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29 卒業式



 ついに卒業式の日がやってきた。国公立大学の後期試験などを受験する生徒を除けば、春からの入学先、つまり大学か予備校かが決まっている。

 友人とすれ違う度、四月からどうするかを訊ね合い、連絡し合おうと約束する。


 映有とシュウは出来る限り、連れ立って歩いた。二人の高校の思い出のほとんどは、互いに離れた場所から相手を見ていただけだった。隣に並んで眺める高校生活はとても短く、貴重だった。


 シュウは親しい友人たちと話す輪の中に映有を招き入れ、映有もまた同じようにした。


「おっ!エーユー!」

 やっさんと楢崎がやって来る。


「あ、やっさん!どうなった?」

「それ、聞いちゃう?」

 やっさんが戯ける。彼は、第一志望の国立大は落ち、浪人を覚悟したものの、滑り止めだった京都の私大に進学するのを親に許された。

「まあ、滑り止めって言うか、度胸試しだったからな。浪人してもそこより上に受かるとは限らないって親があきらめた。俺はこれで満足」

 やっさんは清々しく笑う。


「エーユーは、23区内だろ? 俺が街中に飲みに行ったら、泊めてよ」

 楢崎は同じ東京でも多摩地区だ。

「え? 新宿から30分あれば帰れる距離じゃん」

 映有が笑って返す。

「やっぱ、シュウの家に泊めてもらうわ」

 シュウのしかめ面に気づいた楢崎が言いなおす。

「かすみは?」

 楢崎が辺りを見渡す。

「今日はまだ、来てない。私立の美大は受かってるって。後期、どこに出願したか聞いてないんだ… 」

 そっか、と楢崎が呟く。


「あ、マッキー!」

 やっさんが、通りがかった槙村を呼び止める。


「お。聞いたよ、シュウもエーユーもおめでとう。マッキーも嬉しいよ」

 大学の話と、二人の関係のことの両方を言っている。


「槙村くんは?」

「俺、千葉。ちょっと遠いけど、二人で遊びに来てよ。多分寂しくしてるから」

 シュウから聞いた話では、出願直前に前期の受験先を第二志望に切り替えたのだという。槙村の家では、現役で入学するのが、地元を離れる条件だった。

「写真、写真! やっさん撮ってよ」

「俺も入りたいわ」

 槙村とやっさんがスマートフォンを押し付け合っている。

 誰と誰が喋っていて、誰のカメラで誰と誰の写真を撮っているかわからないぐらい人が入り乱れていく。喋っては、写真を撮るのを繰り返し、友人たちはやって来ては別の輪を作ってまた離れていく。

 それでも、映有の隣にはずっとシュウがいる。


「楽しい三年間だった?」

 突然、シュウが訊ねる。

「うん。付き合い続けられる友達、たくさんできたし… 」

 映有はシュウを見上げる。


「それに、大切にしたい関係もできた… 」

 恥ずかしくて、最後は小さく呟く。声が小さくなるのに合わせて、シュウが身を屈めると、頷いた。


「夏休み明け、話しかけて良かったと思ってる。あの日、話さなかったら、多分、今日は映有を遠くから眺めて終わってた」

「え?」

 シュウと話すようになったきっかけを思い出す。


「一年の時から映有を見てた。喋るようになる前から、映有とは気が合うだろう、って予感があった」

 一年の時にシュウの存在は知らない。

「え? 接点あった?」

 全く記憶にない。シュウは、まあね、と笑う。


「だから、偶然を装って手に触れて、気がつけよな、って思ってた」

「えぇ! やっぱりアレ、わざとだったの? いつもおかしいなって思ってた! アレで、最初っから意識しちゃって大変だったんだから!」

 作戦成功、と言いながらシュウが映有の手に触れ、二人で笑い合う。


「おーい、お二人さん。お待たせ、かすみちゃんの登場だよ」

 振り返るとかすみが立っていた。


「登場しますよ、って宣言しないとイチャつきそうな熱さじゃん」

 かすみは袴姿だった。


「あー!制服じゃない!」

「謝恩会の前にちゃんと制服に着替える。どっちも写真撮ろう」

 袴はかすみを入れても数人しかいない。かすみは袴も着物もレンタルではなく、おばあちゃん譲りの一級品だ。しかも、メイクは前衛的でモデルのようでもある。

 周りの友人たちもかすみを振り返っている。写真を撮るための行列ができそうだ。


「私、浪人決めたんだ。後期、妥協して受けても仕方ないな、って。今は実技の実力不足」

 かすみが耳元で囁く。

「そっか… 応援する」

 驚きは表情に出さないように飲み込んだ。多かれ少なかれ、皆が人生の決断をした。彼女の決断を受け入れて、背中を押すのが映有の役割だ。かすみの表情が晴れ晴れとしているのを感じて、安心する。


「ま、ここにいる半分が予備校生になるからね。もう一年、この仲間たちとこの街で楽しむよ」

 三年間、傍にいたかすみと別れて過ごすのは寂しい。べったりし過ぎない距離感であるのに、絶対の信頼を置いた友人はかすみ一人だった。無性に、かすみに抱きついたい気持ちになる。

「着崩れたらごめん。その時は制服に着替えて」

 断りを入れてから抱きつく。

「やだ、泣かないでよ。つられるから。メイクは崩したくないからね!」

 笑い泣きしながら抱き合っていると、シュウが二人にカメラを向ける。


「おーい、式始めるぞー! 別れを惜しむ時間は式の後にもあるからな〜」

 ぞろぞろと正装した教員たちがやってきて、立ち話をしている卒業生たちを講堂に集めて行く。


「かすみ! 行くぞ」

 あちこちふらついていたやっさんがかすみを迎えに来る。離れがたく、手を握り合っていたが、やっさんと共にかすみが歩み始める。


「行こっか… 卒業しに」

 映有もシュウと並んで、友人たちの後に続いた。





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