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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

僕の騎士様は竹馬に乗ってる

作者: 善玉令嬢
掲載日:2026/05/22


――カポーン!! カポーン!! カポーン!!


大陸中央にその栄華を誇る、シマス王国の堅牢なる城門。

遥か彼方から聞こえる、馬達が大地を踏破する音に混じり聞こえる、どこか間抜けな、しかし、どこか不穏な重低音が迫っていた。


「おい、見ろ……あれは何だ!?」

見張りの衛兵が、引きつった声を上げる。


地平線を埋め尽くす、騎馬隊。

パカパカと小気味よい蹄の音を響かせる馬群――その最前線、あろうことか総大将の男だけは、馬に乗っていなかった。


「ハハハハハ! 待たせたなァ、シマス王国ぅ!!」


ぎらりと光る謎のゴーグル。

手にするは、大見得を切って構えられた一対の双剣。

そして男の足元にあるのは――馬の背丈を遥かに超える、超高床の**『竹馬』**であった!


「カポーン! カポーン!」と凄まじい駆動音を響かせ、馬と完全に同速で爆走するその男こそ、辺境の島国ガエムの王子にして、大陸南部を瞬く間に制圧して、中央に迫る暴嵐の獅子、プロウフト!


「若、ピークを持ってくるには、まだ早いですぞ! 」

すぐ横を並走する、愛馬に跨がった若き側近のオグラがクールに忠告する。


「あん!? 俺様は何時だって今がピークなんだよ! 行くぞぉおおお! 野郎どもおおおお!」


うおおおおお! と大地を震えさせるような腹の底から出される男達の無骨な低音の咆哮が聞こえる。

オグラはやれやれと言いたげな様子だが、既に諦めてる。


プロウフトは爆走の勢いのまま、竹馬を踏み台にして天空へと大跳躍!

落ちてくる太陽を背に、二つの巨大な刃が閃光を描く。


――プロウフト流二剣奥義・城門粉砕!!


ドシャアアアアアン!!!と、王国の誇る鉄壁の城門が、粉砕される。

奥義名ダサァ! とシマス兵達からツッコミが入るも、気にはしないのだ。

竹馬で着地したプロウフトは、轟音と土煙の中で吼える。


「俺様に続けええええ! 」


こうして、のちに「災厄の凶兆」と呼ばれることになる竹馬の軍勢が、シマス王宮へと文字通り殴り込みを果たしたのである。



■■■■



――その頃、王宮の絢爛豪華な大夜会では、そんな天災の接近など露知らず、実につまらない『婚約破棄の断罪劇』が絶頂を迎えようとしていた……



「コレア! 俺はお前との婚約を破棄する! お前はリューヌを執拗に虐げた! 」


シマス王国の王立魔法学園。貴族が通うことを義務付けられている学園の夜会で、王太子たるデキアイ=シマスにより公爵令嬢のコレア=オーメイが、平民の特待生リューヌを虐げた罪で婚約破棄されようとしていた。


王太子の側近達や、高位の子息達も全員がリューヌの味方に付き、コレアや自分達の婚約者たる令嬢達から守るように立ちはだかる。


しかし、コレアや令嬢達は、余裕の表情と平民のリューヌをゴミを見る目で見る。


「まず、この婚約にあなた方の意思は介在しませんわ。これは、王命。平民と結婚? ならば平民になればよろしくてよ?」


「王子ぃ~、コレア様が虐めるぅ~」


リューヌは目をウルウルさせて、庇護欲をそそる仕草でデキアイにしがみつく。デキアイや子息達はおのれ! と令嬢達への怒りを露にする。


コレア達は、婚約者達に呆れ返りながらも、示し会わせたように、魔法の詠唱の準備に入る。


「皆さん? 準備はよろしくて? 高位解除魔法 【ペステル】」


シャンデリアの光を浴びて、コレアの鋭い声が響き渡った。

コレアが放った高位の解除魔法の光が人だかりを包んだ瞬間、すべてが瓦解した。


「う、嘘……魔法が、解けて……?」


リューヌの顔からササーっと、血の気が引いていく。

王太子デキアイをはじめ、周囲の高位男子貴族たちの瞳から、怪しげなピンク色の光が急速に消えていくのが見えた。彼らを縛っていたリューヌの「魅了魔法」が、白日のもとに晒されたのだ。


