17話
(より……ゴブリン部隊とウルフ部隊は出撃だ!)
俺はファイター(ヒーロー)に「ゴブリン部隊」の編成を命じる。
ヒーロー・ゴブリンファイターを隊長に、彼が育てた直属の部下([UC]ファイターx2、[UC]スカウトx1)の計4匹。
[C]ゴブリンたちは1階の警備……スケルトンや虫たちと共に、俺とリナの護衛に回す。
そして[N]ダイアウルフには「ウルフ部隊」の編成を命じる。
ダイアウルフを隊長に、[N]シャドウウルフx1、[UC]ファングウルフx1(もう一匹の新入り)の計3匹。
「グルルルゥ!」
「ワオォォォン!!」
1階の扉が開かれ、精鋭化された二つの部隊がそれぞれ外へと飛び出していく。
ゴブリン部隊はまだ未開のエリアの「偵察」と「安全確保」。
ウルフ部隊は[嗅覚]と[連携]を活かし、別エリアの「狩猟」と「食料確保」。
俺の視点共有はヒーロー・ゴブリンファイターに固定されている。
(ウルフの方も戦闘を見てみたいけど……ヒーロー指定には4体しか出来ないみたいだしまずは様子見かな。あいつらはNだし足も速いし大丈夫だろう。鼻も利くからすぐに援軍に来てくれるだろうしな)
よし、視点共有起動だ。ゴブリン部隊と接続!
俺の意識が2階の本体から森を進むヒーロー・ゴブリンファイターの視界へと切り替わる。
目の前には鬱蒼とした森が広がる。 だが[N]オークと戦った時とは明らかに部隊としての練度が違った。
「キキ……(先行します)」
部下の一匹[UC]ゴブリン・スカウト(Lv.7)が[隠密]スキルを発動させ音もなく先行する。
AGI 16の動きは追うのがやっとだ。スカウトは数メートル先の茂みの影から「キッ(異常なし、罠なし)」とサインを送ってくる。
(すごいな……これが[UC]スカウトか。いるといないのとじゃ大違いだ)
オーク戦の時、Cゴブリン3匹を引き連れてビクビクしながら進んでいたのとは大違いだ。
「グルル(続け)」
ファイターが([リーダーシップ]で)指示を出すと、残りの[UC]ゴブリン・ファイター二匹が武器を構えヒーローの両脇を固める。
その時先行していたスカウトが「キキッ!(敵! 前方! 複数!)」と激しいサインを送ってきた。
(来たか!)
ファイターが俺の指示より早く部隊に停止を命じ、身を低くする。
視線の先……開けた場所で何かが地面を掘り返している。
(あれは……ジャイアント・ボア? 大型の猪か)
[N]オークほどではないが厄介な突進と硬い毛皮を持つ魔物。それが3匹。
(オーク戦の時ならCゴブリンは全滅、ファイターも単騎では苦戦しただろう。だが今は!)
俺はファイターに意識で戦闘プランを叩き込む。
(スカウトは背後に回り込め! ファイター二匹は左右から陽動! ヒーローが中央から仕留めるんだ!)
「グルァ!(散開!)」
ヒーロー・ゴブリンファイターが([鼓舞]スキルを)咆哮と共に発動!
部隊全員([UC]ランク)のステータスがわずかに上昇する。
「キィ!」
[UC]スカウトが森の影を駆け抜け、ボアたちの背後に音もなく回り込んでいく。
「「ギィ!」」
[UC]ファイター二匹が武器を構え、左右からわざと音を立ててボアの注意を引きつける!
「ブゴォォッ!?」
ボア3匹はゴブリンが3方向から同時に現れたことに混乱している!
(今だ!)
ヒーロー・ゴブリンファイターが混乱の中心、ボアたちが一番手薄になった中央へアイアンソードを構えて突撃した!
「ブモッ!?」
一匹のボアが慌てて迎撃の突進をしようとする。
(遅い!)
だが、その背後から[UC]スカウトが[隠密]からの[サイレントキル]で飛びかかり、ボアの腱をダガーで切り裂いた!
「ブギィ!?」
ボアがバランスを崩して転倒する。
そこへヒーロー・ゴブリンファイターのアイアンソードがボアの首元に突き刺さった。
残りのボア二匹も[UC]ファイター二匹の剣に動きを止められ、ヒーローが駆けつけて次々と仕留めていく。
(圧勝だ)
オーク戦の時のような、ヒーローの負傷は一切ない。 レベルと連携が、群れを完璧に蹂躙した。
♢ ♢ ♢
[N]ジャイアント・ボア x3 を討伐!
[UC]ヒーロー・ゴブリンファイターは経験値を獲得!
[UC]ゴブリン・ファイターは経験値を獲得!
[UC]ゴブリン・スカウトは経験値を獲得!
♢ ♢ ♢
(素晴らしいぞ、ファイター!)
俺は[N]ボアの死体を見下ろすファイターの視界に最大の賛辞を送った。
(……ん? レベルアップはしないか)
[N]ランク3匹をほぼ無傷で倒しても、レベルは上がらないようだ。
(まぁ、この調子で狩っていこう)
[リーダーシップ]スキルで部下たちに周囲を警戒させる。 目の前には、[N]ジャイアント・ボアの比較的キレイな死体が3つ。
(しかしこの死体はどうするか……?)
