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伝説の探索者、今はゴスロリ配信者です ~娘にバレずにダンジョン芸術で食っていく~  作者: 製本業者


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33/40

33. そこにあるトマソン

“ぶらダンジョン”と銘打たれた、インゲンとの久々の合同配信。

アクションを抑えた探索の中で、偶然にも二人が選んだ場所が重なっていて――。

今回は、久々のコラボ枠。

遠征して行った一連のパルクール系配信が一区切りついて、さて次は何をしようかと考えていたところ――

インゲンから一本のコラボ申請が届いた。


もちろん、即OK。

内容を聞いて、思わず「それだよ!」と膝を打った。

どうやら、前に話していた「超芸術トマソン」らしきものを、インゲンも配信中に偶然見つけたらしい。

そこで、今回はお互いが見つけた“トマソン物件”を持ち寄って、一緒に調査に行くことにした。


そして本日、指定の場所で待ち合わせ。

お互いログインしてすぐ、コラボ申請をポチッと送って――コラボ成立。

画面も、コメント欄も連動して共有状態になる。


特に打ち合わせていたわけでもないのに、気づけば二人ともゴスロリ姿。

目が合った瞬間、思わず同時に吹き出す。


「うわ、そっちも!?」「そっちこそ!」


俺はトマソン調査に合わせて、例の“顔横固定型カメラ”を装備してきたが、インゲンは軽快なドローンカメラ。

画面を切り替えながら、今回はインゲン視点をメインに進めていくことにする。


「……ってことで、今日のコラボはインゲンとです!」


少し明るめのトーンで、開幕トークを投げる。

最近はアクション全開というより、少し語り寄りの配信が増えてきたので、その分オープニングでテンションを上げる工夫もしている。


『キター!イーブン×インゲン!』

『推しと推しの供給ありがとうございます』

『なんだろう、既視感あるカップル感』

『黒ゴス×黒ゴスの破壊力』

『とりあえずカメラ切替ありがてぇ』


「じゃあ、今日はインゲンの行きたい場所にしようか」

「えっ、いいの? てっきり“例の階段”に行きたがるかと思ってた」

「うん、行きたい。でも今日は、インゲンが見つけた場所から見てみたい気分だったんだ」

「ふふ、じゃあご案内します。ちょっとパルクール向きじゃないけど、興味深い地形よ」

「……とか言いつつ、どうせ跳びまわって見つけたんだろ」

「ご明察」

「よし、じゃあ今日はぶらダンジョンで行こう」


『……ぶら?』

『ブラ・ダンジョン!?』

『やめろwwwイーブンはともかくインゲンはダメだろw』

『どっちも見た目的にアウトwww』

『タイトル回収早すぎる』


「違う違う、ぶらぶらの“ぶら”。

のんびりぶらぶら歩くダンジョン探索。

ぶらり旅ってあるじゃん? あれのダンジョン版」


『あー、“ぶらたも”のノリか!』

『なるほど、ダンジョン旅情回か』

『それはそれでアリ。考察はよ』

『たまにはアクション封印してもイイネ』

『この二人で“ゆる回”?って逆に緊張するわw』


インゲン互い見合わすと、ダンジョンの奥へとゆっくりと歩き出す。

ただのコラボに見えて、実は何かが始まる予感。

そんな空気が、コメント欄の隅々にまで静かに漂っていた。

……フラグでも何でも無く、普通のコラボなんだけどな。



○ ★ ◇ ★ ○


──東都電装・企画部


「……最近、妙に空気が緩んでないか?」

誰に聞かせるでもなく呟いた舟橋に、加藤が苦笑交じりで言う。

「まあ、“反省しました”のポーズだけは取ったしな。今さら誰も本気で追及しないって思ってるだろ」

二人は、社内で“正義感が強すぎる”と密かに評される若手社員、小泉を目で追う。生真面目で融通が利かず、それでいて声が大きい、扱いやすい札。

「小泉くん、ちょっといいか」

応接室に呼び出された小泉は、すぐさま背筋を伸ばした。

「君、最近の一連の件、どう思う?」

「当然ながら、社として誠実な対応が必要だと思います!」

「……まったく、君みたいなのがもっといてくれればなぁ」

「……恐縮です」

小泉の強張った表情が、わずかに緩んだ。

(ずっと、加藤部長のように、上からの圧力に負けない大人になりたかった――)


