第229話総力戦
そして、子供たちは円状のルートを一周してバトンを引き継ぐわけで。
「あ、これはまずい」
ウィリィンが妨害に入るバトンが渡った瞬間ぐらいに転移して少し後ろへと戻り、次の子へとバトンが引き継がれ、ウィリィンの次の子へと妨害の子も進んでしまう。
「・・・こんなのあり!?」
ウィリィンが走者の順番を意識から完全に外していたことが裏目に出る展開である。
なお、ネオモはじっくりとキリング組の妨害係を完封しつつ、妨害をしてリードを広げていた。
その後は差が縮まることもなく、ウィリィンに番が回ってくる頃には既にネオモはゴールしており、なるべく点数に差を生ませないように素早くゴールしたものの、完全に作戦負けという結果に終わった。
「ウィリィンも遅れてゴールです。
では、点数を集計しますので少々お待ちください」
ウィリィンは脳内でどうすれば良かったか反省を行うが、考えてもウィリィンの順番が割れている以上、対策のしようがなく、転移の子がこのルールと噛み合い過ぎていたということで諦めることにした。
スタート地点とゴール地点が異なればまだやりようはあったかもしれないが、まあ、くよくよ考えていても仕方がないだろう。
「結果が出ました。
キリング組、デッドリー組の子妨害され走者にあまり関与することができませんでした。
デッドリー組、妨害に徹して足の速さ勝負に持ち込ませ、懸念点であったウィリィンは妨害の隙を与えないバトン回しで完封、その差を維持してゴールしましたー。
デッドリー組リードっ」
「さて、デッドリー組がリードしましたが、どちらの組にも勝機はまだまだあります。
では、最終競技と参りましょうー。
最後の競技はー、総力戦だー」
その宣言とともにウィリィンとネオモの元に係りの生徒が現れ、マントを着用させて去っていく。
「はい、各組のリーダーの方にマントを着用させてもらいました。
では、ルールを説明いたします。
と言ってもとてもシンプル、一人でも多く生き残り、一人でも多く相手の組の人を倒してください。
倒した人数に応じて点数が加算されます。
一度倒されたら脱落で、係の者が場外へと誘導します。
また、試合終了は時間経過か、マントを着用しているリーダーがやられた時点で終了となります。
リーダーは倒されると20人分の点数が入るのでお気をつけください」
とにかく敵を沢山倒せば良いのだろう。
手早く終了させるのであればネオモに奇襲をかけて、速攻で落せば良いが、それは相手方も理解しているはず。
それに点数が優勢しているあちら側は同点以上で勝ちが決定する。
「では、戦場にシールドを展開いたします。
完了するまで作戦会議の時間とします」
周囲の空間にシールドが展開されていく。
まあ、確かに場所に制限をつけないと戦場が広がりすぎて収拾がつかなくなる恐れがある。
「皆、こんな感じのことをやりたいんだけど」
ウィリィンは勝利に向けて作戦の提案を開始する。
狙われることはほぼ確定的であり、純粋な力なぶつかり合いとなる。
そうなると明確に殺意を持ってウィリィンは狙われる訳で、対策は必須。
複雑な作戦は立てられないし、そんな時間も無いので最初の動きだけでも決めておいて、その流れのまま勝てると良いのだが、まあ上手く決まることを祈ろう。
「さて、設営の方も完成いたしました。
それでは最終競技、始めさせていただきます」
「皆、手筈通りよろしくね」
「「「「「おおー!!!!」」」」」
「それでは、はじめっ」
開始の合図と同時にウィリィンは一番前へと躍り出ながら右手を上へ掲げる。
そこには細いながらも天高く風を纏った炎の剣が生み出される。
そこに後ろから火や風を子供達に当てて貰い、炎の剣は見る見る大きくなっていく。
なお、火や風を使えない子はウィリィンを守りつつ、石や水を使って牽制をしてくれている。
「くらえぇぇぇぇぇぇ」
ウィリィンは炎の剣で正面を薙ぎ払うと、当たった子は真っ二つに切り裂かれ、何とか攻撃を回避しても辺り一面がとてつもない高温になってしまっている。
だが、終了の合図がなされないということは
「っち、やってくれるじゃねえか」
ネオモは当然の如く生き残っている。
これでも4割は倒し、2割は動ける状態ではなく、1割は軽傷、残りは無傷といった感じで被害は甚大である。
一番確実な勝利方法はここでウィリィンがやられることだろうが、そんな幕引きは興ざめだろうし、わざわざ痛い目に遭う必要も感じない。
「突撃ーぃぃぃぃぃ」
あとは数を持って相手を蹂躙するだけである。
そして、逆にウィリィンは倒してしまえば終わり、半数がやられている状態では負けが確定する。
つまり、ウィリィンがすべきことは積極的に前に出ること。
攻撃していいのか迷っている子を相手するのは容易いし、流れ弾にも注意が向く。
「お前ら、ウィリィンを気にするな、倒しちまったら倒しちまったでいい。
それにウィリィン、適当にやられるほど甘くないだろ?」
「...」
ウィリィンは回答を控える。
まあ、やられるとは言いづらい。
とデッドリー組は活気づき、迷いは消えてしまったようだ。




