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元社会人配信者、ダンジョン芸術で食っていく 〜娘にバレずにゴスロリ姿で世界救ってました〜  作者: 製本業者


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14/40

14. 夜を越えて

配信の裏で、それぞれの夜が始まる。紅茶とともに揺れる家族の記憶と、失われた時間の断面。

そして新たな過去が……

このダンジョンの休息所ブリーフィングエリアに戻って来たところで、インゲンとは別れた。

本当はインゲン同様に直接戻りたかったのだが、同じタイミングで……言い直そう、一緒に帰るのが怖かったんだ。


休息所に置かれた紙コップに粉ミルクを入れると電気ポットから湯を注ぐ。そして、個包装を破って出したアッサムのティーパックを、紙コップに入った湯に浸す。


パイプ椅子に座ると、パンダセンサーを外して膝の上に置く。

配信終了のボタンを押しても、HUDの通知がしばらくチカチカと点滅していた。


『#DNA検査しよ』

『#やっぱ親子』

『#正体は元ガチ勢説』


ティーパックを数回上下させてから、ゴミ箱に投げる。

コメント欄は、未だ紙コップの紅茶よりも熱く、冷める気配を見せなかった。


▽ ★ △ ★ ▽


──インゲン視点──


「「おねーちゃーんっ!」」


着替え終わって、キッチンでお湯を沸かしていると、玄関の扉が勢いよく開いた。

呼び鈴くらい鳴らしてって、毎回言ってるんだけど、まるで自分たちの部屋の延長か何かみたいに、当然のように合鍵で入ってくる。


「ちょっと、せめてノックしてよ……」


ため息をつきつつも、急に明るくなった空気に、どこか救われる。


ふたりとも小さな手にそれぞれぬいぐるみを抱えながら、わちゃわちゃと足音を響かせてリビングに駆け込んできた。弟の颯真そうまと、妹の柚葉ゆずは。あたしとは十二歳離れているけれど、ずっと懐いてくれている。


「おねーちゃん、なにしてるのー?」

「お湯? お茶?」


柚葉が顔をのぞきこむようにして聞いてくる。笑って答えようとしたそのとき、戸棚の中を見て、紅茶のストックが切れていることに気づいた。


「……あー、ごめん。ティーパック、切らしちゃってた」


「えーっ」「うそーっ」


ふたりがそろって小さな抗議の声を上げる。その顔があまりにも可愛くて、つい、ぷっと吹き出してしまった。


「ごめん、ごめん。じゃあ、一緒に買い物行こうか」


「行くっ!」

「チョコレート買ってもいい?」


「……はいはい、条件付きでね」


頬を少しふくらませて甘えるふたりに、あたしの強張っていた心が、すこしずつほぐれていくのがわかった。


まるで、全部お見通しだったかのように。

まるで、あたしの中の“モヤモヤ”を、ふたりがごまかそうとしてくれているかのように──


▽ ★ △ ★ ▽



自宅に戻ると、俺は真っ先に装備一式を解いて、パンダ仕様のゴスロリ衣装を脱ぎ捨てた。

部屋着代わりのポロシャツとジーパンに着替えながら、無意識のうちにため息が漏れる。


「……いや、終わったって。もういいだろ……」

そう吐き捨てて、手に持っていたヘッドセットを仮面と一緒に机の上へ放り投げた。

金属が擦れる音と共に、俺の中の演じていたキャラが静かに崩れていく。


頭が、少しだけ痛かった。


笑いで誤魔化したつもりだった。

タグで騒がれたって、リスナーの冗談の一環──そう割り切って終わるつもりだった。


……だけど。


(あいつの、あの沈黙……)


あれだけ饒舌だったインゲンが、言葉を選ぶように固まったあの一瞬。

映像の中ではごまかせたとしても、こっちは誤魔化せなかった。


仮面の奥で目を伏せたまま、手元の冷めきったアールグレイを口に運ぶ。

香りは、なかった。


「……墓穴、掘ったかな」

皮肉のような独り言が、部屋の中にぽつりと響く。


リプレイ画面では、フリルが跳ねる。

突撃銃が発射する瞬間に、スライディング。

バク転に合せてマグナムが閃く。


そして、インゲンが言葉を呑み込んだ瞬間。


「こんなわかりやすい連携、そりゃ疑われるわ……」


俺は静かに頭を掻いた。

そして、再び机に視線を戻す。


仮面。赤いリボン。パンダセンサー。

全部、自分で選んだ“隠れ蓑”のはずだった。


──それなのに。

よりによって、一番隠したいものを、さらけ出してしまうとはな。



▽ ★ △ ★ ▽


──インゲン視点──


ユニットバスから湯を抜き、ざっとバスタブを洗い流してバスローブに着替える。

弟と妹は、先にお風呂を済ませて、すでにベッドでぐっすりと寝息を立てていた。


リビングに戻ると、照明は落ちたままなのに、壁のモニターだけがぼんやりと光っていた。

タブレットと同期しているその画面には、ついさっきまでの配信の録画が流れている。


リモコンで再生バーを巻き戻すたびに、映像の中に“なにか”を探してしまう。

少し前と違う角度、違う仕草、違う呼吸──

そのたびに、あの人の正体を確かめるように、気付けば何度目かのリピートに入っていた。


「……お父さん、なんだよね?」


ぽつりと、口に出た。

もちろん、誰も答えてはくれない。


パパは、敵の前でバク転したり、宙返りしたりするような人じゃなかった。

どちらかといえば、動きはシンプルで、堅実。

でも──


撃ち方、銃の持ち方、目の動き。

なにより、弾数の管理と……間の取り方。

それらが、あたしの記憶の中のパパと、綺麗に重なっていた。


「もし、そうだったら……なんで、黙ってるのさ」


そう思っていると、ふいに、弟と妹の言葉が蘇る。


「このパンダさん、おねーちゃんのパパにそっくりだね」

「おねーちゃんが教えてくれた動きながら狙うってやつ、やってたー!」


からかいでも冷やかしでもなく、純粋な観察から出た言葉だった。

あたし自身が無意識に教えていた“何か”を、彼らが見抜いたということ。


シャワーで少し濡れた髪をタオルで拭きながら、寝室の扉をそっと開ける。

薄暗いベッドルームに、小さな寝息がふたつ。


あたしが母の家を離れずにいる理由。

このふたりの存在がなければ、きっととっくに壊れていた。


(それでも──)


自宅のベッドで寝るよりも、この部屋の方が落ち着くようになったのは、いつからだろうか。


──でも、もう、あたしは知ってる。

……ううん、知ってしまった、のかもしれない。


次に会ったら、ちゃんと──聞いてみようか。

でも、それは、今日じゃない。


▽ ★ △ ★ ▽


動画を見返して思わず頭を掻いたそのとき、通知が一つ、浮かび上がった。


【From:中村(NeoTask)】

〈明日の案件、追加で調整が入りました。あと、例の件──少しだけ、話をしたいです〉


「……ん?」


画面の通知を眺めながら、俺は眉をひそめる。


例の件

それは──まだ、知られてないはずの、過去の話だった。


【To be continued】


最後までありがとうございました。

インゲンは弟妹と過ごしながら“ある答え”に近づき、イーヴンは仮面を外してひとり悩む。

すれ違いと沈黙の中で、それでも少しずつ“過去”が交差していく様を描きました。

次回、NeoTask社との会話の中で、ついに“あの事件”に触れる人物が現れます。

核心に迫る展開を、どうぞお楽しみに!

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