13話
(だいぶ戦力も整ったし、この周辺の地域も探索したいな……)
俺は2階のコアから1階の防衛網と、ひっきりなしに外と1階を往復する資源収集部隊を眺めながら次の戦略を練っていた。
(スライムやコボルトたちが安全に資源を採取出来るようにしたいが……)
外にどんな危険な魔物がいるのか、まだ俺は把握していない。
[UC]ラットや[UC]バットの偵察部隊は奴隷商人や大型魔物の報告はしてこないが、それはこいつら([UC]ランク)がビビって安全な範囲しか偵察していないだけかもしれない。
(ゴブリンファイターをLvあげも兼ねて、[C]ゴブリンたちを引き連れて周辺を探索させてみるか)
それが一番だろう。
リーダーのエースが、部下の[C]ゴブリン3匹を引き連れてレベリングと安全確保、偵察を同時に行う。
(どんな魔物がいるかを調査させて、倒せそうだったら倒して安全を確保しつつレベルを上げよう)
その様子をみたいところだが……。
石である俺はここから動けない。偵察部隊が持ち帰る情報を待つしかない。 もしファイターたちが強敵と遭遇してピンチになっても俺には助けようがない。
そう思っていた。
俺が【魔物管理メニュー】でゴブリン・ファイターのステータスを再確認していたその時。
(お、なんだこれ?)
ファイターのステータスウィンドウの隅に、さっきまでロックされていた新しいボタンが、淡く点滅しているのに気づいた。
【ヒーローモンスター設定(四体限定)】
コスト: 1000 DP
効果: 対象モンスター一体を「ヒーロー」として指定する。
1. 全体的な能力の底上げ。
2. 特殊能力の追加。
3. コアとの「視点共有」が可能になる。
(視点共有!?)
俺はないはずの目を見開いた。
──これだ! まさに俺が求めていた機能じゃないか!
(これは欲しい……! 1000DPだから、ポイントが溜まるまで待ってゴブリンファイターに付与しよう!)
俺は現在のDP(660)を確認する。
(1000DPには……あと340DPほど足りないか。だが、問題ない!)
俺にはスライム軍団とコボルト採掘隊がいるのだ
数時間が経過した。コボルトたちの鉱石納品ラッシュと、スライムたちの地道な苔納品が続き……
[DP: 980] …… [DP: 1015]
(来た!)
DPが1000を超えた。
(よし、待たせたな俺のエース!)
俺は迷わず【魔物管理メニュー】を開き、[UC]ゴブリン・ファイター(Lv.5)を選択。
そして、「ヒーローモンスター設定(1000DP)」のボタンを強く押した!
DPが 1015 から 15 へと激減する。
直後。
2階で俺の前に控えていたゴブリン・ファイターの体が、[UC]への進化の時とは比べ物にならない黄金色の荘厳な光に包まれた!
「グルルル……ッ!? グォォォ!!」
ファイターが苦痛とも歓喜ともつかない雄叫びを上げる。
体がさらに一回り大きくなり、筋肉が盛り上がり手に持っていた「錆びたショートソード」が光に包まれ、鋭利な「アイアンソード」へと変貌していく!
(おぉ……!?)
♢ ♢ ♢
[UC]ゴブリン・ファイター が [UC]ヒーロー・ゴブリンファイター に指定されました。
ステータスが大幅に上昇しました。
ヒーロースキル:[鼓舞 (Lv.1)] を習得しました。(※周囲の[C][UC]ランク魔物の戦闘力を一時的に引き上げる)
コアとの「視点共有」が可能になりました。
♢ ♢ ♢
光が収まった時、そこに立っていたのは、もはや[UC]ランクの風格を遥かに超えた歴戦の戦士のような魔物だった。
そして何よりも…… 。
(……見える!)
俺の意識が2階のコアの部屋と、ゴブリン・ファイターの目とが脳内で切り替え可能になったのが分かった!
これで、彼が探索に出ても、俺はリアルタイムでその様子を「見る」ことができる!
(さて、どれだけ強くなったか……見せてもらうぞ、俺のエース
俺は黄金の光の名残をまとったゴブリン・ファイターの、最新のステータスを脳裏に表示させた。
(おお……!)
♢ ♢ ♢
名前: ヒーロー・ゴブリンファイター
レアリティ: [UC] アンコモン (ヒーロー指定)
種別: 戦闘用魔物(進化種・ヒーロー)
Lv: 5 HP: 120/120 | MP: 0
STR (筋力): 25
VIT (体力): 20
AGI (敏捷): 15
INT (知力): 8
特技
[アイアンソード (Lv.2)]: (ショートソードから進化)剣の扱いがうまくなった。
[威嚇 (Lv.3)]: [UC]ランク以下の魔物を確実に怯ませる。
[リーダーシップ (Lv.3)]: [C][UC]ランクの魔物に効率的な指示を出し、統率する。
特殊能力
[鼓舞 (Lv.1)]: (ヒーロー専用)周囲の配下魔物([C][UC]ランク)の戦闘力を一時的に引き上げる。
[視点共有]: (ヒーロー専用)コアとの視界・聴覚の共有が可能になる。
進化先
[N] ヒーロー・ホブゴブリン・ファイター
DP消費: 1000 DP
条件: Lv. 15 以上
[N] ヒーロー・ゴブリン・コマンダー
DP消費: 1000 DP
条件: Lv. 15 以上、[リーダーシップ] Lv.3
♢ ♢ ♢
(つ、強すぎる……!)
