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リオナと約束の唄  作者: 月森 かれん


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9/9

八話 キヨとの溝

 翌日から、私は誰が見ても魂が抜けたような状態になってしまっていた。 

 どこか心あらずで、水汲みも身が入らない。


 『可能性の話だ』


 ディランさんはそう言っていたけれど、一でも可能性があるのなら安心はできない。

それに皆ニコニコと優しい顔をしているのに、儀式の話になった途端、一気に軽蔑したような顔に変化しそうで怖かった。



 昼。


 軽く昼食を終えて、浜辺でぼんやりと海を眺めていた私の肩を誰かが軽く叩いた。

振り返ると、キヨが心配そうに眉を寄せて立っている。


 「キヨ?」


 「リオナ……大丈夫?また体調が悪くなっちゃったの?」


 そう言うキヨの声は震えていた。

心配と不安から来ているのだと思う。

 普段明るい彼女をここまで心配させてしまって、私は申し訳なく思った。


 「うん、ちょっとね……」


 「隣、座ってもいい?」


 「いいよ」


 キヨはぎこちなく私の隣に腰を下ろした。

そして私の目をまっすぐ見ると、話を切り出してくる。


 「リオナ……。最近リオナが夜な夜な出歩いてるって噂があるんだけど。

本当……?」 


 「え?噂?」


 本当に驚いた。

誰もそんな話をしていなかったし、なにより、誰かに見られてしまっていたことに心が追いつかない。


 ――てっきり皆寝ているものとばかり……。

そうか、眠れない日もあるかもしれないもんね


 「うん。エイコさんが。

見間違いかもしれないけど、リオナに似てたって」


 「そ、そうなんだ……」


 「そうなんだ、じゃないよ!」


 いきなりキヨが叫んだので、私は口を開けたまま固まることしかできなかった。


 ――キヨ、怒ってる?


 「私はリオナの噂が本当かどうか気になって確かめに来たのに!

まるで他人事みたいな反応……」


 「そ、そんなつもりじゃ……」 


 声が震える。

キヨがここまで怒りを表したことに驚いて、呼吸が浅くなってきた。


 「じゃあ答えてよ!リオナは夜な夜な出歩いてるの?

そうなら、いったいどこに行ってるの?」


 「………………」


 言葉に詰まる。キヨの目をまっすぐ見れなくなって少しだけ顔をそらした。


 キヨとの友情を取るか、ディランさんとの秘密を取るか。

究極の選択になってしまった。

  

 ――でも、ディランさんのことは口が裂けても言えない。信じてもらえるかもわからないのに……。キヨには悪いけど、話せない……


 「ごめんキヨ。どうしても話せないの……」


 私の言葉を聞いたキヨの目が大きく見開かれた。

そしてすぐに伏せる。


 「そう……。友達の私にも話せないことなんだ。

私達の関係ってその程度だったんだね……」


 「ち、違うよ!話せる時が来たらちゃんと話すから――」


 「じゃあ今話してよっ!!」


 キヨの一段と大きな声が響く。

周囲の人たちが何事かと私たちを見ている。


 「それは……」


 「ほら、話せないじゃん!!

 もういいっ!リオナなんて知らないっ!!」


 キヨは勢いよく立ち上がって、一度も振り向かずに走り去っていった。


 私は立ち上がれずに、ただ呆然と小さくなっていく背中を眺めることしかできなかった。

 

 ――キヨの信頼を失ってしまった


 だけど、ディランさんのことを話しても信じてもらえなかっただろう。

 体の中心にポッカリと大きな穴が空いた気分になった。

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