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おひとり様48歳、ネズミとはじめるルネッサンス

作者: プリンパン

はじめての投稿です!どうぞよろしくお願いします。

私は篠原麻衣子。昭和生まれの氷河期育ち。ブラック企業でめちゃくちゃに働き鬱になって退職。実家に帰って、家事手伝いをしながら婚活に励んだけれど手遅れだった。


転職活動は大変だったけど、なんとか再就職できた。給料は以前の半分だけど平和がなによりありがたい。郊外の安アパート、毎日ぎゅうぎゅうの通勤電車、正直しんどいけど、仕方ない。趣味は節約も兼ねて図書館巡り。老後は心配だけれど、まあなんとかなると自分に言い聞かせている。


そんで今日は48歳の誕生日。コンビニで買った缶チューハイと肉まんを手に、公園でひとり花見酒を楽しんでいた。


「おめでとう、わたし……」


すると、足元に小さなネズミがちょこんと現れた。


「かわいいなぁ」


肉まんをちぎって与えると、ネズミは喜んで食べ始め――


「助かった! 腹が減って死にそうだった!」


「えっ、しゃべった!?」


「我が名はチェーザレ・ボルジア。世界の王にして文明の主。この姿は仮のものだ。礼を言おう。」


「いいねえ、チューザレちゃんかー」


あらやだ、酔ってるねーわたし。


ペットボトルのキャップにチューハイを注ぐ


「チェーザレだ。まあいいか。」

「かんぱーい!」


かーわいい!お手々で抱えてチューハイ飲んでる!


「ふふふん、喋れるんなら付き合ってよ。今日はね、誕生日なんだ」


「誕生日ならレストランに行こう。あそこはうまいぞ、残飯で知っている」


「私には無理だよ。給料安いからね」


するとネズミは胸を張ってこう言った。


「ならば、金を稼げばよいではないか。」


ネズミのチューザレは、魔法の力で過去と現代を行き来できるという。


こちらのものを向こうで売り、あちらのものをこちらで売ればよいという。

ネズミの身では叶わぬが、私がやるなら協力するという。へえへえ。


コンビニへ行こう!

————⭐︎————⭐︎————⭐︎————


「まずは仕入れだ。」


チューザレが肩に乗る。コンビニへ向かう。


「あんまり目立たないようにね」

「承知である」


そっと店内を見渡す。


「この“シュガー・スティック”……これは王侯貴族の口を魅了する魔法の結晶だ」


「……ただのスティックシュガーだけどね」


「黙れ。これは“サトウ精霊の杖”とでも銘打とう」


私は苦笑しながら、カゴにぽんぽんとチューザレのお眼鏡にかなった品を入れていった。


缶詰フルーツ、ポケットミラー、ラメ入りシールにLEDライト。中でも一番気に入っていたのは、柔軟剤の試供品だった。


「この香り……まさに“恋人の夢”。貴婦人たちが争奪するに違いない」


お会計は10,000円ほどだった。チェーザレは肩の上で伸びをして満足そうにしている。


公園に戻り辺りに人がいない事を確認する。


チューザレは前足を高々と掲げて空中に複雑な模様を描き始める。最後の円が閉じると模様が光りくるくると回る。


「Tempus revertatur, ad Renaissance!(時を戻し、ルネサンスへ!)」


その瞬間、強い光が私たちを包み込んだ。まるで柔らかな風に包まれるような感覚と共に、視界が真っ白になる。


そして次に目を開けたときには、全く見知らぬ景色が広がっていた。


ルネッサンスへ来ちゃったよ!

————⭐︎————⭐︎————⭐︎————

賑やかな市場の喧騒。スパイスや香水の混ざり合ったエキゾチックな香り。見たこともない豪華な衣装に身を包んだ人々が行き交う。


え、え、えええーーーーっ

酔ってるにはリアルすぎる、ていうか、酔いさめたよ、わーまじか!


「さあ、行くぞ」


ところが、市場に着いてすぐ、私はある重大なことに気づいた。


「……ねえチューザレ、私、この時代の言葉わからないんだけど?」


「おっと、すっかり忘れておった!」


チューザレは慌てて私の額の前で円を描くように前足を振り上げ、呪文を唱えた。


「Lingua universalis!(ことばの壁を越えよ!)」


きらりと金色の光が私の周りにふわっと舞い、一瞬、耳の奥が熱くなった。


「これで、だいたい何でも話せるぞ。貴族も商人も子どもも、多少の方言は気にするでない」


「えっ……マジで? あ、あの〜こんにちは〜!」


通りかかった果物屋の青年がにこっと笑って「ごきげんよう、奥方」と返してくれた。


「しゃべれた!? すごい、これめっちゃ便利!!」


「ふふふ、言語の壁など魔法で乗り越えてこそ。我が名にかけて当然であろう」


チューザレが手際よく露店の空きスペースを見つけてきた。私は木箱の上に商品を並べる。


そして、チューザレが肩に乗り、耳元でささやく。

(東方より参りました珍品の数々! 王侯貴族も驚く香りと光の魔法!)


私は大声で復唱して、お客さんを呼び込んでいく。

「東方より参りました珍品の数々! 王侯貴族も驚く香りと光の魔法!」


最初は怪訝そうに見ていた人々も、鏡に映る自分の顔や、ラメシールの輝き、缶詰フルーツの芳醇な香り、その甘さに目を見開き、次々と人だかりができていった。


「これは……まさに魔法……」

「この香り、天使の羽衣のよう……」


あれよあれよという間に、商品は次々に売れていく。じゃらじゃらと小銭が集まってきた。チューザレは数字が得意なようで、ぱっと見でどんどん計算し、言われるがままにお金を受け取りおつりを返す。あっというまに完売した。


チューザレは店の後ろでにんまりと笑いながら言った。


「見たか、麻衣子。我が眼力は本物であろう」


私はうっかり笑ってしまった。


「すごいよ、チューザレ。これ、本当に売れるんだね」


「ふむ。我が名にかけて当然の結果だ」


今日の売り上げだけで小さな金貨に銀貨がじゃらじゃらだ。にやにやが止まらない。


「さてこれで豪華な誕生日ディナーにいけるぞ!」

「おー!!!」


ところが、ところが。当然のことながら金貨のままでは日本円が使えない。


チューザレが魔法で金貨を純金にしたら、親指くらいの塊になった。ずしっと重い。キッチン計りに乗せると100gちょっと。スマホで本日の金の価格を調べる。


「え、え、えええーーーーーっ」


150万円、まんえん!?!?!?


や、や、やばい!!!!!

これはやばい!!!!!!


とりあえず・・・

とりあえず、どうやったら日本円にできるかは、後で考えるとして・・・


「どうだ、稼げたであろう」

「誕生日のディナーに行こう!いっちばん豪華なやつで!!!」


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