012 へっぽこ3人組 2(改訂版)
―≪巨人の苗床≫―
「つまり、あのガキが大量の辛味草を集められたのは、道案内の魔術のおかげってわけか」
「さすがアニキ、頭キレッキレっすね!」
リーダーと太っちょが得意げに盛り上がる中、細身の男はというと――
「……………(呆れ顔)」
ふと、リーダーが辺りを見回して眉をひそめた。
「あれ? あのガキ、どこ行きやがった?」
アースの姿が消えていることに気づいたのだ。
細身の男が必死に身振り手振りで、アースが大量の道案内を森に放ったことを伝えようとするが、リーダーと太っちょにはまるで通じない。
「やっと2本目……なかなか見つからないなぁ」
森の入り口でアースがため息をついた。
普通なら数日かけてようやく1本見つかるという希少植物。だが、アースにとっては“ちょっと珍しい草”程度の認識だった。
ぴくっ。
群生地の位置を道案内で確認したアースは、迷いなくその場所へと駆け出した。木々の間をすり抜け、落ち葉を踏みしめながら、まるで風のように森を駆ける。
やがて目の前に現れたのは、淡い光を帯びた草の群れ――潜む月夜の氷草。
この草は、魔力を吸収すると青く輝くという不思議な性質を持っており、依頼された本物かどうかを見分けるには、魔力を込めて光らせるのが一番手っ取り早い。
アースは手のひらにそっと魔力を込め、草に触れた。
――ふわり。
青白い光が、夜の霧のように草の葉先から立ち上る。
「光った! うん、これで間違いなし!」
夢中で草を摘んでいると、森の奥から不穏な気配が――
森蜘蛛が、木陰からじりじりと近づいてくる。
突如、糸が一斉に放たれた。アースの視界が白銀の糸で覆われる。
逃げ場は……ある!
道案内の視界を通じて、死角にわずかに空いた隙間を発見。
アースは体をひねり、その隙間をすり抜ける。
背後では、森蜘蛛たちが互いの糸に絡まり、もがいていた。
「ふぅ、セーフ。さて、次は……あっちかな」
森蜘蛛の襲撃をものの見事にかわしたアースは、まるで何事もなかったかのように、再び草の採集を始めた。
その表情には焦りも恐れもなく、ただ「おつかいの続きしなきゃ」という素朴な使命感だけが浮かんでいる。
やがて、またひとつ潜む月夜の氷草の群生地を発見。
アースは嬉しそうにしゃがみこみ、魔力を込めては青く光る草をひとつひとつ丁寧に摘み取り、カバンへと収めていく。
――そのとき。
空気が震えた。耳をつんざくような高音が、森の静寂を切り裂く。
「んー? また来たの?」
木々の間から、音波鳩の群れが飛び出してきた。
小さな体に似合わぬ俊敏さで空を舞い、鋭い嘴で突きかかってくる。さらに、羽ばたくたびに放たれる音波が、空間を揺らし、平衡感覚を狂わせる。
だが、アースはまるで気にする様子もなく、草を摘み続けていた。
彼の周囲には、いつの間にか極小単生物で作られた、透明な薄膜が張られていた。
その膜は、嘴の突き刺しも、音波の揺らぎも、まるで水面に落ちた小石のように吸収し、何一つアースに届かせなかった。
「うん、これも光った。よし、次!」
アースが無邪気に草を摘み続ける中、音波鳩たちは、まるで壁に跳ね返されるように攻撃を無効化され、次第に苛立ちを募らせていく。
やがて、まるで「こいつはダメだ」とでも言いたげに、群れは一斉に飛び去っていった。
気がつけば、アースは森の奥深くまで入り込んでいた。
「あれ? 森の奥は危ないから行っちゃダメって、シリルが言ってたような……。でも、誰かが『魔物が出ても大丈夫』って……」
ぽんっと手を打ち、アースは思い出す。
「そうだ! おじちゃんたちが『魔物をたくさん連れてこい』って言ってた!」
アースは森の中を駆け回り、魔力を振りまきながら魔物たちを引き寄せる。
森蜘蛛、音波鳩――次々とアースの後を追い始めた。
絶妙な距離感で魔物たちを引き連れ、へっぽこ三人組の元へと突撃!
「おーい! 魔物をたくさん連れてきたよーー!」
その声に振り返った三人の目に映ったのは――
地を埋め尽くす森蜘蛛、空を覆う音波鳩の大群!
「ひいぃ、くっ来るんじゃねぇ!」
「ぶひーーー!」
「…………(汗)」
パニックに陥った三人は、叫びながら森の奥へと逃げていった。
「えっ、行っちゃった……せっかく連れてきたのに」
アースは首をかしげながら、ぽつりとつぶやいた。
―≪辺境の町 探索者ギルド≫―
「シリルシリル、はいこれ!」
アースが大きなカバンをシリルに手渡す。中には依頼品の潜む月夜の氷草がぎっしり。
それだけでなく、依頼とは無関係な素材まで詰め込まれていた。
「はい、お預かりしますね。少々お待ちください」
シリルが奥へと消えると、しばらくしてギルド長のレオナルドの叫び声が響いた。
「――なんでだぁあああああああああああああぁぁ」
戻ってきたシリルは、にっこりと微笑みながらアースに尋ねる。
「えーっと、アースちゃん。これとこれは何かな? 依頼票にはないものだよね?」
彼女が指差したのは、音波鳩の嘴236個と、森蜘蛛の糸362個と書かれた清算書の項目だった。
アースが胸を張って答えると、シリルはにこりと微笑んだ。
――が、その笑顔はどこか張りついたようにピクリとも動かず、目だけが笑っていない。
「……そうですか。落ちてたんですね」
そして次の瞬間、ふぅっとため息をつき、肩を落とした。
「……はぁ、そういうことにしておきましょう」
笑顔はすっかり消え、今度は完全に呆れた顔でアースを見つめていた。
「そうだ、ねえシリル。あのおじちゃんたち、戻ってきた?」
「え? 誰ですか?」
「一緒に採集に行った3人の……」
「誰ですか」
「……ううん、なんでもない」
アースは、あのおじちゃんたちのことをそっと記憶の奥にしまい込んだ。
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