「う、うおおおっ!? 俺は一体何を……! っ! 寄るなぁ! 平民風情がぁ! 」


「僕はなぜ、こんな平民の小娘に家宝の指輪を貢いでいたんだ!?」


騎士団長子息と魔法師団長子息の伯爵家子息。

正気に戻った側近たちが、己の過ちに気づいて頭を抱え、ガタガタと震え出す。


そして、最も激しく激昂したのは、他ならぬシマス王国のプリンス、デキアイ=シマスであった。

デキアイは信じられないものを見る目でリューヌを突き放すと、自身の美しい金髪をかき上げ、狂おしいほどの怒りを込めて吠えた。


「おのれ、汚らわしい平民め! この俺の、世界の宝である、コレアをそんな汚いやり方で苦しめたと言うのか······! 許さない······殺してやるぞ······! 」


「王太子殿下! 僕は、僕はそんなつもりじゃ……っ!」


リューヌは涙を浮かべ、哀れな被害者を演じようとすがる。だが、周囲の貴族たちの目は冷酷そのものだった。誰も平民の特待生など助けるはずがない。


その様子を、コレアは扇子で口元を隠しながら、勝ち誇った笑みで見下ろした。


(平民風情が分不相応な夢を見ましたわね)


プリンスであるデキアイが剣を抜き、今にもリューヌに斬りかからんとしている。

周囲にも、剣を抜いた近衛騎士達が囲んでおり、逃げ場は何処にも無い。


「ひっ……! お願い······助けてよ······! 」


「リューヌさん。 平民が貴族に逆らう事を許せば、国家は崩壊します。 貴女が悪いんですよ? 」


顔が、ありとあらゆる液でくじゃくじゃな、醜く命乞いするリューヌを見下すように、コレアは言い捨てた。


(終わった……僕の人生、ここで終わりなの!?)


リューネが絶望に目を血走らせ、床の絨毯をキリキリと爪で引っ掻いた――まさにその瞬間であった。


地響きと共に、王宮の遙か彼方から「カポーン!! カポーン!!」という、この世の終わりみたいな駆動音が爆音で迫ってきたのは。


「押し通るッ!!!」


地響きと共に大夜会の絢爛たる扉がブチ破られ、文字通り「壁ごと」崩落した。


もうもうと立ち込める硝煙と土煙。

悲鳴を上げて逃げ惑う貴族たちの中心で、真っ先に動いたのは平民の特待生、リューヌであった。


(何が起きたか知らないけど……使えるッ!)


床に這いつくばりながら、リューヌは獰猛に目を光らせる。

コレア達にハメられ、デキアイに殺されそうな絶体絶命だった断罪の舞台。

だが、この大混乱に乗じて乱入者を「新たな宿主サイフ」に乗り換えれば、一発逆転の芽はある。



土煙の向こうから「カポーン、カポーン」と、間の抜けた、しかし重苦しい音が響く。

現れたのは、ギラリと光るゴーグルを着用し、不敵な笑みを浮かべて超高床の竹馬に跨る男――プロウフト。そして、馬に乗ったまま、壁の残骸を踏み越えてきた、冷徹な眼差しの側近・オグラであった。あと手下大勢。



プロウフトは竹馬の上で二振りの双剣を鮮やかにクロスさせ、大見得を切る。


「俺様はガエムの獅子、プロウフト! この国、まるごと奪いに来たぜェ!!」


しかし、会場を包んだのは、水を打ったような静寂だった。


「······は? 」


デキアイ王太子が眉をひそめる。


「何だあの男は。……竹馬? それに、ゴーグル? シマス王国の最先端ファッションに対する嫌がらせか?」


「あらあら。どこの蛮族かと思えば、道化のドッキリですわね」


コレアをはじめとする令嬢たちも、完全に白けきった目でクスクスと失笑を漏らす。場違いすぎる竹馬の男に、シマス王国のエリートたちは危機感を抱くことすら忘れていた。


そんな隙だらけの強者に向け、リューヌは狂気的な笑みを浮かべて跳ね起きた。


(かかった! 僕の【極・大魅了魔法カタストロフ・チャーム】で、その脳みそ丸ごと僕の奴隷にしてやるよぉ!!)


「お、お助けください、僕の新しい旦那様ぁーーっ!!」


リューヌが両手を突き出すと同時に、夜会会場の空気が一変する。視界を埋め尽くすほどの、禍々しくも甘美なピンク色の魔力の嵐。それは対峙した男を確実に精神から破壊し、従順な犬へと変える、特待生リューヌの最大出力の切り札だった。


魔力の濁流が、まっすぐにプロウフトを直撃する――!


