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元社会人配信者、ダンジョン芸術で食っていく 〜娘にバレずにゴスロリ姿で世界救ってました〜  作者: 製本業者


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28. 偽られた栄転

トマソンーー無用の部分を芸術として捉える、超芸術。

そんな中、一つは静かに、一つは激しく、動きがあった。

「……ん? トマソン?」

配信中、視聴者のコメントに流れてきた単語「トマソン」。

あのときは流したが、何となく引っかかっていた単語を、今更だが検索してみる。


【トマソン - Wikipedia】


超芸術トマソン(ちょうげいじゅつトマソン)とは、赤瀬川原平が命名した概念芸術。建物などの一部において、もはや使われていないが維持・管理されている無用の部分を芸術として捉える。例として、行き止まりの階段や塞がれた扉などがある。


「なんだこれ……めちゃくちゃ面白いじゃん」


意味がないのに“保存されている”構造。

誰にも使われないのに“取り壊されない”空間。


──まるで、昨日のダンジョンの片隅にあった、あの建造物みたいだ。


形としては一つの空間なのに、元々の入口らしき部分が無理やり埋められ、わざわざ別の場所に“新たな入口”が設けられていた。

どう考えても非効率なのに、なぜか「壊さず残された」痕跡。


「あれって、“超技術トマソン”って感じだったのか……」


「無用の美」──そんな言葉があること自体、驚きだった。

でも、あの不自然に残された構造は、たしかに“役に立たないけど、なぜか消されずに残された”という意味では、まさしくトマソンだ。


しかも、それが人工的な意志によって“設計”されたのだとしたら……。

それってもう、実用を超えた「何か」なんじゃないか?

キーボードを叩く手が止まり、画面に映る錆びた非常口と、その先にある使われなくなった回転扉の画像に見入る。

まるでダンジョンの内部構造そのものじゃないか。

古代文明の名残?

それとも何かの設計ミス?

