29話
俺が命じた瞬間、6階のコアとしての静的な感覚が消え、俺の意識は[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフの強靭な肉体と接続された。
「グルル……(主よ)」
(行け、ウルフ! お前の走りを見せてくれ!)
「ガウゥゥゥゥッ!!」
[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフが大地を蹴る。
次の瞬間、俺の視界は爆発的な加速によって引き伸ばされた!
(うおっ!? は、速い!!!)
[N]ヒーロー・ゴブリン・コマンダーの視点共有とは比較にならない 。
[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフの疾走は「走る」というより「飛ぶ」に近い。 木々が緑色の残像となって後方へ凄まじい勢いで流れ去っていく。
(これが……AGI 30の世界か!)
風が毛を逆立てる感触、獲物の匂いを嗅ぎ分ける鋭敏な嗅覚、大地を掴む爪の感触。
そして何より、体内に満ち溢れる[R]ランクの圧倒的な力!
「グルル!(続け!)」
[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフがヒーロースキル[王の疾走] を発動する。
速度はさらに加速し、視界が青白く発光する──。
「ワオォン!(待ってください、リーダー!)」
「グフッ!(速すぎる!)」
背後から部下である[N]シャドウウルフ と[UC]ファングウルフ たちが、必死の形相で追いかけてくるのが気配で分かる。
だが[R]ヒーロー(AGI 30)の背中は、彼らにとってもはや遥か彼方だ。
「グルル!(獲物だ!)」
[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフの鋭敏な嗅覚が、森の奥から漂う獣の匂いを捉えた。
ダイアウルフは[王の疾走]の速度を落とさぬまま獲物の方向へと駆ける。
(速い! 速すぎる! この速度で戦闘に移れるのか!?)
茂みを突き破った先、開けた場所にそれはいた。
[N]オークだ!
一体じゃない。三体が群れをなして何かの死骸を貪っていた。
「ブゴッ!?」
[N]オークたちが突如として現れた銀色の疾風に気づき、慌てて[大ナタ]を掴もうとする。
(オークが三体! まずい、囲まれ……)
俺の思考はダイアウルフの速度に追いつけなかった。
「ガウゥゥゥゥッ!」
[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフは速度を一切緩めない。
一体目の[N]オークが[大ナタ]を振り上げるよりも速く懐に潜り込む。
[エンシェントファング (Lv.1)]が閃いた。
[R]ランクの牙が、[N]オークの分厚い脂肪の装甲を紙のように引き裂く。
「ブギィッ!?」
[N]オークは悲鳴を上げる間もなく喉を掻き切られて崩れ落ちた。
(一撃!?)
ダイアウルフは止まらない。
一体目を仕留めた勢いのまま二体目のオークの横を通り抜ける。 オークが振り下ろした[大ナタ]は、ダイアウルフの残像を空しく叩き割った。
「ブモッ!?」
「ガウッ!」
反転したダイアウルフが、オークの背後からアキレス腱を噛み砕く。
巨体がバランスを崩して倒れ込んだところを、三体目のオークごと纏めて[王の疾走]で轢き倒した。
(強すぎる……!?)
前にゴブリンたちがあれほど苦戦した[N]オーク を[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフはたった一匹で、それも数秒足らずで無傷のまま瞬殺してしまった。
「ワオォォォン……」
ダイアウルフが物足りないとでも言うように静かに鼻を鳴らした。
「ハッ……ハッ……!」
ようやく配下の[N]シャドウウルフと[UC]ファングウルフたちが息を切らせながら現場に追いついてきた。
彼らは[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフと足元に転がる三体の[N]オークの死骸を見比べて、リーダーを畏敬の念で見つめている。
俺は感動していた。
風と一体化するような速さ。そして嵐のような力。
まるで俺自身が強くなったようで──
(!)
その時、[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフの耳がピクリと動いた。
(何か聞こえた!ダイアウルフ!)
俺が警戒を促すまでもなく[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフの鼻と耳が捉えていた。
[N]オークの血の匂いとは異なる、微かな鉄の匂い。 そして、[R]ランクの凄まじい嗅覚と聴覚だからこそ聞こえる。
これは……。
悲鳴──!?
「……助け……!」
(人間か!?)
俺の意識は[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフの視点からコアとしての思考に戻る。
(冒険者かもしれない。この前みたいに、俺の魔物を狩りに来た連中と同じ敵かもしれない)
「誰……か……!」
ダイアウルフの[R]ランクの聴覚が悲鳴の主の絶望を拾い続ける。
(だが……あの悲鳴は本物の恐怖だ。リナの時と同じ……助けを求めている声だ)
俺は悩んだ。
(……見捨てるわけにはいかない!)
(ウルフ! 狩猟部隊全軍、悲鳴の主を救助しろ! 敵対する魔物を排除するんだ!)
「ガウゥゥゥゥ!!」
俺の決断を受け[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフは即座に反応した。
[N]オークの死骸を放置し、[王の疾走]を再び発動させる。 [N]シャドウウルフと[UC]ファングウルフたちが、必死に後を追う。
凄まじい速度で森を駆け抜ける。 悲鳴と鉄の匂いが強くなる。
「ブヒヒ……」
「シシシ……」
下卑た笑い声が聞こえた。
茂みを突き破り、視界が開けた先にその光景はあった。
(子供!?)
そこにはボロボロの服を着た人間の子供たちが3人、4人……複数人身を寄せ合い、大きな木の根元で怯えていた。
そして子供たちの前に……[N]ランクの魔物が4体!
[N]オークが2体、[N]リザードマンが2体!
奴らは俺がガチャで召喚した個体とは違う……野生の魔物だ。
奴らは下品な笑みを浮かべ、[大ナタ]や[スピア]を振り回しながら、子供たちにじりじりと迫っていた。
「だれかぁ……」
子供たちの助けを求める声が俺に届く……。
♢ ♢ ♢
[現在の拠点状況]
拠点名: (未設定・円形の塔)
階層: 6階建て
DP: 2100
訪問者: 1名
召喚中
探索部隊長: [N]ヒーロー・ゴブリン・コマンダー (Lv.18)
防衛部隊長: [N]スケルトン・ガーディアン (Lv.13)
狩猟部隊長: [R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフ (Lv.15)
偵察部隊長: [N]ヴァンパイアバット (Lv.8)
(他、[N][UC][C]ランク多数)
侵入者: なし
その他: 狩猟部隊が、[N]魔物(オークx2, リザードマンx2)に襲われている人間の子供たちと遭遇。
♢ ♢ ♢