(ハイ。勝ちぃいいいいい! )


リューヌは勝利を確信し、高らかに笑おうとした。


――パシィィィンッ。


しかし······

ピンクの魔力光は、プロウフトの着用していたゴーグルのレンズにベシャリと当たり、まるで撥水スプレーをかけたかのように綺麗に霧散した。


「あん? 」


プロウフトは髪を少し気に障るようにいじり、平然とした顔で首を傾げる。


「なんか今、ネチョってしたのが、かかった気がしたな? 」


(この女······魅了魔法の使い手か? )


オグラは、馬上で表情を崩さぬながらも、リューヌの魅了の力を解析する。


「嘘……でしょ……!?」


リューヌは、突き出した両手のまま硬直した。

今のは、並の常人なら一瞬で廃人になり、生涯リューヌの奴隷になるレベルの精神攻撃だ。


(この男……裏表がなさすぎて、脳みそまで竹馬でできてんのかよ!?)


リューヌのハッタリ魔法が、人生で初めて「完全不発」に終わった瞬間であった。



(あらあら。当てが外れたみたいね)


コレアは扇子をバサリと広げ、心の奥底で勝ち誇る。


会場は既に厳戒態勢モードになっている。近衛騎士と衛兵達が、竹馬に乗った男達を取り囲む。


デキアイ王太子もまた、鼻で笑いながら顎を突き出した。


「フッ、命知らずな野生のケダモノめ。だが、南部を平定した力だけは評価してやらんこともない。おい蛮族、ひれ伏して俺の配下になれ。さすれば命だけは助けてやる」


「若」と、馬上のオグラが、ぼそりと呟いた。


「耳が腐りそうな戯言です。処理いたしますか? 」


「おうよ。……オグラ、踏みカタパルトだ!!」


「はっ! 」


オグラが愛馬の手綱を引き、プロウフトの竹馬の足を全力で蹴り上げる。

バチィィィン!!と火花が散り、プロウフトの身体が夜会会場の天井に向けて弾け飛んだ。


「なっ、跳んだ――!?」


デキアイが驚愕に見開いた瞳に、ゴーグルのレンズがキラーンと不敵に光る。


「シマス王太子ぃ! オメーを始末シマスうぅうううう!!」


天空で身を翻し、二振りの大刀が猛烈な勢いで回転を始める。


――プロウフト流二剣奥義・竹馬ビッグスピン斬り!!!


まさに、一閃。

凄まじい斬撃の風圧が会場のシャンデリアを粉々に砕き、次の瞬間――流れるような動作で、デキアイ=シマス王太子の首が綺麗に宙を舞った。


「え」


コレアの顔に、温かい「何か」が飛び散る。それが先ほどまで婚約者だった男の鮮血だと理解した瞬間、夜会会場は絶叫の坩堝るつぼへと叩き落とされた。


「ひぃぃぃぃぃあぁぁぁあああーーーっ!?」


「殿下ぁーーーっ!?」


着地したプロウフトは双剣の血をパシャリと払い、獰猛な肉食獣の笑みを浮かべた。


「あァ? 何勘違いしてんだお前ら? 俺様達はオメーらの首、取りに来てんだけど? 死にてぇ奴から前に出な!! 」


そこからは、文字通りの暴風雨だった。

「カポーン! カポーン!」と竹馬でステップを踏みながら、プロウフトは圧倒的なスピードで蹂躙する。

重装歩兵達が、次々と紙のように吹き飛ばされて行く。

オグラは特にやる事が無いため、馬上で待機、手下達はプロウフトに声援を送っている。


地獄絵図の中、生首となったデキアイのすぐ横で、リューヌは全身の毛穴が収縮するほどの恐怖に震えていた。しかし、持ち前のド根性が彼女の顔に「狂気の笑み」を張り付かせる。


(死ぬ、このままだと僕も殺される……! なら、乗っかるしかない!!)