けれど、そこに漂う“わけのわからなさ”が、逆に妙な味わいを持っている。


「よし。次の配信、これをテーマにしてみよう」


いつもみたいに攻略やバトルじゃなくて、「無意味な構造の美しさ」について語る回。

文化系っぽい配信もたまには悪くない。

ダンジョンで見かける“謎の構造”や“使い道不明の建材”に、視聴者と一緒に「これはトマソンか?」とツッコミを入れていく。

文化系ネタとして、ガチ勢からもネタ勢からも受けが良さそうだ。


「しかも、これ──どこかで見た気がするんだよな……あの子と一緒に」

独り言の語尾は、誰に向けるでもなく、ディスプレイに溶けて消えた。


△ ◎ ☆ ◎ △


――帰宅後のリビング


晩飯の余韻が残る空気の中、子どもたちがインゲンの部屋に遊びに行ったのを見計らって、優真が口を開いた。


「……異動、俺から申し出たんだ」

美沙がちらりと視線を向ける。反応は薄いが、聞いている。

「営業から品質保証の方へ。上司にも話を通した。週明けには辞令が出るはずだ」

「……そう、なの」


美沙はそう言ったきり、少しだけ視線を落とした。

その手の中で、カップの縁をなぞる指が止まる。


「私も、今日正式に言われた。課長昇進の辞令が出た……って」

「そうだったね。正式な辞令が出たんだ。

おめで──」


「……名目上はね。実体は、調達部門の中でも扱いの軽い部署。栄転って言われたけど、左遷みたいなもんよ」


皮肉でも自嘲でもない、ただの報告。

それが余計に、胸に刺さった。


「私は……あの子たちと違って、前向きになんて考えられてなかった」

静かな言葉だった。責めてもいない、慰めも求めていない。ただ、事実として吐き出すだけの声。


「だから……話しておこうと思う。あなたにだけは」

優真は姿勢を正す。何かが変わる、そう直感した。


「翠の父親……本当は、あなたなの」


一瞬、呼吸が止まった。


「……俺?」

美沙は頷く。その表情は、もう過去を責める色ではなかった。

「鉄也と結婚する前。あなたが学校に入る前……付き合ってた頃があったでしょう?」

思い返せば、不自然ではない。

だが、だからといってすぐには飲み込めない。戸惑いと、わずかな怒りと、確かにあった過去が脳裏を駆け巡る。


「……だからか、どこかで引っかかってたのかも」

「え?」

「翠のこと、義理の子って割り切れずにいた理由が」

「……何か感じてたのね」

「養育費貰ってたってことは……托卵……」


「……そんなつもりは、なかったの。

血液型は不自然で無かったし、顔とかも私に似てたし。

それに、軽かったから、ちょっと早産だったかもって。

……だから、調べるの怖かった。

でも、結果的に……そうなってた」


美沙は唇をかみしめた。目元には、いつもと違う翳りが差していた。張りつめていたものが、ゆっくりと溶け出していくように。

優真は何も言えなかった。

詰る資格など、自分にはない。

かといって、許す立場でもなかった。


ただ、胸のどこかに、少しだけ確かな何か──受け入れがたく、でも拒みきれない感情の種だけが、静かに芽吹いていた。


△ ◎ ☆ ◎ △


――NeoTask社・本社ビル、応接室。

応対していたのは、法務担当の取締役であり、慎重で知られる男だった。


「……それでは、念のためお伝えしておきます。貴社ご担当部門からの一連の対応について、弊社の顧客向け配信で不適切と見なされる事象が確認されました」

その言い回しはあくまで丁寧だったが、確かな圧があった。

沈黙がしばし流れたのち、東都電装株式会社の役員は頭を下げた。


「詳細は、確認させてください……。

加藤か舟橋か、いずれにしても製品側と関わっていたはずですので」


数日後――


東都電装、役員会議室。


「加藤くん。

NeoTask社から、そっちが出したコメントや対応について問い合わせが来ている。何があったんだ?」

穏やかな声で切り出した。

だが、加藤部長の反応は即答だった。


「えぇ? あれはですね……商品企画部の方で勝手にインフルエンサーと組んだ案件でして。うちは聞いてなかったんですよ」

「しかも、関連の調査や法務連携も、うちの部署じゃないですし。舟橋課長も“実質関与なし”と証言してます。あちら側の怠慢かと」

「……つまり君たちは、関与していないと?」

「はい。私の方では把握していなかったことですし、問題を広げる前に処理しておくべきだったのでは。

逃げるな、って言っておいてくださいよ、そちらの責任部署に」

役員は言葉を失った。

だが、その後の対応は、もっとひどい方向に傾いていく。


△ ◎ ☆ ◎ △


動画編集ソフトのタイムラインを、優翔がスクロールするたびに、画面の中のインゲンが跳ね、飛び、壁を蹴って駆け抜ける。


「……やっぱこのルート、映えるなあ」

「うん、でも次のジャンプ、ちょっと揺れてる。ここ、補正いれたほうがいいかも」


美菜が隣で、軽く前髪をかきあげながらモニターを覗き込む。

映っているのは、インゲンが石畳の壁を連続で蹴り上がり、梁に手をかけて体を引き上げ、天井スレスレを転がるように滑空する姿。


「……ここ、ほんとすごいな。てゆーか、どこ走ってんの、これ……天井じゃん」

「うん、壁→梁→天井のトラバース。ふつう逆走なのに、パンダンさんルート参考にしたって言ってた」

「おねーちゃん、絶対おかしいよね。配信者として」

「褒めてる?」

「もちろん。すごすぎるってこと!」


タイムラインの上にエフェクトが加わり、BGMがリズムよく挿入される。

編集画面のプレビューでは、カメラが追い切れず遅れるたびに視聴者コメントが飛ぶ。


『速度やば』

『忍者か』

『これもうRTAじゃん』


「パンダンさんってさ……おねーちゃんのパパだよね?」

ぽつりと、美菜が言った。

その声の調子は、軽いようで、どこか確信を求めているようだった。


「え? ……なに言って──」

「だって、あの二人で話してる時の空気、おとーさんとおかーさんが昔そうだった感じに似てるよ?」

「うーん……あのね……」

急に言葉が詰まる。何かが喉の奥に引っかかる感覚。

「じゃあさ、結婚するの? パンダンさんと」

「ぶっ!! な、なに言ってるの、美菜!!」


思わず椅子が軋むほどの勢いで振り返り、顔を真っ赤にするインゲン。

が、美菜はいたって真顔だった。

「結婚するなら、おとーさんとおかーさんにも報告しないと」

そう言って、きょとんとした顔で笑う。

当たり前のように。


──おとーさんと、おかーさん。

……それは、彼女にとっていま、どこか気まずい存在だったはずなのに。

「……そっか、そだね。ちゃんと、話さなきゃ……」


インゲンは編集画面に目を戻しながら、ポツリとつぶやいた。

その視線の先には、走り抜ける過去の自分が映っている。


けれど、心はゆっくりと──立ち止まりかけていた家族への道を、振り返ろうとしていた。


△ ◎ ☆ ◎ △


――東都電装株式会社・広報企画部。


「……マジでこれ、俺らのせいってことにされてるのか?」

「“誤送信コメントの処理を怠った”“炎上時の連絡不備”……って、ぜんぶ加藤舟橋(あいつら)が捻じ曲げた内容じゃないか!」

部門責任者がNeoTask社に頭を下げるよう命じられ、苦情文面の草案まで押し付けられていた。

そして何も理解出来ていない社内の役員達の的外れな叱責が飛び交う。

「なぜ、反省の態度が見られない? 君たちの対応が、NeoTask社との関係を悪化させかねないんだぞ」

「社としての責任感が足りない。信頼回復が最優先だ」


そんな理不尽な怒号が、現場に突き刺さる。

だがそれも、「NeoTask社の幹部が、明確に不快感を示した」という報告に基づいた、上層部の暴走だった。

当のNeoTask社は、個人名を挙げず、「貴社内の対応に問題があるように見受けられる」とだけ伝えただけだった。

だが、役員たちは表面的な説明と保身に終始する加藤部長を信じ、現場に火をつけてしまったのだ。

舟橋課長は、この件について一切の社内説明を拒み、「自分は議事録に名前が出ていないから関係ない」と発言。

だが実際には、関連ミーティングの録画にしっかり映っていた。


そして、そんな中で少しずつ動き出していたのが、NeoTask社法務部から役員会への正式な照会の準備だった。



【To be continued】


今回もお読みいただきありがとうございました。

ダンジョンで見つけた超芸術トマソン。一方で、優真・美沙は過去に向き合い、その一方でかっての敵が動き出しました。

次回、ワルサーからベレッタに交換してトマソンの調査に赴きます。

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