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アース ダンジョン核を持つ少女  作者: 生けもの
1章 期待の新人探索者
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002 コキンメの受難

 ー≪コキンメ魔法具屋≫ー


「失礼しますザックです、魔晶石を持ってきました」


 翌朝、部屋に魔晶石の入った布袋を持ってザックが入って来た。コキンメは布袋を受けとり中身を確認するとザックに尋ねた。


「仕事はちゃんとさせたようだな、あのガキはどうした?」

「叩いても蹴っても反応がありませんでしたし、これだけの魔晶石に魔力を込めたら魔力枯渇になっているでしょう。もう使い物にはなりませんね」

「そうか、まぁこうして最後に役に立ってくれたのだから感謝しなくてはな。お前はあのガキを貧民地区の入り口にでも捨ててこい」


「承知しました」


 ザックは小屋に戻ると机の上でうずくまっているアースを担ぎ上げて、町はずれの貧民地区まで運んだ。

 大通りから人気のない路地に入り、少し進むと地面にうずくまっている人がそこかしこに見て取れる。気力が感じられず周りには無関心だった。


「よっと、この辺でいいだろ」

 ザックが担いでいたアースを地面に置いて、その場を去った。



 数日後、コキンメの元に別口での仕事が入って来た。


「ボルジア男爵が魔晶石を欲しがっているだと?」

「はい、なんでもホーラン子爵のところで見せていただいたようで、是非にと申されております」

「いよいよ儂にも運が向いてきたかな?だがホーラン子爵に納品したばかりで在庫が無いな。よし今日作っている魔晶石(やつ)をボルジア男爵に回せ」

「承知しました」


 しかしボルジア男爵からは、お叱りの手紙が届いた。


「旦那様、ボルジア男爵から、苦情が入りました。ホーラン子爵に収めた魔晶石を寄越せ…と」

「ホーラン子爵に収めた魔晶石?何が違うと言うのだ?込めた魔力が足りなかったのか?」


 コキンメはボルジア男爵へ納める魔晶石に作業小屋の男全員で魔力を込めさせた。しかしそれでもボルジア男爵は納得しなかった。

 背に腹は代えられないと、高いお金を支払い他から高品質の魔晶石を購入してボルジア男爵に納品した。


「ええい、とんだ大損だ。一体何が気に入らんというのだ」



 そんな折、ホーラン子爵から持ち込み依頼が入って来た。滅多にない依頼だが、クライアントが持ち込む魔晶石に魔力を込めて返すというもので、持ち込まれる魔晶石が高価なほど依頼料も破格となる。


「ホーラン子爵様、本日は持ち込みでの依頼という事ですが、魔晶石を確認してもよろしいですか?」

「うむ、この魔晶石を頼みたい。以前同じくらいの魔晶石を頼んだのだが、ウチに身を寄せている食客がいたく気に入っててね。また頼みたい」

「承知しました。最優先でやらせていただきます」

「頼んだぞ」



 しかし作業小屋では、誰もが持ち込まれた魔晶石に魔力を込める事が出来ずにいた。


「貴様らなにサボってやがる。今日のノルマはホーラン子爵の魔晶石1個だけだろう。なんでまだ出来ていないんだ!」

「それがザックさん、この魔晶石おかしいんです。魔力を込めようとしても反発して全く魔力を受け付けません」

「なにを言ってる、コキンメ様からは前にも依頼があったと言っていたぞ。その時と同じにすればいいだろうが」


 しかし男たちは互いに顔を見合わせ言いにくそうにしながらもザックに伝えた。


「あの、その非常に言いにくいのですが、前の時はあのガキがやっていたので我々だとどうしていいか分かりません」


 結局コキンメの所では誰もが無理と匙を投げたため、同業者に頼むことにした。



「よぉ、コキンメ久しぶりだな、最近ある貴族の評判がいいと聞いたぞ。御用商人になれるんじゃないかってな。それで今日はどうした」

「うむ、それなんだが…魔晶石の持ち込み依頼を受けたんだが他の仕事が忙しくてウチの者の手が空かなくてな。お前の所でやってくれんか」

「おいおい、いいのかよ。そんなおいしい依頼を他所に回して」

「いいんだ、少しは他のとこにも仕事を回さないとな」


 しかし同業の所でも魔晶石に魔力を込める事は出来なかった。


「すまんな、せっかく仕事を回してもらったのに。しかし多分どこに持って行っても無理だと言われるぞ」

「無理?どういうことだ?」

「どうもこうも、こんな高濃度の魔晶石に魔力を込められる人間なんて魔法師団でも一握りくらいしかいないんじゃないか」


 なんじゃそりゃ、そんな事ザックから聞いとらんぞ。


「まぁ、以前にも受けた仕事だろ?急ぎでなければ、前の依頼をやった奴にやらせればいいだろ。でもさすがコキンメ魔法具屋だな、そんな凄いヤツを雇っていたなんて」

「まっまあな。じゃぁ邪魔したな」


 まずいまずいまずい、もうあのガキはいない。時間がかかるとかなんとか言ってその間にザックの奴に探させるしか…

 ホーラン子爵への言い訳を考えて、コキンメの頭皮から貴重な毛が何本か抜けていた。



 数日後、ホーラン子爵から呼び出しを受けたコキンメとザックはひそひそと話しながら屋敷の廊下を歩いていた。


「ホーラン子爵から呼び出しとはやはり、例の依頼についてでしょうか?」

「ああ、時間がかかるからと伸ばし伸ばししてきたがそろそろ限界だろう」


 2人はこれから訪れる針の筵を想像して胃がキリキリと音を立てた。


 ”コンコン”