リューネは返り血を浴びた顔でクハハと不敵に笑ってみせ、プロウフトを見上げた。


「ふふふ……さすがはプロウフト様! 全ては僕の計画通り……このシマス王国を内側から弱らせ、貴方様を迎え入れる最高のタイミングでしたよ!」


明らかな後付けの大嘘。

だが、その様子を馬の上から観察していたオグラが、何やら物思いにふける。


(――ほう。王太子が死んだ直後にこのハッタリか)


オグラはプロウフトの前に馬を進めると、毅然と言い放った。


「若。手を止められよ。……この女、拾います」


「あん? コイツ仲間にすんのか? 」


「はっ。大陸を北上するにつれ、帝国や聖国といった強力な魔術師を擁する国が増えます。我らガエム人は魔法が一切使えぬ身。この女の『魅了魔法』、今後の戦力として連れて行くべしと宣言いたします」


「ギャハハハ! どっちにしろ、俺様も連れてく予定だった! おいお前、今日から俺様たちの仲間な!」


プロウフトの豪快な声が響く中、リューネは(助かった……!)と、心の中でガッツポーズを決めるのだった。


╴╴╴╴


「ひ、ひえぇぇっ! 降伏だ、降伏するぅ!」


シマス王国の国王が、玉座の上で涙目で両手を挙げた。

プロウフトが竹馬に乗ったまま玉座の間に突入し、オグラがデキアイ王太子や高位子息たちの生首をゴロゴロと床に転がした瞬間のことである。


戦闘開始からわずか数十分。王国の心臓部は、あっけなく辺境の蛮族の手に落とされた。


╴╴╴╴


一方その頃――静まり返った大夜会会場。


公爵令嬢コレア=オーメイだけは、腰を抜かしたまま動けずにいた。


「お願い······! 許して······リューヌさん······」


ガチガチと歯を鳴らすコレアの耳に、ヒールが血溜まりを踏む「ベチャリ、ベチャリ」という重い音が近づいてくる。

プロウフトから譲り受けた双剣の片割れをダラリと引きずり、返り血で顔を染めたリューヌが立っていた。

共にリューヌを陥れた高位子息達の婚約者である令嬢達は既にリューヌに皆殺しにされ、恐怖と苦痛で顔を歪め血まみれで倒れている。


「さっきまでの余裕そうな顔はどうしたの? コレア様ぁ? 」


「お願いお願いお願いお願い······! そうだ! 私の侍女として仕えない!? 貴族にもしてあげるわ! 」


持ちかけられる美味しすぎる提案、しかしリューヌの瞳からハイライトが消え、狂気の笑みが広がる。


「いらねーよ。カス」


「いや、いやぁぁぁあああーーーっ!!」


コレアの命は終わり、彼女の断末魔たる絶叫が響き渡る。夜会の会場は血の海に染まった。



◆◆◆◆



それから数日後。

次の標的である「大陸北部」の魔法国家群へ向け、プロウフト率いるガエム軍は荒野を驀進していた。


パカパカパカパカ!と蹄の音を響かせ、馬を駆るオグラや手下たち。

そしてその先頭を、相変わらず「カポーン!! カポーン!!」と怪音を立てて爆走する竹馬のプロウフト。


しかし、今日の軍勢には、もう一つ奇妙な「カポーン」が混ざっていた。


「ちょっと待って!! なんで僕まで竹馬移動なのォーーッ!?」


見れば、プロウフトの隣で、生まれたての小鹿のように膝をガクガクと震わせ、必死の形相で竹馬を漕いでいるリューヌの姿があった。


馬上のオグラが、冷徹な視線をリューヌに向けた。


「我が軍の進撃速度に馬なしでついてくるには、竹馬しかあるまい。魔法大国との決戦を前に脚力を鍛えよ。遅れる者は容赦なく置いていく」


「無茶苦茶言わないでよぉ! 僕は魔術師!! 物理特化の脳筋共と一緒にするなー!!」


涙目で絶叫するリューヌを置き去りにする勢いで、プロウフトが竹馬の上で高笑いを上げる。ゴーグルが太陽を反射してギラリと輝いた。


「ひええええええ嘘でしょおおおーーーっ!!」


地平線の彼方へ向かって、爆速で遠ざかっていく二台の竹馬と騎馬集団。

リューヌの哀れな叫び声がこだまする······



戦いは続く! が、ここで一区切り。


後にリューヌが竹馬の魔女として、プロウフト達と大陸を制覇するのは、また別のお話。







最後までお読みいただき、ありがとうございました!


テンプレな婚約破棄ざまぁの会場に、話の通じないフィジカルモンスターを突入させてみたら、と着想を。




ちなみに、プロウフトの竹馬は時速60km以上で駆動しています。

巻き込まれたヒロイン、リューヌの明日はどっちだ?


俺達の戦いは、これからなんだが?








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