37話
俺はコマンダーの視界を通して奇妙な二人組を観察し続けた。
彼らが友好的なのか、人間と同じように俺たちを敵対視するのかは分からない。 だが、あの二人が纏っている空気は以前襲ってきた冒険者たちとは比べ物にならないほど濃密で、鋭い……!
「グルル……?(主よ、どうする……?)」
コマンダーが冷や汗をかきながら指示を求めてくる。 俺の直感が警鐘を鳴らしている。 こいつらはヤバい。絶対に手を出すな、と。
(待て。迂闊に手を出すな。まずは相手のステータスを見る!)
俺は震える意識を集中させ、彼らのステータスを覗き見た。
♢ ♢ ♢
名前: ヴォルグ
種族: 魔族(B級下位冒険者)
Lv: 32 HP: 850/850 | MP: 120/120
STR (筋力): 85
VIT (体力): 74
AGI (敏捷): 62
INT (知力): 31
特技
[大剣術 (Lv.4)]: 大剣による強力な一撃。岩をも砕く威力を持つ。
[魔力撃 (Lv.2)]: 武器に魔力を纏わせ、破壊力を底上げする。
[身体強化 (Lv.3)]: 一時的に身体能力を大幅に向上させる。
♢ ♢ ♢
名前: ミラ
種族: 魔族(B級下位冒険者)
Lv: 30 HP: 400/400 | MP: 600/600
STR (筋力): 23
VIT (体力): 34
AGI (敏捷): 55
INT (知力): 97
特技
[闇魔法 (Lv.4)]: 闇属性の中級魔法を行使する。
[探知 (Lv.3)]: 周囲の魔力や生体反応を探る。
[魔法障壁 (Lv.2)]: 魔法的な防御壁を展開する。
♢ ♢ ♢
(な……っ!?)
俺は絶句した。
Lv.30オーバー……!? ヴォルグのSTR 85、ミラのINT 90……。
自慢のエース[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフや [N]ヒーロー・ゴブリン・コマンダーが足元に及ばない──!?
(倍以上……いや、スキルを含めればそれ以上の差があるぞ)
今まで戦ってきた[N]ランクの魔物や襲ってきた人間の冒険者とは次元が違う。
「……ん?」
ふと、女の方──ミラが杖を掲げて森の方角へ視線を向けた気がした。
「どうした、ミラ」
「……いえ、微かな気配がしたような。気のせいかしら」
(ッ!?)
心臓が止まりそうになる。 [N]ゴブリン・レンジャーの[隠密]ですら看破されかけたのか?
「小動物か何かだろう。さっさと調査を済ませてザルドラへ戻るぞ。こんな湿気た場所、長居したくもない」
「ええ、そうね」
二人はそのまま川沿いを歩き、森の奥──俺たちの拠点とは違う方向へと歩き去っていった。
(た、助かった……)
俺はへたり込みそうになる精神を必死に支えコマンダーたちに撤退を命じた。
世界は俺が思っているよりずっと広く、そして恐ろしい場所だった。 あんな奴らがうろついている場所で俺たちは今まで呑気に暮らしていたのか。
(もっと……もっと強くならなきゃみんなを守れない!)
俺は強烈な危機感を抱きながら、拠点への帰還を急がせた。
♢ ♢ ♢
[現在の拠点状況]
拠点名: (未設定・円形の塔)
階層: 6階建て
DP: 6350
訪問者: 1名
召喚中
探索部隊長: [N]ヒーロー・ゴブリン・コマンダー (Lv.19)
防衛部隊長: [N]スケルトン・ガーディアン (Lv.13)
狩猟部隊長: [R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフ (Lv.15)
偵察部隊長: [N]ヴァンパイアバット (Lv.8)
(他、[N][UC][C]ランク多数)
侵入者: なし
その他: 未知の強敵(Lv.30級の魔族冒険者)と遭遇。戦闘を回避。
♢ ♢ ♢
森の木々がざわめく音さえ、先ほど目撃した魔族たちの足音のように聞こえてしまう。
探索部隊と狩猟部隊は、逃げるように迅速に拠点である円形の塔へと帰還した。
[N]ヒーロー・ゴブリン・コマンダーや[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフといったこの拠点の最高戦力たちが、揃って安堵の息を吐いているのが伝わってくる。
それほどまでに、二人の魔族──ヴォルグとミラが放っていたプレッシャーは異質だった。
