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25 Interlude 歪んだ恋 2



「… ということで、ご息女に確認いただき、節度ある行動をお取りいただくよう、話し合いをなさっていただきたい」

 シュウの父が、原の両親に言うと、彼らは承諾した。




 発端は学校への偽の通報ではあるが、それ以前にもシュウの自宅への電話や、どうやって調べたのかシュウのLANEへの度重なるメッセージの送信などの迷惑行為があった。彼女と同じ中学だったシュウの部活の仲間から、中学のクラスのグループチャットで自分はシュウと仲がいいなどと投稿しているとも聞いた。

 シュウはそういったメッセージのスクリーンショットを集めて残していたし、自宅に掛かってきた電話を受け取った母が訝しんで録音もしていた。

 そうした一切合切を彼女の両親に伝えると、たちまちに顔色が変わった。思い当たる節があるのか、確認して連絡すると答えた。

 最初にシュウの父が弁護士事務所の名刺を出したことも一つの圧力になった。



「あの様子だと、初めてのトラブルじゃないんだろう。お前も変なのに絡まれたな… 」

 帰りの車で父が言う。

「ちょっと、目がヤバい女… 」

 後部座席で英単語アプリをポチポチしながら答えた。


「それで… 田中さんの方は?」

「常識的。お父さんは大学の教授で単身赴任中。お母さんは会社員… 」

 映有の母が忙しいというのもあるだろうが、映有は相当信頼されている。信頼と自律がハイレベルに調和されているように感じた。それは、先ほどの親子には無いと感じたものだ。


「ふうん。付き合ってるの?」

「付き合ってない」

 手元のスマートフォンが振動する。うっかり別の選択肢をタップして誤答した。


「好きなの?」

「… 」

 やけに噛み込んでくる。


「それによって、この後の食事会で取る態度が違うから… 」

 父が答えを迫ってくる。

「… そう(・・)

 強めに発音した。


「そうって?」

 クソ親父はわかっていて聞き返してくる。


「まあいい。相手はどうなの。脈はあるわけ?」

 まだ、訊ねるかと思う。

「ソレ、聞いてどうすんの?」

 英単語は全く頭に入って来ない。


「アシストしないこともない」

「要らんし」

 アプリを閉じて、目を瞑る。


「おい… 寝るな。家まで送る時間ないから、降りて地下鉄で帰って。一度、事務所に戻って、夕方、そのまま北町に行くから」

 父は地下鉄の駅の近くで停車させる。

「じゃ、また後で… 」

 バックミラー越しに楽しんですらいる父の目が見え、車のドアを派手に閉めて応えた。



 その日、つまり、シュウの父が映有と母に会う前に、原の父から連絡があり、白鳥家への電話やシュウへの迷惑行為、それに加え、シュウの学校への通報も娘がしたことであると確認したため謝罪したいと言ってきた。

 本人がどの程度反省しているのかはわからないが、家族は真摯な姿勢であったらしい。


 

   §




「しっかりしたお嬢さんだな… 」

 レッドランタンの帰り道、父が言う。

「… 」

 タクシーの運転手が聞いているのが気になって答えられない。他人に聞かれたくない話でも、大人にとっては運転手は空気なのか、と関係ないところに気を取られる。

 しかし、たとえ、父と二人の車中でも答えなかったかもしれない。


「ここに来る前、原家の娘と両親が事務所に来て、深々と頭を下げていったよ。あの感じなら、灸は据えられただろうし、これ以上の嫌がらせはないと思っていい。だから、塾の送迎は、田中家に対して白鳥家が見せる誠意ってとこだな」

「大事でしょ、それ」

 シュウが言うと、父が笑う。


「それにさ、お前、奥手だろ? アシスト(・・・・)だよ」

「は?」

 苛つきを表現したが、父はまだ笑っている。


「それで、映有さんの進路希望は?」

「進路指導? 生活指導?」

 父に介入されるのは面倒極まりない。父が介入せざるを得ない状況になったのは、シュウ自身の脇の甘さのせいであるが。

 これが、大学生だったら? 社会人だったら? 自分が誰かを守るために行使できる力を持てるのか、と考えると気が遠くなる。父のスーツに付いているバッジの威力は大したものだ。少し、父を見直した。


「いや、遠距離恋愛は大変だろ?」

「東京」

 見直したせいで、素直に答えてみる気になった。遠距離になる可能性は低い。それに、たとえそうなったとしても、シュウにはそれは小さな問題でしかない。


「いいんじゃない?」

 暫くの間の後、父が呟く。

「どういう意味?」


「まあ、振られないように大事にしたらいい。恋愛するなら、そういう経験をしなさい、ぐらいが言えることだな… 」

「はい」

 これは以前にも、母から言われたことがある。

 遊びの延長のような恋愛は、互いに一つもいいことがない。自分と相手を大切にできる関係を築くことを恋愛の目的にしろ。大切にすることの意味がわかるまでに、失敗もたくさんある。それを共有できる相手を選べ、と。それを聞いた時は、母の語りの意味がわからなかったが、今は少しわかる気がする。


「あとは、変なのに付け込まれる隙を作るな、だ。今回のケースみたいな」

「ごもっとも」

 今までの対応で、悪かったところがあったかはわからない。隙など一分たりともなかったつもりだ。しかし、結果がこれでは自分に否があると言わざるを得ない。



「二人とも受験が終わったら、家に連れて来てもいいぞ」

「うん」


「今日のレッドランタンでもいいけどな… 」

「え?」

 母に紹介しろという話かと思った。


「将を射んとすれば、だ」

「戦術的過ぎ」

 将とは風有のことを言っている。


「それは冗談だが、今日は謝るためにお会いしたから、次は無事に乗り切りましたね、という対等な関係に戻したいというか… 」

「それも戦術的」


「商売柄か… 」

 父は短く笑った。




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