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7. パンダ、孤パンダ

人気を博してきたネタ系配信者イーヴン。

しかし、あるコメントが、彼の表情を一瞬だけ曇らせる。

それは、過去に関わった元職場の匂いがするもので……。


彼が芸風の裏に隠した“牙”が、静かに動き出します。

──NeoTask社:コラボ案件に関する提案


HUDに通知が浮かんだ瞬間、俺の手がほんの少しだけ止まった。

「……また懐かしいとこが来たな」

NeoTask社。かつて、大神鉄也だった頃。

サラリーマンとして、それなりに神経をすり減らしながらも技術者として現場を回していた時代。

その時に一度だけ、共同開発のデバッグ対応で顔を出した覚えがある。

もっとも、今の俺の名前はEven Laiveだ。仮面越しの名刺なんて、相手は当然知らない。


通知に書かれたひと言が、やけに可笑しかった。


──〈以前、何かお願いしたことありましたっけ?〉


「……そりゃまあ、俺が“あの頃の俺”だなんて、知るわけねえよな。

顔も名前も変わってるし」」


軽く苦笑しながら、コラボ内容を確認する。

……どうやら“視覚連動型ダンジョン解析ギミック”のフィールドテストらしい。


「よし、映えにはちょうどいい」

俺は仮面の内側で、小さく息を整えると、配信をスタートする。

今日はコラボ案件と言う事で、通常の配信前に、事前準備段階の配信をしている。よくある企画と言われればそれまでだが、実は俺自身は初めてなのだが、どうもこの固定式カメラには慣れない。


「……しかしこのギミック、どこかで見たような……」

早速届いたギミックの梱包をほどき取出すと、目の前に現れたのは、白と黒の配色が特徴的な巨大な装置。

――これってどう見ても……

「まるで……パンダ?」

そう、目の前にある試作ギミックの形状は、白黒配色の丸みを帯びた外装に、丸い耳のようなセンサーカバー。どう見ても、愛らしい動物を意識した見た目。


コメント欄が即座に反応する。

『#パンダギミック爆誕』

『これはイーヴンもパンダ化するしかない』

『パンダ×ゴスロリ=最強』


俺は一度、画面の自分を見て、小さく溜め息をついた。

「……やるなら、振り切るしかないか」

俺は苦笑しながらも、視聴者の期待に応えるべく、衣装チェンジを決意する。

普通の黒を基調としたゴスロリとは別に、色合いとか考え、予備として白を基調とした衣装も用意していたところだ。

「よし、ネタに乗っかってみるか」


◇ ■ ◇ ■ ◇


休憩所で着替えを終え、カメラが再起動された瞬間──

画面に映し出されたのは、白と黒のパンダ風ゴスロリ衣装に身を包んだ俺の姿だった。

白を基調に黒いロンググローブ、黒タイツ、黒いブーツ。

さらに、仮面の左耳側には、赤いリボンがしっかり結ばれていた。

パンダ風ゴスロリ衣装。

『#大熊猫爆誕』

『#血に飢えたパンダ』

『#パンダイーヴン爆誕』

『これはバズる』

笑い混じりのコメントが爆発する。


「おはよう、諸君。今日はちょっと、ゆるふわハードモードで行くぞ」

そして、一旦カメラを切り、配信を終了。

案件対象となる新規ダンジョンへと足を踏み入れて行く。


◇ ■ ◇ ■ ◇


内部構造は、従来の中層ダンジョンと異なり、視覚連動ギミックが床と壁に仕込まれていた。

足を乗せた瞬間、白黒のパターンが切り替わり、圧縮空気の罠が飛び出す。


「おっと、見え見えだよ」


軽く横跳びでかわし、着地と同時に一回転して姿勢を整える。


『#パンダ跳躍』

『動きヤバすぎ』

『かわいいのに強いとか反則』


そして、通路奥から現れたのは、金属質の爪を持った甲殻モンスター。


MP5を抜くより早く、俺は床を滑るように間合いを詰め、手首を回してフリップターンからの反転射撃。


「次ッ」


三点バーストが頭部を貫いた瞬間、コメント欄がまた爆発した。


『あの撃ち方……』

『マジで鉄狼と一緒じゃね?』

『#中身鉄狼説』


「たまたまだろ」


笑いながら返すが、コメントは止まらない。


『#血に飢えた大熊猫』

『なんか仮面の動きまで同じ』

『もう鉄狼でいいよ』


「いやいや、俺はイーヴンだって……あー、もう面倒だな」

ネタがネタを呼び、タグは燃え上がり、視聴者数が跳ね上がる。


「まぁいい。パンダだろうが狼だろうが、今日の主役は俺だからな」


笑いをこらえながら、俺は次のトラップゾーンへと踏み出した


◇ ■ ◇ ■ ◇


「で、今回のNeoTask社のギミックがこれ──“視覚連動型トラップナビ”。

通称、パンダセンサー」

目の前に浮かぶ白黒モチーフの装置を、カメラ越しに指さす。

「なお『パンダセンサー』は今思い付いた」

『今名付けたのかよw』

『即興かよ、天才か?』

『#パンダセンサー承認』

「それはさておき。

簡単に言うと、視界・音響・微振動から罠の予兆を解析して、視覚ノードに情報を投影してくれるって代物だな。高精度だけど、あくまで予測レベル。

甘えすぎんなよ?」


コメント欄がざわつく。

『案件だけど説明うめぇな』

『#意外と真面目』

『鉄狼もこういうの得意だったよな』


「ちなみに、知ってると思うけどプラスチック系の部材が劣化して爆散するの、割とガチ。

空間歪みでポリマー結合が急速劣化するっぽくてな。

グロック? 無理無理。ドリフターよろしくバラバラよ。

むしろドリフターズってよりドリフコント?」


『#技術者枠かよ』

『言い回しが詳しすぎる』

『あれ?鉄狼もそんなこと言ってた……』


「ま、ちょっとだけ現場かじってたんでな」


──ああ、やっちまったか?


仮面の奥で肩をすくめる。だが、否定はしない。


『やっぱ中の人ガチ説』

『#鉄狼=Even説再燃』

『いやでも見た目パンダだぞ?』


──それで混ざるなら、まあ……悪くない。


ただ、映える演出の裏で、誰かの刺さるような視線。

そんなパンダセンサーにも引っ掛らない気配を感じ取った。



【To be continued】


お読み頂きありがとうございます。

今回の話では、仮面の下の男の「本性」が少しだけ顔を覗かせました。

元・鉄狼。ただのネタ枠ではなかったことを、視聴者もまた思い出し始めます。

次回、配信は一時中断──

だが、舞台裏では別の物語の幕が静かに上がります。

良ければ評価を御願いします。

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