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第七話

 悟は目を覚ますと、固くなった体をほぐそうと伸びをした。自分がタンクに入っている事に気が付いた悟はタンクに繋がっているマスクを外し、注意しながら床に降りると研究所とは違う場所にいる事に気付いた。

(ここはどこだ? フローリング……家、か?)

 目の前には年を取った悟二人がこちらを見ている。悟は事態を把握した。

「これは……成功したって事だな?」

「おめでとう。どこかおかしい所はあるか?」

 新しい悟は自分の体を見回し、少し動いた後笑顔になった。

「大丈夫だ! 何も問題は無いぞ! 成功したんだ!」

「それは良かった!」

 六十歳の悟達は上手く行った事に安堵した。

「なんでお前ら二人いるんだ?」

「三十五年前に一度複製したからな。君は二体目だ」

「そうだったのか」

 新しい悟は二人から研究を続けたが記憶や人格は引き継げなかった事、機械を小型化して家に持って来た事、二人は今六十歳である事、佐藤隆が結婚して子供がいる事などを聞いた。

「ふーん。結婚ね」

「そっちの悟はよっぽど披露宴でいい物食ったらしくてな、それ以来そっちと隆との関係は良好だ。あいつの家に遊びに行って息子と一緒に遊んだりしてるらしい。我ながらびっくりだ。俺はもうしばらく会ってないな」

 分身の悟は肩をすくめた。

「俺だけもしかしたら価値観が変わったかもしれないな」

「そうか。そうなると隆が急に家に来る可能性にも気を付けないといけないな」

 三人は頷いた。二人同時の老いた悟や若い悟の顔を見たら大変な事になる。

「ま、仕事と育児の両立で忙しいから大丈夫だろ」

 若い悟は驚いた。

「子育ても自分でやってるのか? こりゃあ驚いた。嫁さんも似たような人なのか?」

「ま、そういう事だ。俺には理解できんがね」

「まったくだ」

 オリジナルの悟と若い悟がそれぞれ頷き合った。

「俺も茂の、ああ茂ってのは隆の息子の名前だ。あいつのオムツを替えたりしてたぜ」

 二人は分身の悟を驚きの目で見つめた。


「そういう訳で記憶や人格の統合が引き続きの課題だ」

「分かった。考えたんだが……」

「何だ?」

「今回から三人になった訳だし、ニックネームを決めないか? 二人なら必要無いが三人だと俺とかお前で呼び合ってたら不便だろ?」

「それもそうだな。よしじゃあ……」

「最初のお前がオリジナル、その複製の俺がシャドウ、新しいお前が若、でどうだ?」

 オリジナルが笑った。

「構わないが、シャドウは格好つけ過ぎじゃないか?」

 シャドウは少し照れた。

「オリジナルと若は特別感あるし、いいだろこれくらい! 俺だけ分身だのスライムとかはつまらんじゃないか」

 若は手を打った。

「よし、じゃそれで決まりだ! 話もまとまったし少し街で遊んで来ても構わないか? 未来を見てみたいんだ」

 オリジナルとシャドウはお互いを見合って忘れていた事に気付いた。新しい悟にとってはここは三十五年後の未来なのだ。若はタイムトラベラーとしてこの世に生を授かったとも言える。

「もちろんだ、刺激的な未来を楽しんで来るといい。と言いたい所だが……。正直お一人様のコストが安い遊びが増えただけで大して面白い物は無いぞ。隆と一緒に茂を街に連れてった事があるが子供に見せられない物がてんこ盛りだった。何だったかな……まあ元々街で遊ぶのには興味無かったからな。あんまり覚えてないが」

「まあ俺も興味本位だから。少し見て来るよ」

「ああ……ああそうだ。色んな薬物がそこら中に出回るようになったから気を付けろ。多すぎていちいち説明するのも大変だ。売人が寄って来たら『俺はノーリスクだから』と言え。そうすれば今は押し売りして来る奴はいない。まあ、売人も必要無いレベルまで来てしまっているがな」

「ノーリスク?」

「体のリスクを取ってまで快楽は優先しないって事だ。俺からしたら狂ってるとしか思えないが世の中にはそういう人間が増えた。そいつらに言わせれば将来だの長生きだのは興味が無いらしい。

 ずっと昔からあったこの広い宇宙で、たかだか百年しか生きない人間にとって生きてる意味を見出すのは難しい。意味が無いのなら、だらだら生きるより早く死んだっていいから到達できる最高の気持ち良さを味わう方がいいっていう理屈がネットで流行り出して、その後はもう堰を切ったように自堕落な連中が増えた」

「ふーん。心電図みたいな連中だな。いつ止まるかは運任せってか。ま、分かったよ、ノーリスクだな」

「あとそうだな、ギャングには気を付けろ」

「ギャング? 外国みたいだな」

「許可を取れば銃も持てるようになった。派手に遊び過ぎてそいつらを刺激しないように気を付けろよ……マジでな」

「了解した」

 若はスマホを受け取るとまだスマホが現役なのかと驚いたが、やがてウキウキと家を出て行った。残されたシャドウはそれを見て呟いた。

「若の初陣だな」

「格さん助さんはお留守番だ」

 オリジナルはシャドウを見て不思議そうに眺めた。

「お前、ちょくちょく出かけてたがそんなに隆と仲良くなってたのか」

「ああ。茂がなんだかんだ可愛くてな。俺も結婚して子供が欲しかったな」

 オリジナルにはシャドウが急に別人に見えた。

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