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リオナと約束の唄  作者: 月森 かれん


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九話 小さな希望

 その日から私はキヨと口を利かなくなってしまった。 


 水汲みの道中や市場でキヨの姿を見かけると、私の方から避けてしまう。

気まずいのはキヨも同じみたいで、一瞬目が合ってもすぐに顔を逸らして脇道に行ってしまったこともあった。


 今はもう一時間もあれば終わってしまう網の補修作業。

 それが終わってもキヨはすぐに年の近い集団のところに行ってしまって、

私はより深く孤独を感じるようになった。


 キヨとの間にできてしまった溝は思ったよりも深かった。 



 唄が途絶えて七日目の夜。

 私は慎重に周囲を見回し、月や灯台の光が当たらない物陰に身を隠しながら岩場へ向かった。

 

 

 ディランさんはいつもの先が尖った岩場の側に悠々と浮かんで私を待ってくれていた。

 私の姿を認識すると、手の届く距離まで泳いできてくれる。

完全に警戒心を解いてくれているのが嬉しかった。


 「来たか……」


 「遅かったですか?」


 「いや……」


 短く答えてディランさんは私を見つめてくる。

淡い紫の瞳が何かを探っているような気がして胸がドキリとした。


 「な、何か……?」


 「昨日から思っていたが……心境に変化でもあったか?

目の輝きが薄くなっている」


 「輝き……」


 そんなところで心の変化を知られるなんて思ってもみなかった。

隠し通すのは無理だと判断してキヨとの溝を正直に話す。

 聞き終えたディランさんは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 「すまない……。

長年苦楽を共にしている者より私との秘密を優先させてしまうとは。

 人間の絆は生命の次に大事なものだと聞いている。

それを引き裂いてしまったこと、非常に申し訳なく思う……」


 「いえ……。その子も話せばわかってくれると思うんです。

でもいきなりディランさんのことを話しても信じてもらえなかったでしょうし。

それに……」


 「それに?」 


 「もう一回同じ選択を迫られても、私の答えは変わらないと思います。

深い溝ができてしまったのは辛いですけど……」


 本心を話したのにディランさんは納得していない様子で口を曲げたままだ。


 「何故だ?」


 「何故って……」


 言葉に詰まる。

 思いのほかディランさんの声が真剣で聞き惚れてしまったせいもあるけど、


 「絆が薄れてしまったのが辛いのだろう?それなのに何故同じ答えを選ぶ?」


 「それは……。

 絆が薄れてしまった子は人間で、まだこれからもやり直せます。

 でも、ディランさんはマーフォークで今だけの関係かもしれないので……」


 そう答えるとディランさんは再び黙り込んでしまった。

 水面が風もないのに少しだけ揺れた気がする。


 「……今だけ、か」


 小さく呟かれたその声は、いつもの淡々とした調子とは違っていた。

 

 「我らマーフォークは本来ならば人に姿を見られてはならない。

 もし姿を見られても人間とは長く関わらぬ方が良いと教えられてきた。

 君とは海神様の特例で交流を続けているが……」


 そこで言葉は途切れる。

 海の底から届くような、深く濁った沈黙


 「……今だけ、という言葉は……少しだけ胸にひびく」


 顔はいつも通りだったけれど、淡い紫の瞳がわずかに揺れていた。


 

 

 翌日は雨だった。

 晴れ以外の天気なんて久しぶりだった。


 雨が降ると誰も船を出さない。 

 いつもにましてやることがないので、私は市場をうろついていた。

 市場はここ最近の不漁と天候の悪さもあって空気がどんよりと重い。

 店主の呼び込みの声も張りがないじ、すれ違う人達の表情も暗い。


 そんな中、背中と両手に風呂敷を持ってヨタヨタと歩いているおばあちゃんを見つけた。

 

 ――手伝った方がいいかな? 


 そう思って近づくと、その人が会いたかったサエコおばあちゃんだと気づく。


 「サエコおばあちゃん!帰ってきたんですか!?」


 声をかけると、おばあちゃんはニコニコと笑った。


 「いやぁ、二日のつもりが五日になってしまったぁ」


 「え?何があったんですか?」


 「ちょっとね、隣村のミヨばあさんが腰をやっちゃってねぇ。

 掃除やら洗濯やらいろいろ手伝ってたら、いつのまにか五日も経ってたんだよ」


 それからおばあちゃんは私の目をまっすぐ見て言う。


 「そうだ、リオナちゃん。よかったら荷物の整理を手伝ってくれないかねぇ?

 こんな天気だし私一人だと時間がかかるし」


 「わかりました――あ!」


 ――そうだった!おばあちゃんとマーフォークについて話す約束してたんだった!


 小さく声を上げた私を見て、おばあちゃんは小さく首を傾げた。

私は小声で話を続ける。


 「荷物の整理が終わったら、マーフォークについて聞きたいことが……」


 「あぁ。だから整理を手伝ってくれないかねぇって頼んだのさ」


 おばあちゃんは少し悪い顔をして言った。

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