俺は、[UC](Lv.1)のコボルト(STR:5)やラット(AGI:10)とは、比較にすらならない数値に目を見開いた。
HPもSTRもAGIも、ヒーロー指定前から別物のように跳ね上がっている。
これなら外の魔物とやらにも十分対抗できるだろう。
(よし、準備は整った)
俺は、俺前に片膝をつく「ヒーロー・ゴブリンファイター」に、最初の任務を命じた。
(ファイター! [C]ゴブリン(3匹)を引き連れ、拠点の周辺を偵察せよ!「視点共有」を起動する! お前の目で、俺に外の世界を見せてくれ!)
「グルァッ!」
ヒーロー・ゴブリンファイターは力強く応えると、アイアンソードを抜き放ち、部下([C]ゴブリン)たちを引き連れて1階へと降りていった。
俺の意識が2階のコア(石)から、ヒーロー・ゴブリンファイターの視点へと切り替わる。
♢ ♢ ♢
[現在の拠点状況]
拠点名: (未設定)
階層: 2階建て
DP: 15
訪問者: 1名(少女、2階で待機中)
召喚中: 全38匹
[UC]ヒーロー・ゴブリンファイター x1 (Lv.5、偵察任務開始)
[C]ゴブリン x3(偵察任務随伴)
他34匹(資源収集・防衛・採掘など稼働中)
♢ ♢ ♢
(視点:ヒーロー・ゴブリンファイター ⇔ 主人公/ 視点共有)
「グルァ!」
(よし、行くぞ!)
ヒーロー・ゴブリンファイターは、[C]ゴブリンの部下たちに顎で「続け」と示し扉をくぐり抜けた。
その瞬間──俺の意識に、眩い光景が流れ込んできた。
(うおっ、眩しいっ! これが……外の世界か!)
石のコアとして転生し、松明の光しか知らなかった俺にとって、それは強烈な体験だった。
ファイターの視界が本物の太陽の光に焼かれている。 目がチカチカするような錯覚すら覚える。
ファイターが本能的に目を細め、視界が徐々に慣れていく。
「ギィ!?(兄貴、まぶしい!)」
部下の[C]ゴブリンが多分そんな感じで心配そうにファイターを見上げている。
(す、すごい……)
目の前には、見渡す限りの森が広がっていた。
緑の匂い。土の匂い。湿った空気。 2階の埃っぽいコアの部屋とは何もかもが違う。これが、俺の拠点の周囲の環境……!
「ギィ(兄貴、アレ!)」
部下ゴブリンが棍棒を向けた方向を見て、俺はさらに驚愕した。
(うわ、マジか……)
そこには[C]スライムたちが訓練された軍隊のように「一列」に並び、拠点の入り口に向かってゆっくりと行進していた。
森の奥から、苔や泥を体にくっつけたスライムが「ぷるるん!」と列の最後尾に加わる。 列の先頭のスライムが、1階の扉から「ぷるるん!」と中に入っていく。
(スライムたちが列を成して拠点に入っていく……)
なんというシュールな光景。だが、あれが俺のDPの源泉だ。
(しかも、この音は……?)
カン……カン……キィン!
少し離れた場所から、岩を叩く甲高い音が響いている。
[UC]コボルト採掘隊は、拠点近くの岩盤をツルハシで必死に掘削しているようだ。 あそこが俺の高額DPの採掘場か。
俺は初めて見る外に感動していた。
(よし、ファイター。振り返って、俺たちの「家」を見てみよう)
「グルル……」
ファイターが振り返る。
そして俺は初めて自分の「拠点」の全身を外から見た。
(……おぉ)
俺が想像していた「ボロい廃墟」とは違った。それは円筒形……巨大な塔の、まだ下層部分とでも言うべき威容を誇っていた。
1階と2階の部分しかまだ地上に出ていないが直径はかなりのものだ。 だ
壁は何百年も風雨にさらされたような風化した石材でできている。 ところどころにツタが絡まりヒビも見える。
だが、それは間違いなく「誰かが作った」人工物であり、古代の遺跡か何かを俺が拠点として再利用している状態なんだと理解した。
(……いいじゃないか。「塔」の主。悪くない響きだ)
(さて、ファイター! 偵察任務開始だ! 部下([C]ゴブリン)たち、はぐれるなよ!)
「グルァァ(行くぞ!) !」
「「「ギィ!(へい!)」」」
俺はヒーロー・ゴブリンファイターの視界共有を通して、未知なる森の奥へと第一歩を踏み出した。