期待通りの反応に、加藤は頷きながら上司らしい顔で言った。

「だがな、責任ってのは一部門じゃなくて“会社全体”の問題なんだ。企画部のやつらが言い逃れてるが、火元はあいつらだよ」

舟橋も横から煽るように加えた。

「誰かがちゃんと声を上げて、企画に自覚を促さなきゃ、同じ過ちが繰り返される。それが“本当の正義”じゃないのか?」

小泉の目がぎらりと光った。

「……分かりました。私が、やります」


(ちょろい)


加藤は内心で鼻を鳴らした。

舟橋も、そういや前にもたきつけて海外支社に怒鳴り込ませたりしたな、と思い出す。あのときも、海外支社には落ち度無かったのを小泉がまくし立てて、イメージだけで悪者に仕立て上げたっけ。

今回も、その流れでいけるだろう。


○ ★ ◇ ★ ○


インゲンの案内で、俺たちはゆっくりと歩いていく。

パルクールで駆け抜けるいつもの彼女とは異なり、今日の足取りは穏やかで柔らかい。

けれど、その歩き方には不思議な軽やかさがあった。足音さえ、どこか心地よく響く。


道中、彼女はふと立ち止まり、小さなことに目を向けては蘊蓄を挟んでくる。

光の角度、壁の模様、崩れた天井の素材……どれも彼女なりの“視点”で語られる。


「ここ、いい光の入り方してるな……影の落ち方が絶妙だ」

「でしょ? ここの天井、部分的に崩れてて、自然光がきれいに入るの」


言われて見上げると、朽ちた天井から斜めに光が射し込み、埃の粒がふわりと舞っている。

その奥に、まだ見ぬ景色が続いているような気がして、自然と足が前に出た。


『いつもの爆速移動と違って新鮮だな』

『光と影、こんなに綺麗だったんだ』

『まるで探検映画のワンシーン……』

『BGMが脳内再生されるわこれ』

『風景で泣きそうになるの初めてかもしれん』


静かな興奮が、コメント欄をじわじわと包み始めていた。


……ふと、足元に違和感を覚える。


「なんか、見たことある気が……」


歪んだ鉄柵、崩れかけた段差、壁の構造。

どこかで見たような、妙な既視感がある。


「しかし、この辺は初期に作られたもんだな」

「何でわかるの?」


俺は朽ちかけた樹脂の断片と、むき出しになった鋼材を指差して説明した。


「この時代の構造は、コスト優先でポリエステル系とかののエンプラ、要はガラス繊維入りのPBTとかを多用してたんだよ。

でも、ダンジョン内じゃ紫外線も湿気も無いのに、樹脂の劣化がやたら早いって、後から分かった。

ここはたぶん、その前の設計思想で作られてる」


『詳しすぎて草』

『こういう解説助かる』

『理屈で来るのいいなぁ』

『なるほど、ロストテクノロジー感ある』


そして――角をひとつ曲がった先。


視界が開けた瞬間、俺の足が止まった。


「……あれ……ここ……」


言葉が自然と口から漏れる。

目の前に広がっていたのは、まさに、俺が“次に行こう”と考えていた調査候補地だった。


「――ここ……俺、来ようと思ってた場所だ」


『え? マジで?』

『それって、前言ってた“あの場所”?』

『何この偶然……』

『引き寄せた説あるな』


「うん、次に探そうと思ってた“トマソン”、ここだったんだよ」


『スゲぇ鳥肌たった……』

『これもう運命やろ』

『はいはいロマンティック禁止』

『でもマジで映画みたいな展開』


「だとしたら、面白すぎるな。やっぱ運命的な……」

「――はいはい。探索、しよ?」


少し照れたような笑みを浮かべて、インゲンが小さく肩をすくめた。

俺も、それにつられて笑う。

なんでもない会話が、いつもより少し、嬉しく感じられた。


そして、もう一度ゆっくりと歩き出す。

“ぶらダンジョン”、はじまりには、ちょうどいい空気だった。


……ゴスロリより、モボ・モガなファッションの方が似合ってたかな?