[N]オークの時はウルフ部隊が通りかかって運搬を手伝ってくれた。
だが、今このゴブリン部隊4匹だけで、このデカい猪3匹を拠点である塔まで引きずって帰るのは……できるだろうが大幅な時間のロスだ。
俺がどうしたものかと思案していた時。
「キィキィ!」
「(バサバサ……!)」
森の木々の上から、[UC]ジャイアントラット4匹と[UC]ジャイアントバット2匹の偵察部隊が血の匂いを嗅ぎつけてやってきた!
(お、ナイスタイミングだ!)
俺がファイターを通じて指示を出す前にラットとバットたちは倒されたボアの死体を慣れた手つきで囲み始めた。
[UC]ラットたちが器用にボアの足にロープ(ツタだろうか……?)を巻き付け[UC]バットたちが上空から運搬ルートを確保するように飛び回る。
そしてラットたちが陸路で引きずり始め、バットたちが空から障害物を知らせる。
(なるほど、偵察部隊は獲物の「回収」も担当するのか!)
戦闘はゴブリンとウルフ、資源はスライムとコボルト、運搬はラットとバット。
俺の意図せぬところで完璧な分業体制がさらに洗練されていく。
(よし、ファイター! 獲物は偵察部隊に任せろ! お前たちゴブリン部隊は、さらに奥を偵察だ! 安全圏を広げるぞ!)
「グルァ!」
ファイターは獲物を引きずらなくて済むことに満足げに頷くと、部下たちを引き連れさらに森の深部へと進軍を再開した。
♢ ♢ ♢
[現在の拠点状況]
拠点名: (未設定・円形の塔)
階層: 2階建て
DP: 2200
訪問者: 1名(リナ、2階で待機中)
召喚中: 全78匹(ゴブリン部隊は偵察続行、偵察部隊は[N]ボアx3を運搬開始)
♢ ♢ ♢
(止まれ!……何だ?)
[UC]スカウトが茂みの中から送ってきた「停止」サインをファイターの視点共有で確認する。 [N]ボアの時とは違う。敵意のサインではない……何か発見した時のサインだ。
「グルル(続け。慎重に)」
ヒーロー・ゴブリンファイターは部下の[UC]ファイター二匹にハンドサインで両翼を固めさせ、自らもアイアンソードに手をかけたままスカウトが潜む茂みへ音もなく合流した。
スカウトが茂みの隙間からアレを見ろと顎で示す。
ファイターが隙間から視界を外に向けると──
(……おぉ)
そこは森が急に途切れた崖のようになっていた。 そして崖下数メートルを、かなりの幅を持った川が、ザァァァ……と音を立てて流れていた。
[N]オークや[N]ボアがうろつく森とは打って変わり、開けた水辺の光景が広がっている。 太陽の光が水面に反射して、キラキラと輝いていた。
(これは……デカいぞ!)
俺はこの発見の重要性を即座に理解した。
(貴重な水源だ! 拠点でいちいちDPを使って水を生成しなくても、ここから汲めばタダだ!それに川魚とかもいるかもしれない! ウルフたちの狩猟対象が増えるぞ!)
ファイターの視力とでは向こう岸は霞んで見える。
(かなりの大河だな。簡単には渡れそうにない。つまりこの川が俺の拠点の境界線になる可能性が高い。天然の防壁だ)
「グルル(偵察。周囲)」
ファイターは[UC]スカウトに川岸の探索を命じる。 スカウトは素早く崖を駆け下り、水辺の泥を[罠発見]スキルで慎重に調べ始めた。
「キィ!(報告!)」
スカウトが何かを見つけたようだ。
(なんだ?)
俺とファイターの意識が、スカウトが指し示す地面に集中する。
そこには……俺たちが倒した[N]オークよりも、さらに巨大な三本指の獣の足跡が水辺までくっきりと続いていた。
(……やばいのが、水を飲みに来てるな、ここ)
俺の拠点がまだ把握していない[R]ランク……あるいはそれ以上の何かが、この川を縄張りにしている証拠だ。
(まずいな。ここは危険すぎる。一度拠点に持ち帰って……)
俺が即時撤退をファイターに命じようとした、まさにその時だった。
ウォーン!!
(なんだ!?)
森の奥深く、ゴブリン部隊がいる場所とは逆……甲高い狼の遠吠えが響き渡った!
あれは狩猟部隊として放った、[N]ダイアウルフたちの叫び声だ!
「グルル……!」
ヒーロー・ゴブリンファイターも即座に反応し、音のした方向を睨みつける。
ただの遠吠えじゃない。獲物を見つけた時の声でもない。 あれは……苦戦、あるいは警告の咆哮だ!
(ウルフ部隊が何かと交戦したのか!?あいつらはNだし足も速いし大丈夫……なんて思ってたが、甘かったか!)
(ファイター! 川の偵察は中止だ! 急いでそっちにいけ! ウルフたちを援護する!)
「グルァァァッ!!」
ヒーロー・ゴブリンファイターは俺の命令を受け、アイアンソードを抜き放つと川に背を向け森の中を凄まじい速度で駆けだした!
部下の[UC]ファイター二匹と[UC]スカウト一匹も必死に後を追う!




