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S級暗殺者、パティシエになる ースイーツのスの字も知らない男の奮闘記ー  作者: 仁科異邦


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2/16

元暗殺者、初めてのプリン作り

 翌朝。

 城は父のA5サイズの古いレシピノートを開く。

 表紙に「レシピ」と几帳面な字で書いてある。父らしかった。

 最初のページをめくる。


プリン 卵 3個

牛乳 300ml 砂糖 60g

バニラエッセンス 少々

カラメル:砂糖50g、水大さじ1


卵を溶き、砂糖を加えてよく混ぜる。

温めた牛乳を少しずつ加える。

漉してカップに注ぎ、湯せんで蒸す。


 城はレシピを三回読んだ。

 うん、と頷く。

「簡単そうだな」

 この一言が、全ての始まり(終わり)だった。



 まず材料を買いに行った。

 スーパーで卵と牛乳と砂糖とバニラエッセンスを買う。

バニラエッセンスというものがどれか分からなかったので、店員さんらしき人に声をかけて教えてもらった。

それ以外は大した問題はなかった。


 帰宅して、厨房に立つ。

 道具を並べる。

 ボウル、泡立て器、鍋、父が遺したプリン型が棚の奥にあった。

 レシピをもう一度読む。


 「卵を溶き」

 城は卵を三個割った。ボウルに入れる。

 「あ、殻が入った‥取るか」


 泡立て器を手に取る。

 溶く、とは混ぜることだ。

 混ぜるならしっかり混ぜた方がいい。均一に、丁寧に。

 城は二分間、全力で卵を泡立てた。

 ふわふわの泡が立った。完璧に均一だった。

 (こういうのは得意だからな)


 「あとは‥砂糖を加えてよく混ぜる」

 砂糖を加えた。さらに混ぜた。


 「温めた牛乳を少しずつ加える」

 鍋に牛乳を入れ、火にかけた。温まったところで少しずつ加える。

 これは分かりやすかった。

 「それでカラメルを作るっと‥カラメルってなんだ?」

 ネットで調べる。

 (なるほど、これがカラメルか)

 砂糖五十グラムと水を鍋に入れる。火にかける。


 レシピには「弱火でゆっくり」とあるが、城は弱火というものを考えた。

 火は強くするほど効率がいいはずだ。


 弱火は時間がかかる。

 弱火でゆっくりと書いてあるが、要するに砂糖を溶かして色をつければいいのだろう。

 だったら強火の方が絶対早い。


 最大火力で加熱した。

 三十秒後、白煙が上がった。


 真っ黒なものが鍋の底に貼りついていた。

 焦げ臭い匂いが厨房に充満した。

 「ゲホゲホッ‥」


 城は鍋を流しに置いた。

 気を取り直す。カラメルは後回しにしよう。

 プリン液の方を先に進める。

 「漉してカップに注ぐ」

 漉す、とはザルで濾すことだと理解した。

 よし、やった。問題ない。


 「湯せんで蒸す」

 湯せん、それはお湯を使って蒸すことだ。


 つまりお湯の中に入れて加熱するという事だろう

 城は鍋に湯を沸かし、プリン型を“そのまま“湯に沈めた。

 蓋をして、十五分待った。


 引き上げた。

 型を傾けると、ドロドロした液体が流れ出た。

 当然固まっていなかった。

--- 

 城は三秒、それを見つめた。

 もう一度レシピを読んだ。

 もしかしたら暗号があるかもしれない。

 傾けて読んだり、逆さにして読んだりした。

 しかし何が間違っているのか、分からなかった。



 二回目の挑戦。

 今度こそカラメルも作る。

 鍋に砂糖と水を入れ、今度は弱火にした。

 じっと待つ。

 一分。

 二分。

 三分。

 変化なし。

 (遅い、任務でこれだけ待てと言われたら普通に待てるが、何も起きないのは精神的にくる)

 五分後、砂糖がようやく溶け始めた。

 七分後、うっすら色がついてきた。

 (よっしゃ!あ、まだそんなにすぐ変化しないだろうからトイレ行こう)


 九分後、戻ってきたら真っ黒になっていた。

 城は鍋を流しに置いた。

 二個目が終わった。


 三回目。

 カラメルは諦めた。

 プリン本体に集中する。

 今度は前回の失敗を踏まえ、プリン液を鍋で直接温めてから型に注ぐことにした。

 レシピにはそんなことは書いていないが、温めた方が固まりやすいはずだ。

 俺は論理的だと思った。


 百度近くまで温めた液体を型に注いだ。

 そしてオーブンで蒸した。

 10分後に取り出して型を外した。

 (これで完成だな、余裕)


 プリンの形はしていた。

 しかし断面が——穴だらけだった。

 “す“が入っていた。

 まるでスポンジのように気泡が散らばっている。

 城は床に膝をついて倒れる。


 俺は10年間、依頼達成率百パーセントだった。  

 敵の動線を三百メートル先から読み、完璧なタイミングで引き金を引いてきた。  

 なぜプリン一つが出来ない、解せん‥

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