いつでも思い出せると挟んだ怠慢の栞を永久に取り出せなくて
俺が馬鹿だったよ。
電車の窓から新緑の景色を眺めながら呟いた後悔を、彼女は今更だと笑い飛ばすのだろう。
白く輝く粒々を口いっぱいに広げながら、からりとじめついた心を晴れ晴れとさせる彼女。
最後は俺の真っ直ぐに睨みながら大豪雨で両頬を濡らしていた。
一言で表すなら彼女は嵐だ。
感情のままに笑い、楽しみ、悲しみ、怒る。
そして俺の手を取って身体がぐったりするほど目まぐるしく振り回す。
北から南へ。近場から遠方へ。
美味しいものを与えてくれて、知らないものを教えてくれる。
疲れは確かにしたが、そのおもちゃ箱のような色とりどりの彼女の世界を、俺は心地よく思っていた。
いつからだろう。彼女の誘いをないがしろにしはじめたのは。
何がきっかけだろう。彼女の好きなものやすすめるものが鬱陶しくなったのは。
どうしてだろう。彼女の提案を「あとでね」と後回しにしていたのは。
彼女は怒らなかった。
ぐっと唇を噛みしめて不満を勢いよく吐き出すかと思えば、気にもしていないといった振る舞いで。
「仕方ないね! 疲れているならしょうがないか」
「また今度でも大丈夫だよ! まだまだ期間限定の日付は長いしね」
「そう……だよね! お金もないし、旅行はまた今度にしようか!」
言いたいことも行きたかったところもあっただろうに、全部飲み込んで俺の顔色ばかり窺うようになってしまった。
二人で撮った写真のアルバムを懐かしみながらも、寂しそうな顔でぼんやりと眺めていたのも知っていたのに、俺は「あとでね」を何度も繰り返してしまった。
彼女が一番楽しかった思い出に、旅行の土産のステンドグラスの栞を挟んでおいてくれたのに。
とうとう見返すこともできず、右隣をぽっかりと空けてしまった。
「次は──駅、──駅」
電車がゆっくりとホームに流れ着く。
彼女と向かうはずだった温泉の街は夏の匂いに包まれている。
アスファルトから揺らめく陽炎に愛おしい姿を探しながら、後の祭りを一人で辿っていく。