○ ★ ◇ ★ ○


──夜・狭間家・ダイニング


湯気の立ち上るカレー鍋を囲みながら、狭間家の食卓には、最近では珍しく家族全員の笑顔が揃っていた。


「ねぇねぇ、おねーちゃんのあの動画、見せていい?」

「編集したやつ?」

「うん、パパとママが直してくれたの。かっこよくなったよ」


優翔がノートPCを持ち出し、再生ボタンを押す。

画面に現れたのは、先日のコラボ配信から抜粋した一場面。ゴスロリ衣装のインゲンと、やや照れた様子のイーブンが、ダンジョンの奥で手を繋いでいた――いや、恋人繋ぎだった。

「ちょ、ちょっと! これカットするって言ってたじゃん!」

慌てて立ち上がるインゲンの声が響いた。

「まだこんなことしてないよっ!?」


言い終えるや否や、隣でカレーをすくっていた優真が、箸を止めた。

「ま、まだって……どういうことだ!?」

「……まるで、娘を嫁にやりたくない父親の反応ね、ふふ」

美沙が茶化すように笑い、カレーの鍋を混ぜながら言った。


その一言で、ふと場が静かになる。

――娘?

そう、いつの間にか、彼はこの少女を「他人の子」ではなく、「自分の家族」として見ていた。

視線を向けると、インゲンが頬を赤く染めて、椅子に座り直しながら言った。


「そんなんじゃないよ。……父さんに、ママ」


言い終えた瞬間。

「やったー! おねーちゃんが“父さん”って言ったー!」

「“ママ”も言った! やったー!」

優翔と美菜が、声を揃えて飛び上がった。


その無邪気な歓声に包まれ、優真と美沙は顔を見合わせる。

数週間前まで、名前すら口にしてくれなかった娘が、今こうして“家族”と呼んでいる。

どちらからともなく微笑みがこぼれた。少し前まで想像すらできなかった、穏やかで、柔らかな時間。


過去の後悔も、罪悪感も、全てが消えないし、消してはいけないと思っている。

けれど……この家族だけは守らないと。



○ ★ ◇ ★ ○


――数日後、東都電装『企画部』


小泉は企画部内で大声を張り上げていた。

「なぜこの経費処理が通るんですか!? 業者との契約更新に関しても、ガバナンスがザルじゃないですか!」

突然の“監査官”ムーブに、企画部員たちは戸惑いを隠せない。


「小泉さん、それは別部署の――」

「黙っててください! これは会社としての問題です!」


彼は指示権限を持たぬまま指導を始め、無理な是正を命じ、パワハラまがいの叱責も行った。


止めに入った課長が「コンプライアンスに反しますよ」と穏やかに諭しても、

「そんな些細な問題ではありません!」

と即答したという。


その報告を耳にした加藤と舟橋は、顔を見合わせて苦笑した。

「やりすぎたな」

「いや、むしろちょうどいいんじゃないですか? 

ああいう奴を処分することで、うちは真剣に取り組んでますってポーズが取れるんで」

「スケープゴートってやつだな」

そう言って、加藤は資料を閉じた。

「……まあ、俺らはあくまで事実を伝えただけだからな?」

逃げ道を確保しながら、なお悪足掻きを続ける彼ら。


だが、その足元では、静かに地雷が踏み固められていた。


【To be continued】


お読みいただきありがとうございます。

次回、再び動き出す特許問題の影。

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