十一話 押し寄せる不安
小刻みに震えだした私を見て、おばあちゃんが小さく首をかしげる。
「ん?どうしてリオナちゃんが震えるんだい?」
「だ、だって……もし生贄を捧げることになったら、私が選ばれる可能性が高いってディランさんが……。
私は両親が居ないから煩わしさがなくて……」
「マーフォークも無責任なこと言うねぇ。
リオナちゃんを怖がらせてどうするんだい」
「でも、おばあちゃんも「マーフォークの言ったことは当たる」って」
「ああ、ごめんねぇ。言ったけど確証はないのさ。
だけど、海辺のことを知り尽くしているマーフォークが言ったんだ。他の地域での体験を元にしたのかもしれないしね」
おばあちゃんの声は少し柔らかくなったけど、顔は険しいままだった。
「やっぱり儀式って近い内に行われるの?」
「おそらくね。皆が焦っているのはリオナちゃんも知っているだろう?
遅くても3日以内だろうねぇ」
――3日以内⁉思ったより短い⁉
まだ私が差し出されると決まったわけでもないのに、そのつもりだと頭が思い込んでしまっていた。
呼吸が早くなって、考えがまとまらなくなる。
「ど、どうしよう⁉私、何ができるの⁉」
「リオナちゃん、落ち着きなよ。ばあちゃんが悪かったなあ」
おばあちゃんが優しく声をかけてくれたけど頭の中を右から左に流れてゆき、悪い考えが止まらない。
――生贄って何をされるの?
縄で縛られたり、言うことを聞かなかったら叩かれたりするの?
当然、実際の生贄を見たことなんてないし、物話等で断片的に聞いたことがあるだけだった。
その中で生贄にされる人達は逃げられないように縄で縛られたり目隠しをされたり、抵抗すれば大人しくなるまで棒で叩かれたりしていた。
――村の人達もそんな酷いことをするの?
「だけど困ったねぇ。
泊まることはなくなったけど、私は日帰りでミヨばあちゃんの手伝いに行かなきゃならないんだよ。
皆が私を畏敬しているのはわかってるから、私が居る時に儀式は行わないだろうねぇ」
「畏敬……?」
「畏れ敬うことさ。私が特に何かしたわけじゃないんだけどね。
長生きしてるからか、それだけで経験豊富と思われて皆が勝手にそうしてるんだよ。
だけど、私が居ない間に儀式が行われちまったら……」
思わず唾を飲み込む。
おばあちゃん以外に村長を始めとした大人を止められる人はいない。
「じゃあ……私が家に居なければ……」
「そんなんじゃ駄目だよ、リオナちゃん。村の中に居れば捕まるから外に出ないと。
でも皆が何かと理由をつけて外に出してくれないだろうね。「頼みたいことがある」とか言って」
おばあちゃんの言葉に俯く。
確かに私は頼まれれば断れない性格だ。
――なら、明日はいつもより早起きしてご飯食べて、皆が起きる前に村から出ないと
室内を沈黙が包み込む。
おばあちゃんはその間何も言わずに私の背中を撫でてくれていた。
それからふと顔を上げると窓を見る。
つられて見ると、日は落ちきっていて上空が紺色に染まっている。
「もう夜になるよ。そろそろお帰り」
「はい……。ありがとうございました」
外に出ると人はまばらだった。
だけど忙しそうに早足で歩いていて、私のことなんて目もくれていない。
波の打ち寄せる音が響いているけど、私の気分が暗いからかいつもより低く不気味に感じた。
東の岩場に向かうか迷ったけど、どうしても行く気になれなかった。
ディランさんには申し訳ないと思いながら、
まっすぐ帰宅してご飯も食べずにベッドに潜り込む。
――明日はなるべく村に居ないようにしなきゃ……
不安を抱えたまま目を閉じる。
だけど、私の考えは甘かった。