 部屋の扉がノックされ屋敷のメイドが館の主に客人の到着を知らせた。

「コキンメ様と従者の方をお連れしました」

 

 メイドに促されて二人が部屋に入ると、ソファにホーラン子爵ともう一人男が座っていた。金髪で長身、細身のエルフだ。

 コキンメはすぐにその男の正体が錬金術師のクリフトだと分かった。


 エルフ族はほとんど見かける事がない、彼らは魔法の探究者で他人とのつながりを嫌う。

 大抵は貴族の食客となり、研究資金を賄ってもらう代わりに厄介ごとを引き受ける。魔法の探究の為ならなんでも行い、倫理観が欠如しているとも言われている。ただし大抵の貴族にとってはその方が都合がよかった。


 コキンメがふと目を落とすとテーブルの上に魔晶石と練成盤が二つずつ置いてあった。

 はて、依頼の話になぜこれらがここにあるのだ?


 場にそぐわない物にコキンメが疑問に思っているとホーラン子爵が口を開いた。


「コキンメ、なぜ呼び出されたかわかるか?」

「はっはい、あの恐れながら『魔晶石の依頼』の件でしょうか」

「わかっているなら何故すぐに持ってこない」

「すみません、魔力を込めるのに時間がかかっておりまして…」

「いま、最優先で、やってますので今暫くお待ち下さい」


 コキンメとザックが必死に弁解するがそれを遮り、ホーラン子爵はクリフトに向き直った。


「クリフト説明してやってくれ、この二人でも分かるようにな」


 クリフトがテーブルの上に置いてある二つの魔晶石を手に取り、コキンメ達に向けた。


「いいかね。こちらの右の魔晶石は以前依頼したモノで、こちらはつい先日購入したモノだ。どちらも君たちの店の魔晶石だね」


 そう言いながらクリフトが二つの魔晶石を練成盤に嵌めて起動した。しばらくすると左の練成盤の文様が点滅したかと思うと消えた。しかし右の練成盤はずっと安定して起動しており停まる気配はなかった。


「この練成盤は高品質な練成を必要とする時だけ使っているのだが、要求する魔力の出力が馬鹿みたいに高い。なのでこれを使う時の特別な魔晶石を依頼したのだが…」


そこでクリフトが言葉を切ってコキンメ達を見た。


「魔力を込めるのに時間は関係ない、込められるか否かだけだ。魔力が低い者はどれだけ時間をかけても無理なのだよ。さらに過剰に込めれば鈍く光る、まぁそこまで出来る者はほとんどいないがね。それより1つ聞きたいのだが」


 そう言ってクリフトが1つの魔晶石を出した。魔晶石は過剰に魔力を込めても鈍く光るだけだ、だがこの魔晶石は薄っすらとだが黄色の光を帯びていた。


「なんですか、この魔晶石は黄色く光っているようですが」

「この前急ぎで依頼した魔晶石だ、自分のところの商品も覚えていないのか」

「まぁまぁ、ホーラン。彼らは平民だ、この魔晶石の素晴らしさに気づかないのも無理ない」


 いちいちエルフだ貴族だ平民だなどと、選民意識が強いヤツだ。と心では思ったがそこは一流の商人、顔や態度には一切表さない。


「すみません、浅学でして良ければその素晴らしさについて教えていただけるでしょうか」

「いいだろう、これからもこの魔晶石を納品してくれるならね。勿論買値には色を付けよう、そうだないつもの5倍ではどうだろうか」

「5倍ですか!はっはい、これからもホーラン様にだけ納品させていただきます」


 5倍という言葉に二つ返事で了承してしまったコキンメだが、後に後悔することになる。


「この魔晶石の素晴らしさは、”属性”が付与されているという点だよ」

「”属性”…ですか?」

「ああ、この魔晶石には何らかの属性が付与されている。本来こんな事は起こらないが、でも紛れもなくこの魔晶石には属性が付与されている」


「ところで持ち込み依頼した魔晶石はどうなっている?」

「もっ申し訳ありません!急ぎ納品いたします」

「わかったならさっさと持ってこい!これ以上遅れたらどうなるか分かっているな!!」


 ホーラン子爵の怒号にコキンメとザックが必死に土下座をし子爵邸を後にした。



「ところでボルジア男爵から自分の息子とエミルトン家の令嬢を結婚させたいと言って来ているのだが、何かいい手はないかな?」

「ボルジア男爵というとあの商人からの成り上がりかね」

「そうだ、金で買った爵位では物足りないらしく、2番目の息子を婿養子としてエミルトン家に入れたいらしい」

「人の欲とは底なしだな」

「そう言うな、君の研究資金にもかなりの金を出して貰っているのだからな」


 ホーランの言葉に渋々了承し、考え込んだ。


「……だれかエミルトン子爵の娘と茶会が出来る娘はいるか?」

「ああ、何人かはいると思うが、それが?…」

「別派閥の貴族から何か贈っても疑われるだけだが、子供同士の茶会での贈りものなら親も詳しく調べたりはしないだろう。ましてや娘を溺愛していることで有名なエミルトン子爵なら娘のご機嫌を損なう様なことはしないはずだ」


 そう言ったクリフトの顔はこれから訪れる未来を想像して歪んだ笑みをこぼした。

アースを粗雑に扱った罰が下りました。

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