第十六話
宇宙研究所では、様々な数値や映像が映されている巨大なモニターの前で色んなスタッフが相談する司令部や、無人探査機の動作を確認したり、建設のロボットアームのメンテナンスを行う技術部など、様々な部門に分かれている。現在はほとんどが移住後の建設の問題に取り組んでいて、色んな素材や方法を試している段階だった。色んな国籍の人間が働いている中、佐藤隆と茂が司令部のモニターの前に立ってマイクのスイッチを入れた。
「皆! ちょっと手を止めて聞いてくれ!」
隆に視線が集まった。
「建設部門にいる俺の息子の茂から話がある」
隆は茂にマイクを渡した。
「建設部門のリーダー、佐藤茂です。僕達は重要な局面に来ています。月に行く事は可能になりました。しかし現段階では月に行った後の建設、資源の不足が課題です。そしてそれは膨大過ぎて今の人類では調達するのははっきり言って不可能でした。しかし、それを解決するきっかけになるかもしれない研究をしている人がいたんです」
周囲がざわついた。
「今日から俺達に加わってもらうメンバーを紹介する。入ってくれ」
茂の横の扉が開き、遠山悟が入って来た。
「あ、あれは!?」
「と、遠山悟だ! 彼がなぜここに!?」
隆が周囲を落ち着かせて言った。
「紹介しよう。長年の俺の友人、遠山悟だ」
オリジナルがマイクを受け取った。
「遠山悟です。俺は数十年前、細胞を制御する研究を発表した。そしてそれを発展させ、有機素材を分裂させ、それを使って建築物を作る事を考えた。そうすれば百年近い耐用性で、かつ即座に修理ができる建物を大量に作る事ができる。避難所などに使えると思ってね。だがこれが実現すれば地上だけでなく、月面で建物を自由に建てて生き残る事が可能になるだろう。しかし個人ではなかなか難しくてね。茂がちょうどよく協力関係を申し出てくれた。この技術が実現すればそちらで自由に使ってもらって構わない。どうか協力して欲しい」
悟は拍手によって迎えられた。隆はマイクを受け取った。
「最近、特に投げやりな連中が増えた。街では薬物汚染も止まらない。そして大企業はそんな者達からさえ搾取する事しか考えていない。こんな状態では子供もまともに産めない。世界中どこもこんな状態だ。このままでは確実に人類は絶滅するだろう。
人類には希望が必要だ。そのためには何年かかってもこの計画を絶対に成功させなければならない。君達がやるんだ」
悟が案内を申し出たスタッフと共に部屋から出て行った。それを見ていた隆は首を傾げた。
「何か悟、いつもと違くないか?」
「え? そ、そうかな? 緊張したんじゃない?」
「そうか……うっ」
不意に隆が激しく咳き込んだ。
「父さん大丈夫?」
「ああ。最近ちょっと調子が悪くてな」
「前も過労で入院したし、気を付けてくれよ」
「俺も年だな」
窓から外を見て寂しそうに茂に笑いかけた。
「正直言うとな……あと数十年早く、彼のあの言葉が聞きたかったよ。初めから彼と月を目指すべきだったんだ」
「今からでも遅くないじゃないか」
「ああ、そうだな……」




