14 Interlude 乙女の光 2
シュウが参加したバスケットボール一回戦は散々だった。
一年前の球技大会を見ていて思ったが、数ヶ月前まで中学生だった一年生と、三年生では体格もテクニックもまるで違った。三年生のチームに一人二人、その部活に入っているメンバーがいるだけで、完敗するのである。
それは今年も同じだった。同じ部の先輩たち相手で勝手知ったる部分はあったものの、力及ばすだった。運悪く、三年生の中でも注目チームだったようで、相手側には大勢の女子たちが応援についていた。これも、シュウのチームメイトたちのやる気を削いだ。
大量にかいた汗とヒートアップした頭を冷やすため、更衣室近くの水道に頭を突っ込んだ。
そもそも、バスケを選んだのは、楢崎への対抗心だった。何故張り合おうとしたのか、今となってはよくわからない。クラスではサッカーが注力領域で、戦力分散を避けるためシュウもサッカーに誘われていた。にも関わらず、押し切って出た意味はなかった。この後は、他の競技の応援に回って、掛けた迷惑を回収すべきだった。
心身共にクールダウンし、水道を止めた時、タオルをコートサイドに忘れたことに気づく。
手で髪の水分を切り、汗だくのシャツを脱ぐ。汚れたシャツで頭を拭くのを躊躇った時、隣の水道を使っていた人から青いタオルを差し出される。
「え?」
滴る水で悪くなった視界に現れたのは、田中映有だった。
「… これ… 」
彼女が口を開く。
「白鳥くん、良かったら、タオル使って」
彼女とは別の方から声がして、振り返ると、白いタオルを持つ女子がいる。
「… 誰?」
思わず口に出た。そして、汚れたシャツで頭を拭う。急いで青いタオルの持ち主を振り返ったが、青いタオルを首に巻いた後ろ姿が見えるだけだった。
§
コートに戻り、タオルを回収し、もう一度、シャワーを浴び直すことにした。暫くすると、シャワーカーテン越しに槙村の声が聞こえる。
「かっこわるッ」
「何が?」
シャワーを止めて答える。
「いろいろ」
きちんと人の耳を気にするのは槙村のいいところである。
「お前さ、かっこいい」
「どっちだよ」
カーテンの隙間から手を出すと、槙村からタオルが手渡される。気が利く男なのだ。
「半裸で体育館突っ切ったろ? 女子たちどよめいたぜ?」
「三年、横浜に住んでたからって、その言葉遣いキモい」
この街で、語尾に「ゼ」をつける文化はない。
「その腹筋の割れ方、俺も惚れそうだったわ。覗いていい?」
「… 」
「それに、シュウくん、最近、いい匂いするわよね。香水使うなんて、色気づいちゃって〜」
「…」
確かに、汗臭いのはまずいと思って、香水を使い始めた。しかし、使っているのはシュウだけじゃない。使い始めて以降、柔軟剤の量を減らせるから有難いと母親に感謝されるほどだったのだから、本当に臭かったのだと思う。
「でもね〜、青いタオル、受け取れば良かったわよね。きっといい香りしたわよ」
カーテンを開けると、腕を組み、右手を顎に当て、くねくねしながら首を傾げる槙村がいた。
「誰だよ、お前… 」
着替える間中、槙村はずっと喋っていた。
「そろそろ出番だけど、ヤキモチ妬かないでね〜、シュウちゃん」
「まだ、そのキャラなの?」
荷物をまとめ、更衣室を出る。
「いや? ハイタッチしちゃったりとか? もしかしたら、勝利のハグしちゃったりとか?」
槙村が耳元で囁く。
「… 」
周りを見渡し、槙村との会話が漏れないか確認するが、誰も二人のことを気にしていない。
「そういうんじゃない。それ以上言うな」
釘を刺すと、槙村は戯けながら走り去って行く。
付き合いの長い槙村の言うことが的を得ているのはわかっている。わざわざ、友達でもない女を気に掛けるなど、今までもしたことがない。それ以前に、女友達と呼べるような友達がいたこともない。
これまで、彼女を目で追うような真似をしていたか、それは槙村に気付かれる程だったか、槙村以外にも悟られる程だったか、自分の行動を振り返ると、背筋が冷たくなる。
黒い髪飾りにすぐ反応したのは事実だ。少なくとも、今日の振る舞いは槙村に気付かれる程あからさまだった。
これ以上、槙村に詮索されると、あらぬ方向に物事が進む気がし、結局、彼らの卓球を見ることなく、体育館を出た。
後日、泰のスマートフォンに保存された写真の中から、試合直後だと思われる槙村と青いタオルを巻いた田中映有のツーショットを見せられる。
他意のない泰がシュウに見せることを想定しているかのようで、槙村の勝ち誇った表情が気に食わなかった。




