13. 世界最強……だった
連携スキルが発動。シンクロする動きに、視聴者も少女も揺れ始める
なぜ、ここまでシンクロ出来るの?
少女の思いは尽きない。
──インゲン視点──
閃光の直前、あたしは無意識に身体をひねって跳んだ。
反射的にFA-MASを手放して、爆風を避ける。
焼けた金属とオゾン臭が混ざる空気の中、回避に失敗していたら吹き飛んでいたかもしれない。
重低音が腹に響く。キューブの一体が、内部から崩壊するように砕けていった。
パンダ──いや、イーヴンの仮面が、白黒の縁をわずかに傾けてこっちを見た。
「おい、無事か!」
「だ、大丈夫……そっちこそ!」
「耳がキーンってしてるけど……まあ、許容範囲」
その声は、仮面越しでもどこか気遣いに満ちていて──懐かしかった。
あたしはゼェゼェ息をしながら、イーヴンの姿を見る。
右腕に抱えていたのは……あたしのM29。
弾倉の匂い、火薬の臭い。ついさっきまで撃っていた。
9mmパラベラム弾じゃあ貫通できても壊しきれないって思って渡した、映画だと世界一強力って宣伝してた銃。
だけど――
(なんで……なんで、そんなに自然なの?)
「三発しか入ってなかったな」
そう呟いて、彼は少しだけ口元を緩めると、リボルバーの弾倉をスイングアウトし、流れるような動作でロッドを押して排莢する。
「さっきも言ったけど、反動で跳ね上がって……自分の顔に向いたら、危ないからな」
そして、手渡しした44マグナム弾を、一発ずつ、わざと一発分だけあけて詰めていく。
──そのやり方。
それ、パパが昔……あたしに教えてくれた、やつじゃん。
それも、偶然じゃ無く、馴染んでる。
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
違う。違うはずなのに。
けど──なんで、そんなことまで……
(まさか、やっぱり……)
言葉にできない何かが、喉元でつかえていた。
◇ ◆ ◇
コアキューブ・レヴは、まだ沈んではいない。
外殻をマグナムで吹き飛ばされた中央部が、むき出しの状態で宙に浮かんでいる。
赤黒いコアが回転しながら、異音とともに最後のフェーズへと移行する。
「来るぞ──!」
「うん!」
イーヴンの叫びと同時に、あたしはM29を再びホルスターに戻し、FA-MASを構えた。
だがその時──
【配信者ネーム:Even Laive、連携確認。仮想ギミックモード〈シンクロ・フレア〉を発動可能です】
HUD越しに、ギミックからの通知が現れた。
(まさか……!)
あたしとイーヴンが、同じタイミングで飛び出す。
あたしが跳び、イーヴンが滑る。
まるで台本があるかのように、フリルとヘッドセットが舞う。
そしてあたしが駆け、イーヴンが舞う。
ゴスロリとSWAT、そして──絶妙な軌道。視聴者のコメントが炸裂する。
『連携スキル!?』
『いや、これガチで親子じゃね?』
『#完璧すぎるコンビネーション』
『#動きがシンクロしてる』
『#大熊猫と青い鳥』
『#最強の遺伝子』
──もう、どう返していいかわからない。
でも、あたしの身体は自然と動いていた。
「Go ahead, make may day!」
イーヴンはそう叫ぶと敵の死角へと滑り込み、同時にあたしが牽制射撃。
そして──イーヴンの右手が、赤いコアのど真ん中に、ナイフを突き立てる。
【──ターゲット、沈黙。配信映像記録、終了範囲に到達しました】
空間に響いたのは、機械音だけだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「いやぁ……やっと終わったな」
仮面越しに汗を拭きながら、俺は視線を向けた。
インゲンは、何かを言いたげに口を開きかけて、また閉じた。
(言いたいこと、あるよな。……でも、まだ言わないんだな)
「さーて、後は〆のコメントと、バズりタグの確認でもするかーっと」
軽口を叩いて、HUDのコメント欄に目をやる。
──その中に、ぽつんと、ひときわ目を引く文字列が流れてきた。
『……お父さん?』
「ぶっ──!?」
思わず、声が裏返った。
ピキィンとカメラが動揺を拾って、画面が微妙にブレる。
──同時に、画面のコメント欄が爆発的に加速する。
『#親子説再浮上』
『絶対パパって呼んでたろ今!』
『パンダと青い鳥、完全に家族構成』
『#DNA検査しよ』
『中の人同じ説まだ生きてるぞ!?』
「ちょ、やめろやめろ。ネタが暴走しとる!」
俺は仮面の奥で額を押さえながら、苦笑するしかなかった。
(こんな流れ、一番動揺してんの俺だよ……)
だけど、画面の隅で映る青い鳥ことインゲンは、ただ沈黙していた。
彼女の横顔からは、笑いもツッコミも返ってこなかった。
その“無言”が、視聴者には届かない。だが、俺には痛いほどわかってしまう。
(……頼む。今はまだ、聞かないでくれ)
「いやいやいやいや、俺にこんな可愛い娘なんていねぇってばよ!?」
場を変えるべく笑いながらツッコむが、視線の端で……
インゲンの表情が、ぐらりと揺れるのが見えた。
(あ……)
……やば。
仮面越しでも、わかってしまう。
あの一言が、何かを突き刺したのだと。
でも──どうして、そんな顔を。
(お前が、そこまで俺に……?)
いや、違う。
俺は彼女のパパじゃない。もう、その資格はない。
でも──
(それでも、名前を呼ばれるたびに、胸が痛いのは……なんなんだよ)
【To be continued】
今回もお読みいただき、ありがとうございます!
仮面越しの視線、スライドリロード、連携技……
見ている人間にはネタに見えても、ふたりにとっては記憶の断片そのもの。
次回は、配信終了後の静けさの中で、それぞれが自分と向き合う時間が描かれます。
ぜひ、もう少しだけ彼らに寄り添っていただければ嬉しいです。




