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主人公たちの苦悩

作者: 沖津渉
掲載日:2010/05/29

 店の中は賑やかに談笑する声に満ちており、店員を呼ぶ客の声と、酒が注がれたグラスが大量に乗せられたお盆を運ぶ店員の慌ただしい足音がそこかしこから聞こえてくる。

 ここは、現実とゲームの狭間にある居酒屋。普段からプレイヤーの無理な注文に文句を言うことなく従っているキャラクターたちが唯一心安らげる、憩いの場である。

「全く、やってられないよな」

 とあるテーブルから、愚痴をこぼす声が聞こえてくる。どうやらこのテーブルにはゲームの主人公たちが集まっているらしい。

 先ほど文句を言っていた、重そうな鎧を着崩した男――ロールプレイングゲームの主人公――が、大事な商売道具である剣や盾を床に無造作に投げ出したままで、更に言葉を重ねる。

「いつもいつもモンスターと戦ってばっかでよー。まともに宿に泊まらずに一日中歩き通しなんて日常茶飯事、おまけに戦闘中も体力ぎりぎりまで回復してもらえないし、戦闘おわったら治るからって、毒受けてもそのまま戦わせられるんだぜ」

「その気持ち、俺にもわかるわー」

 それを聞いていた軍人風の男――ガンアクションゲームの主人公――が相槌を打つ。

「俺も体にいくら鉛弾食らっても体力が残っている限り休むどころか動きを鈍らせることすら許されないんだぜ。足に怪我負ってるって言うのに走らされるのは勘弁してほしいよな。その点、お前が羨ましいよ。可愛い女の子たちに囲まれて、その中からよりどりみどりなんだろ?」

「そういいことばかりでもないさ」

 ガンアクションゲームの主人公に話を振られた、他の二人に比べれば至って普通の格好をしている男――どうやら恋愛ゲームの主人公らしい――は、溜め息混じりに反論する。

「俺は怪我をすることは滅多にないけど、周りの女の子たちはみんな問題を抱えている子ばかりだし、修羅場もしょっちゅう。それに少し選択肢を間違えるだけですぐにバッドエンドになるから、常に気を配って生活しなければいけない。本当に精神的ストレスで胃に穴でも空きそうだよ」

 そう言うと、再び溜め息を吐く。

「そうか……お前も結構苦労しているんだな」

「主人公なんて、みんな似たようなものってことか」

 三人は一様にうつむき、その場に思い空気が漂い始める。

「ちょっといいか?」

 そのとき、ガタンといすから立ち上がる音と共に、三人に声がかけられた。声の方を見ると、隣のテーブルから、恋愛ゲームの主人公と同じく普通の服を着た男が三人のいるテーブルへとやってくるところだった。男は空いている席に腰掛けると、三人の怪訝そうな視線を受けながら口を開く。

「さっきから聞いていると文句ばかりのようだが、少し贅沢だと思うぞ」

 どうやら男は三人の話を聞いて思うところがあったらしい。それで、もの申すために声をかけてきたようだ。

「俺たち俺が贅沢だって? 一体どこが贅沢だって言うんだ?」

「まあ聞けって」

 若干怒気の混じった声で尋ねるロールプレイングゲームの主人公をいさめながら、男は意見を述べる。

「確かにお前たちは大変かも知れないが、頑張って魔王なり敵兵なりを倒せば周りからちやほやされて、働きに応じた褒美も受けられるじゃないか。それに怪我だって一晩寝たり、アイテムを使えばすぐに治る」

「そりゃあ……」

「そうだけどさ……」

 ロールプレイングゲームとガンアクションゲームの主人公たちが言葉に詰まる。そして男は恋愛ゲームの主人公に向かっても同じように考えを言う。

「お前だって選択肢さえ間違えなければ、好みの女の子と付き合うことが出来るだろ?」

「まあな……」

 そして、男はとどめと言わんばかりにだめ押しをする。

「それにお前らは最終的にはリセットボタンを押しちまえば、セーブポイントからやり直すことが出来るじゃねえか」

「…………」

 この一言に主人公たちは完全に黙り込んでしまう。それを見届けると男は、今度は自分の話を語り始める。

「その点、俺のところなんてもっと酷いもんさ。いくら頑張っても誰にも褒められないし、怪我したらそう簡単には治らない。いくら可愛い女の子がいても最後の最後まで攻略可能キャラクターかどうかも分からない。しかもオートセーブだからリセットボタンを押すことも出来ないし、セーブも一つしか作れない上にデータも消去できないから、最初からやり直すことすら出来ないんだぞ」

「お前……そりゃあとんだ糞ゲーじゃねえか」

「ああ、俺もそう思うぜ……さてと」

 男は言い終わるといすから立ち上がる。

「おい? どこ行くんだ?」

「そろそろゲーム再開の時間みたいだ」

 そして男は出口へと向かっていく。それを恋愛ゲームの主人公が引き留める。

「なんでそんなゲームなのにまだ続ける気になるんだ? もう止めちまえばいいじゃないか!」

 男は立ち止まり、振り返ると笑いながら答える。

「こんな俺でも主人公だからな。バッドエンドで終わらせたくないんだよ。それに――バッドエンドがある以上、グッドエンドもあるって信じてるからな」

 そして男は再び出口の方を向くと歩き始める。その背中にガンアクションゲームの主人公が質問を投げかける。

「おい! 最後に教えてくれ! お前は一体なんのゲームの主人公なんだ!?」

 男は今度は立ち止まることなく、再びゲームを始めるために出口をくぐりながら答える。


「俺か? 俺は……“現実”ってやつの主人公さ」

講義中に思いついて1時間足らずで即興で書き上げた作品。

自分の中の出来はさほどだけど、投稿数をかせぐために一応投稿ww

テーマは現実が1番大変ってことで

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