やったことはないけど、たぶん自分もできる。と自らを奮い立たせ何度目かも分からない攻撃を避ける。ここまで来た時点で端から思っていなかったが、ただのDランク冒険者ではない。と、今はさらに強く思う。
だが、ついにそのときがやってきた。先ほど盾が壊れ攻撃をいなすのにも限界だったから仕方がない。首元に迫り来る刃を避けることができず、かといってそれを防ぐすべもなかったのだ。首革1枚のところで大剣の刃が止まったのは奇跡なのか、それとも彼の実力なのか。それは分からないが、大変よかったことだ。そのおかげで私は死ぬことがなくかつ彼も強制退場させられることもなかったのだから。伝統あるこの大会が最後で不戦勝というのは、次に当たる選手もこれの主催者である王国にも不本意であろうから。
この試合が終わった瞬間、先ほどまで張り詰めいた緊張の糸がプツリと切れ、私の膝は言うことを聞かないかった。身体が重い。だるい。しんどい。一刻も早くこの体を地面に投げ出し休みたい。その気持ちを振り払い、前の試合で彼がしていたことを思い出し、彼より早くに手を出す。そのことに彼は一瞬驚いたようだ。ここら辺ではこのような習慣はないので少し不恰好かもしれない。だがそれでも彼のしていたことは、戦った相手に対して敬意を示しているのではないかと考えている。もし間違っていても、そういう気持ちがあるだけで、良いのではないかとおもえてくる。
「2回戦第1試合、アイリス選手対レックス選手の試合は、なんとなんと再びレックス選手の勝利です。それにしても今回も爽やかですねぇ~。しかも今回はレックス選手からではなく、アイリス選手からだ。このことに何か意味はあるのでしょうか?」
試合が終わり、すぐに会場に入ってきたのはここの治療術師だろう。あとは彼女たち(女性を運ぶため女性を派遣)に任せておけば、次に目を覚ますころには治療は終わっているだろう。今は、この欲求にみを任せるとし…ま…すか……。
SIDEレックス
それにしても、この審判は何かと失礼なやつだと思う。普通にレックス選手の勝利といえばいいものをなんとを2回も言ってからの宣言だ。確かにここで勝つことのできるDランクの人などそうそういないだろうが…いや、まあいいや。何を言っても解決はしない。
それにしても彼女の方から握手をするために手を出してくるとは思わなかった。いきなりだったから少し驚いた。それにしても彼女はあれの意味を分かっていたのだろうか?別にどうでもいいが。
だが、次は決勝だ。気を引き締めていかなければいけない。次の対戦者はえぇっとアリアか……。ん?どこかで聞いたことのあるような…。
あ、あの森で会った人か!あれから結構立ったけど、あの人すごく強そうだった。アイリスさんもかなり強かったけど、彼女もたぶん強い。ここまで残っているから弱いことはないだろう。さて楽しみだ。
まずはじめに…
大変遅くなってすいません!!
理由として大体3つほど。
1つ リアルの方が忙しい。
具体的には行事ごとがあった。定期テストのため。
2つ 上記のため長い間執筆時間が取れなかったため、書きなれていなかった。
3つ 前述したものを差しひいても残る自分の文才の無さのため。
以上でございます。
そしておそらくこれからも長い間期間が開くと思います。ご了承ください。




