断章:抗えない者達の運命
前書きの内容は次話から
走る、走る、走る、ただひたすら走る。
抗うのだと、生きるのだと、ただひたすら走る。
豪雨の中、獣道すら無い森を全速力で走る1人の青年
黒がメインに白と赤の線が入った特徴的な服、この服を見て学生服と思う者はまずこの世界には居ない。
黒い髪に黒い瞳、後ろ髪が長くゴムで縛っている
この顔を見て日本人と思う者はこの世界には居ない。
彼はひたすら走る、逃げているのだ、とある者達から
彼の耳に届く、雨の音、自分の足音、水溜りが跳ねる音
金属音を鳴らした、兵士達の足音
「追え!決して逃すなぁ!」
「我らの女王を殺した罪!決して許される事では無い!」
「その首をギロチンで切り裂いてやる!」
憎しみと怒り、憎悪の限りに彼ら兵士達は口走る
謂れのない罪、逃げる彼もまた強い怒りを胸にひたすら遠くへ逃げる。
死にたくない、何もやってない、でも逃げることしか出来ない
師匠と呼びたい奴がいた、友と呼びたい奴がいた、兄弟と言い合える奴がいた、俺を好きだと言ってくれる奴がいた
本気で◾️した奴がいた・・・
もう誰も傍に居ない
アイツが命を賭して俺を生かしてくれた
逃げろと、お前は生きろと、絶対に取り戻せと
その肉体を矢に射抜かれ、崩れ落ちて泥と血に塗れなお
そう叫んだのだ。
息が切れてきた、もう一時間は全速力で走っているだろう
こっちの世界に迷い込んでからよく息を切らすようになった
元々化物だの怪物だの、元の世界では言われ続けたが、こっちの世界じゃどうやら子供程度の力しか無いらしい
本当にこの世界はデタラメだと、嫌でも痛感した
無力だった、戦える力を偶然手に入れたとしても
その力を正しく使えなければ、それはただの力でしかない
だから失った、皆んなをー
「アイツを・・・、なっあぁ!」
足を滑らせた、雨と深い森の視界の悪さにより
走った先が崖になっていることに気づかなかった。
「がぁ!ぐぅ!がっ!」
咄嗟に頭だけは守ったが、長い崖を転がり落ちてしまった
肩、胸、腹、腿、脚、あらゆる部位を岩や石に打つけては鈍い悲鳴があがる。
彼はこの世界の人間ではない
岩を砕く拳を持つ者に殴られれば骨は砕ける
素早く剣を振られればそのまま斬られる
弾丸の様に球が当たれば肉が弾け飛ぶ
強靭な肉体も、剣技を見切る動体視力も無い
普通の人間、そんな人間が崖から転び落ちれば必然的に
「・・・・・・・・・・・・・・・ゴホッ」
致命傷である
骨は砕け、肉は切れ、腕が曲がり神経は切れた、数々の打撲により身体はもう動かない。
糸が切れた人形の様に彼は泥まみれの地面に倒れ伏した。
この結末が彼の最期、救う者はいない、彼の傍に誰もいないのだから
視界がボヤけている、よく周りが見えない
(あぁ、ここまでか・・・)
死が近づいてくる、痛みによる熱よりも、雨の冷たさを強く感じる。
死肉に成り果てるのに、あと幾分か。
パシャリ、パシャリ
辛うじて生きていた耳が聞き取った
雨で出来た水溜りを踏む足音、兵士達の足音ではない
だが、助けではない事は、彼自身がその音で理解していた
霞む視界の中で足音の主を見上げる、彼はやっぱりと
そう、絶望した。
金色寄りの白金の髪、ほんの僅かに虹の様な輝きを見せるその長髪と洋紅色の瞳
青と黒の線が入った白い膝の高さ程のドレスローブ
(あぁ・・・、彼女だ。)
彼はその容姿を知っている、その服を知っている、
その声を・・・知っている。
「クフフ、無様だなぁ、コダイビト。」
(・・・・・・・・・?)
「だが漸く、漸く、私の手でトドメを刺せれる」
「この時をずっと待っていた!」
彼は彼女を知っている、知っているなら誰もが疑問に思うだろう。
「お前らがいなければ!あの御方が死ぬ事などあり得なかった!」
(お前は・・・)
「お前が目の前に悠然と現れた時は、直ぐにでも殺してやりたかったさ!」
(そうか・・・)
「もう私の存在を偽る必要は無い!この力でお前を殺し!残る人類を皆殺しにして!」
彼女では無い、何かがそう言った
「あの御方が創り上げだ時代を取り戻す!」
彼女の”敵”である何かが、そう・・・ほざいた。
(だったらまだ・・・)
身体は動かない、だから。
無理矢理動かした。
「アァ?」
骨が軋む、肉が裂けて血が止めどなく溢れる
動かせたの上半身だけ、そのまま身体は崖を背にもたれかかる
「もう何も出来ないのに、まだ足掻くのか?」
「ヴィーテレスを持たないコダイビトなんぞ、人間の子供同然!」
そうだ、今の俺には何も出来ない
「無力な自分を呪いながら死ねぇ!!」
そう叫びながら氷の槍が、彼に向かって放たれた
魔法で作られた氷の槍、彼女が得意とする氷の魔法。
だからー
(次の俺が、お前を殺しに行く)
氷の槍が彼の腹部に刺さる、刺さった勢いで身体の一部が破裂する
(お前だけには、殺されてやらない・・・!)
意識が消えるその瞬間に彼は二色だけの世界に覆われた
一つは眩い白色、そして・・・
黒すら呑み込む黒の世界に
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