第556話香りの暴力
肉と芋の準備がある程度できたタイミングで、エトゥが持ってきた人参等他の野菜も同様に切って、準備を整える。
「そういえば、エトゥは基本的にこれらの料理って嗜好品にはなるかもだけど、お腹には貯まらないでしょ?
その割には詳しいね、学んでる理由があったりするの?」
ウィリィンはエトゥに疑問を投げかける。
エトゥ的には栄養にできない以上は、学ぶ優先度は低く、人を狩るテクニックを少しでも学んだ方が建設的に思える。
「ん、美味しく食べられる以上は腹に貯まらなくても、知っておけって言われた。
基本的にこれらの知識は食い殺しの街で過ごしている人から教えてもらった。
それに、上手い料理を作れれば獲物を呼び寄せることもできるから、意外と役に立つ。
ほら、こんな感じに」
「んぐっ」
「凄く、いい香り...」
「お腹が鳴り止まないよぉ」
ウィリィンが周囲を見渡すと、エトゥが作っているカレーのルーの匂いに周囲の子供達が寄ってきている。
使用しているバターや様々なスパイスがとても濃厚な匂いを出しているわけで、ウィリィンも実はかなり食べるのが楽しみになっている。
だが、周囲のこの状況はあまりよろしくない。
ウィリィンはコンロの周りを空気の層で覆い、匂いが外へと漏れ出ないようにした。
「ほら、皆も自分達のグループで作らないと」
ウィリィンは声がけをして、子供達を正気に戻す。
まあ、エトゥの食事事情に関しては、十分味に関しては人由来でない食べ物も楽しむことができるので、他の人と話題を合わせたりする上で色んな食べ物は味わっておいた方が良いし、美味しい料理というのは人を惹きつける魅力がある。
料理を相手を誘う罠として利用することができ、十分にメリットとなりうる。
「うー」
「後で食べさせてー」
「あ、ヤバ、ウィリィンありがとー」
まあ、既に漂っている香りに関しては消していないが、それでも新たに供給されることは無くなるわけで、どんどん薄まっていく匂いに名残惜しそうな表情は浮かべつつも、子供達は正気に戻って、元の作業を再開する。
「ん、ウィリィン、匂いが分からないと出来栄えが分からなくて困る。
私はその空気の中に入れて貰うことはできる?」
「あ、ごめん。
調整するね」
「ん、助かった」
ウィリィンは空気の層を調整し、エトゥがしっかりと入るように大きさを変更した。
「それで、さっきの続き。
逆にウィリィンが料理に詳しくないのは?
ウィリィンならすぐ覚えられると思う」
「家で料理はしないからだね。
基本的に専属の料理人が今日の私の活動状況に合わせた料理が出てくるから、ホント時たま外で手に入れたものを使って、食料を調達しないといけない時とかしかしないかな」
確かにウィリィンの学習能力であれば、直ぐに覚えることができるだろう。
だが、最低限栄養として得ることができる以上の技能は不要な認識だ。
趣味ならまだしも、戦闘に活かせる機会はあまり無く、その時間は他の鍛錬に充てた方が良いし、料理人はウィリィンの身体状態をしっかりと把握してくれており、自身で作るよりも適した栄養バランスを提供してくれるのだ。
「ん、致せ尽くせり。
羨ましい。
まあ、これは教育方針の違いだから、私はこの状態が自身に合ってるとは思ってる」
「そうだね。
特にエトゥの場合、食事が狩りとしてそのまま経験値に繋がるし、合ってるんじゃないかな」
そんな感じでカレー作りは順調に進む。
ウィリィンはそれぞれ具材を全て、鍋の中に投入し、煮込む。
そしてその中にエトゥが作ったルーを投入し、じっくりと煮込み始める。
ウィリィンの気をつけてある点としては肉と芋がいつになったら安全になるかである。
「十分にかき混ぜれば、相殺されるから、解除しても問題無くて、食べた時も膨れ上がったり、しなしなになったりしないと」
「ん、そう。
もう十分に混ざってるからカレー自体は大丈夫」
「カレー自体は、ね。
既に空中に漂ってた部分に関しては危険かもしれないと?」
「そう。
万全を期すならしっかりと換気口に捨てた方がいい」
「了解」
ウィリィンはコンロ周りの空気の層をずらして、元から漂っていた空気だけを閉じ込めて、換気口の所まで運び、無事に処理した。
それと同時にウィリィンの所まで思わず涎が流れ出そうなぐらい、美味しい香りが鼻を突き抜けてくる。
「ヤバっ、油断してると、意識持ってかれそう。
エトゥ、これで食っていけたりするんじゃない?」
周りにこの香りを撒き散らすと放心状態になる者が続出する為、空気の制御はミラナの同意の元続けているが、もう食べる前から絶対に美味しいのが分かる。
「ん、無理。
材料費が高すぎる。
私も学んでるとはいえ、専門ではない。
私はあの中から美味しい食材と良い組み合わせを知ってたから、それをふんだんに使っただけ。
言うなれば、食材の力の暴力、本職に作らせればこんなの比じゃない」
レインボーカウとヒキイモ以外にもまずお目にかかれないような高級食材を惜しみなく使っているようだ。




