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第二十三話

 遠山悟は目を覚ました。妙に騒がしい。口元のマスクを外し、目を開けると、白衣を着た人間が何人か室内にいて作業をしている。驚いた悟はタンクを降りて周囲を見回した。

「な……何だ? どうなってる?」

 皆がこちらを向いてにこやかに拍手した。白衣の中年の男性がこちらを見てニヤッと笑った。

「よう。体は問題無いかな?」

「ああ。あんた、俺だな?」

「そうだ。俺は六十歳になったお前だよ。そして後ろの人達はここのスタッフだ。もちろん俺達の事情を知ってる。協力者だ」

「何だって!? 本気なのか!?」

「大丈夫だ。彼等は信頼できる仲間さ」

「仲間……?」

 できたばかりの悟には仲間という感覚が分からない。信用できるのは自分自身と佐藤隆という物好きの男だけだ。

(俺が何回目かの俺なら、あいつはとっくに死んでいるだろうが)

 若い女性が悟の近くにやって来た。女性は微笑んで悟と握手した。

「初めまして、この瞬間に立ち合えて光栄です。私は七瀬凛と言います」

「どうも」

「俺も少ししたら行くから、先に凛が案内する部屋に行っててくれ」

「分かった」

「こちらへどうぞ」

 服を渡され、悟は服を着ると凛について行った。


 白い半円状の通路を歩く。

「前の……ああ、最初の俺がいた研究所じゃないのか?」

「ええ。新しく建てたんです。建てたのはもちろん悟さんですよ。いまや世界一のお金持ちなんですから」

「え……そうなの?」

「ええ。と言っても先程の悟さんが資産のほとんどを寄付してしまいましたが」

「寄付!? お、俺が!?」

 凛はクスクスと笑った。

「ええ。皆感謝していますよ」

「感謝ねえ……」

 途中、少し開けた場所に出た。テーブルや椅子がいくつか置かれていて、飲み物や軽食などのスペースがある。

「状況を説明する前に、何か飲みますか?」

「いや、大丈夫だ」

 中央の席に座って、楽しそうに話している四人組がいた。彼等はどうやらボードゲームで遊んでいるようだ。木製の物を使って、しかも他人同士で楽しく遊んでいる様子は初めて見た。

「なんだ、ずいぶんアナログな事をしている人達だな」

 凛は微笑んだ。

「今はああいう風に他人とコミュニケーションを取りながら遊ぶ物が人気です。スマホゲームや動画サイト巡りはやらなくなりました」

「へえ……面白いのかあれ?」

「今度一緒にやりましょうよ」

「う、うんそうだな」

 美人に誘われて悪い気はしない。悟は曖昧に頷いた。


「ここです」 

 凛は部屋の前で立ち止まると扉をノックした。

「七瀬です。悟さんをお連れしました」

「入ってくれ」

「ここです。どうぞ」

 悟が部屋に入ると、ソファに座っている中年の男が手を上げた。

「やあ」

「どうも……?」

 後から老いた悟も部屋に入って来た。悟がキョトンとしていると男は笑った。

「なんだ、俺の顔を忘れちまうなんてひどいじゃないか。ここがどこだか分かってるか?」

 老いた悟はニヤニヤして言った。

「窓の外を見てみろよ」

 主人公が外を見ると青い空に地球が浮かんでいた。

「こ、ここは? あれは月じゃなくて地球か? お、お前……まさか」

「そうそう、その顔が見たかったんだ。俺は佐藤隆だよ」


「そういう訳で俺は、いや千三百年前の俺はついに月に辿り着いた。そして俺達は月に設備を整えて管理してきた。今ではドーム内に大気も存在し、太陽の光は大気の微粒子で反射してるから月の空でもこうして青いんだ。お前が目覚めたのはそこだ」

「そうだったのか。待ってくれ……今何て言った? 千三百年前? 今年は何年なんだ?」

「西暦三千ハ百十七年だ」

「三千八百……?」

「人類が辿り着いたのはそれだけじゃないんだぜ。周りの人間が変わった事に気付いたか? これを知った上でもう一度俺に生き直して欲しかったんだ」

 老いた悟が一冊の本を悟に手渡した。『現代宇宙論』という題名の本だ。

「これは本て言うんだ」

「そりゃそうだろう」

「あっそうか。お前の時代では本があるのが普通だったな。これが今の世界の常識だ。読んでみろ」

「俺にとっては現代じゃないんだけどな……」

 軽口を叩きながらページを開くと、最初の一文を見て悟は絶句した。しばらく息をするのも忘れていた。


『序文 

 この宇宙はやはり創造主によって作られた世界だった。』

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