31話
子供たちを背に乗せたウルフ部隊を中心に[N]ヒーロー・ゴブリン・コマンダー率いる探索部隊が周囲を警戒しながら森を進む。
[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフ率いるウルフ部隊と合わせれば俺の最高戦力だ。
だが森の木々がざわめき風向きが変わった瞬間、強烈な悪臭が鼻をついた。
「ブヒヒヒッ!」
「ブゴォォォ!」
(魔物だ! オークの群れ!?)
茂みを踏み荒らし現れたのは野生の[N]オークの集団。
その数、およそ6体。手に手に錆びた斧や棍棒を持ち、よだれを垂らして子供たちを見ている。
「ヒィッ……!」
子供たちが悲鳴を上げ、ウルフの毛を強く掴む。
(全員、子供たちを守れ! 迎撃するんだ!)
俺の号令一下、護衛部隊が動いた。
「グルァ!」
[N]ヒーロー・ゴブリン・コマンダーが剣を抜き放ち、指示を飛ばす。
オークたちは人間を見るや否や、周囲が見えていないのか獲物を見つけたと言わんばかりに突進してきた!
「ブモォォッ!!」
衝突音が響いた。
野生のオークの突進を真正面から受け止めたのは味方の[N]オーク2体だ!
彼らは巨体を盾にして、子供たちの前に壁として立ちはだかった。
「キチチチッ!」
さらに左右から[N]アント・ソルジャー2体が飛び出す。
巨大な大顎で横合いから攻め込もうとした野生オークの足を挟み込み、強引にねじ伏せる。
「え……?」
「戦ってる……?」
ウルフの背中の上で子供たちが呆然と呟いた。
彼らの目には、分たちを襲うはずの恐ろしい魔物が、自分たちを守るために同族を殴り飛ばしている光景が信じられないものとして映っていた。
「ブモォォォ!!」
「グルルルゥゥゥ!!」
味方の[N]オークたちが敵の突進を正面から受け止め、隙間を[N]アント・ソルジャーが縫うように走り敵の足を大顎で破壊する
体勢を崩した敵に、[N]ゴブリン・ファイターたちが飛びかかり急所を的確に突く。 ウルフ部隊は周囲を旋回して撹乱を担当し、敵に反撃の暇を与えない。
「すごい……」
「僕たちを守ってくれてる……?」
子供たちの表情から恐怖が消え、瞳には憧れのような光が宿り始めていた。
「グルァ!(決めるぞ!)」
「ガウッ!」
最後は二体の英雄が動いた。
[N]ヒーロー・ゴブリン・コマンダーが敵のリーダー格が振り下ろした大斧を白銀の剣で受け流し、流れるような連撃で巨体を沈める。
同時に、[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフが銀色の旋風となり、残った敵の喉元を一瞬で食い千切った。
最後のオークが倒れる。
──完全勝利だ。こちらの被害はゼロ。 静寂が戻った森に一拍遅れて爆発的な音が響いた。
「わぁぁぁぁっ!!つよいー!!」
「かっこいい!!」
「ありがとうー!!」
子供たちの歓声だ。
彼らはウルフの背中で手を叩き、ゴブリンやオークたちに向けて笑顔で手を振っていた。
♢ ♢ ♢
[現在の拠点状況]
拠点名: (未設定・円形の塔)
階層: 6階建て
DP: 2100
訪問者: 1名
召喚中:
探索部隊長: [N]ヒーロー・ゴブリン・コマンダー (Lv.18)
防衛部隊長: [N]スケルトン・ガーディアン (Lv.13)
狩猟部隊長: [R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフ (Lv.15)
偵察部隊長: [N]ヴァンパイアバット (Lv.8)
(他、[N][UC][C]ランク多数)
侵入者: なし
その他: 野生のオークの群れを無傷で撃破。子供たちから歓声を浴びる。
♢ ♢ ♢
歓声も落ち着き、一行は再び森を進む。
ウルフの背に揺られる子供たちはもはや遠足気分で周囲を眺めているが、俺の思考は少し重くなっていた。
(しかし……野生のオークがあんな規模で群れているとは)
俺たちが群れを作って行動しているのだから野生の魔物が群れを作っていても不思議じゃない。
だけど装備を整え統率された動きをするオークの集団は、単なる野良モンスターというよりは部隊に近かった。
最初期……リナを連れ戻しに来た奴隷商人の護衛が言っていた言葉をふと思い出した。
確か、あの男はこう言っていたはずだ。
『ゴブリンが一匹だけなんてあり得ない! 近くに巣があるんだ!』
当時は聞き流していたが、今ならその意味が重くのしかかる。 単にゴブリンが数匹いるという話ではない。
「巣」……つまり繁殖し、社会を形成している拠点がどこかにあるということだ。
(もしかしてこの森はゴブリンの巣やオークの巣やらが沢山あるとんでもない魔境なのかもしれない……)
俺は今まで[R]アント・ジェネラル率いる蟻の軍団だけを最大の脅威として警戒していた。だが、それは間違いだったのかもしれない。
この森は蟻、ゴブリン、オーク、リザードマン……他にも様々な種族が独自のコミュニティを築き、縄張りを争っている群雄割拠の戦場なのだ。
(アントだけじゃない。まだまだこの森には沢山の敵がいそうだ)
俺は気を引き締める。
拠点を守り抜くためにはこれら全ての勢力に対抗できるだけの力が要る。
子供たちを送り届けたら、さらなる軍拡が必要だ。
(ん……?)
その時だった。 森の静寂を破り、切迫した人間の大声が聞こえてきた。
「いたか……!?」
「いや、いない!」
「クソッ……あれほど森の奥に行くなと言ったのに……」
複数の大人の声だ!
どうやら、近くの人里の大人たちが、帰ってこない子供たちを心配して、危険を承知で森まで捜索に入ってきたようだ。
「あっ、お父さんの声だ!」
「ここだよー! 僕たちはここだよー!」
ウルフの背中の上で子供たちが身を乗り出して大きく手を振った。
安心したのか、何人かは泣き出している。
(よし、子供たちを届けに行こう!)
俺は部隊に指示を出した。
ただ、いきなり茂みから[R]ランクの巨大狼や[N]ヒーロー・ゴブリン・コマンダーが飛び出せば大人たちがパニックを起こして攻撃してくるかもしれない。
(ゆっくりだ。敵意がないことを示しながら進め)
「グルル……」
[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフを先頭に、魔物の軍勢は子供たちを乗せて大人たちの方へとゆっくりと歩みを進めた。