(……戻れたか)
6階、コアの部屋。 俺は意識を[視点共有]から切り離し、自分自身である石の体へと戻した。
途端に、どっと精神的な疲労が押し寄せてくる。体はないはずなのに、冷や汗でびっしょりと濡れているような不快な錯覚。
「……かみさま?」
不意に心配そうな声が掛かった。
新しい家具が置かれた部屋で[UC]白百合の聖法衣を身にまとったリナが俺を覗き込んでいた。
彼女は手にしていた[UC]乙女の聖杖を胸に抱き、眉をハの字に下げている。
「あの……なんかすごく怖がっているような気がして……大丈夫ですか?」
彼女には分かるのだろうか。
俺が今恐ろしさを目の当たりにし、戦慄していることが。
(……大丈夫だ。ただ、上には上がいると思い知らされただけだ)
俺は努めて平静を装いゆっくりと淡い光を明滅させた。
リナは少しだけホッとしたように表情を緩めたが、それでもまだ不安そうに俺のそばに寄り添い冷たい石の表面をそっと撫でてくれた。
1階からは帰還した部隊の再編を行うコマンダーの怒号と、それを迎えるスケルトン・ガーディアンの骨の音が微かに伝わってくる。
日常が戻ってきた。だが、俺の意識の底には圧倒的なステータスの数字が焼き付いて離れない。
Lv.32。STR 85。INT 97。
今のままでは彼らが気まぐれにこの塔を調査しようとした瞬間、蹂躙される。
子供たちを助け、村人に見送られた英雄気取りの気分は冷水を浴びせられたように消え失せていた。
(……強くならなきゃダメだ。もっと……圧倒的に!)
俺は意識を切り替え現在の資産と戦力を見直した。
DPは6350。 魔族の冒険者や、森の奥に潜む[R]アント・ジェネラルの軍勢に対抗するには今の戦力では心許ない。
「数」で圧倒するか。「質」を極めるか。それとも「陣地」を広げるか。
俺は考える。考え抜いた末に……。
(……決めた。まずはエースを極める!)
魔族の冒険者ヴォルグとミラ。圧倒的な個の暴力に対抗するには数だけでは足りない。
彼らと渡り合える強者が必要だ。
俺は迷うことなく【魔物管理メニュー】を開き、[N]ヒーロー・ゴブリン・コマンダーを選択した。
現在のレベルは19。あと一つ上げればLv.20に到達する。そうすれば進化が出来るはずだ。
(必要DPは……1500か。このLvでDPを使ってLvアップしようとしたらもっと高いと思ってたが……もしかしてもうすぐLvアップする予定だったのかな)
安くはないが、迷っている場合じゃない!
俺はDPを惜しみなく注ぎ込んだ。
DP 6350 → 4850
「グルァッ……!?」
1階の大広間で待機していたコマンダーが、突然の力の奔流に膝をつく。
彼の体から溢れ出す魔力が、周囲の空間をビリビリと震わせる。 そばにいた[N]ホブゴブリンたちが驚いて駆け寄ろうとするがコマンダーはそれを片手で制した。
「グルル……(問題ない。主が、力をくれている……!)」
彼のレベルがついに限界を突破した。
[N] ヒーロー・ゴブリン・コマンダー は Lv.19 → Lv.20 にアップしました!
(来た……!)
俺の脳裏に待ちに待った進化先の選択肢が鮮明に浮かび上がる。
[N]ランクを超え、[R]レアランクへと至る二つの道。
どちらを選ぶかで、この軍団の性質そのものが変わるだろう。
♢ ♢ ♢
【[N]ヒーロー・ゴブリン・コマンダー (Lv.20) の進化先】
[R] ヒーロー・ゴブリン・ジェネラル
進化タイプ: 大軍指揮・統率特化
コスト: 2500 DP
概要: 「将軍」の名を冠する指揮官。[大指揮]が[軍団指揮]に進化し、統率可能範囲と対象数が爆発的に増加する。
特徴: [R]ランク以下の魔物(オークやウルフ含む)を種族問わず統率可能。
スキル: 配下全員のステータスを底上げする[戦陣の号令]や、複数の部隊を同時に動かす[戦術展開]を習得。
[R] ヒーロー・ゴブリン・ウォーロード
進化タイプ: 個武・前線指揮両立
コスト: 2500 DP
概要: 剣術を極め、個人の戦闘力が[R]ランク上位クラスまで跳ね上がる。
特徴: 自らが先陣を切って敵をなぎ倒すことで、周囲の味方を鼓舞するスタイル。
スキル: 敵の防衛線を単騎で粉砕する[覇道の突撃]や、自身と近衛兵の攻撃力を爆発的に高める[血の狂乱]を習得。
♢ ♢ ♢
(軍団を率いる将軍か、先陣を切る猛将か……)
俺は──




