着火男
毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。
Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)
「ファイアスターター」
この能力に気づいたのは中学生くらいの時だった。中学生は絡まれやすい。生意気な高校生くらいから見ると格下で舐めてくる。
その時も僕は非行少年に絡まれていた。
「おい、ちょっと金貸してくれよ」
返す気ないのに貸せと言う。
「俺、アーティストだから作品作らないとやってけないんだ。カンパしてくれ」
貸すのかカンパなのかどっちなんだ。
「黙ってないで、なんか言えよ」
僕は衝動に突き動かされて、
「燃えろ」と言った。
「は? なんだって……」
途端に、服に火が付いて燃え広がり始めた。
慌てて離れる。非行少年は手で火を払い消そうとした。
「もっと燃えろ」僕は思った。
火の勢いは強くなり、非行少年は地面をのたうち回りながら消そうとする。
僕は怖くなり、その場から走って逃げた。
数日後、噂話が聞こえてきた。
――少年が焼死したそうだ。発火原因はライターか情報端末のバッテリーが疑われているがどっちも違うらしい。油を掛けられたということでもない。ただ、現場にもう1人少年がいたらしい。
概ね合っている。僕も目撃されていたということか。なぜ、絡まれていたのに知らん顔していたのかそれは知らないが。
下校途中に暴走族に絡まれた。仕返しだと言っている。どうやら犯人は僕と特定したようだ。警察より有能だな。
「おいコラ! ダチを殺したのお前だろう? ちょっと来い!」
「いやだ」そう言って、また、「燃えろ」と言った。
「何? うわわわわー!」僕を囲んでいた連中は燃えだした。そして、僕自身には燃え移る気配はないことに気づく。
調子に乗って「激しく燃えろっ!」と叫んだ。
「ぎゃー!」連中は地面を転げ回っている。改造バイクが横転し漏れ出したガソリンに引火して爆発する。僕は風圧は感じたが熱は感じなかった。学生服も燃えることはない。まるでバリアでもあるかのように。
消し炭になった連中を前に佇んでいると警察が来て連れて行かれた。何があったか訊かれると、ただ、「燃えた」と一言しか言わなかった。
あんまり拘束されるようであれば、警察も燃やして脱出しようかなと考えていると、物腰の柔らかい国のために働いていると居るという人が来て、話掛けてきた。
この人は、色んな特殊な人に会ってるそうで、信頼できそうだった。何もかも話してその才能を生かさないかと言う。
――才能? 思っても見なかった。僕は特別な人間だったのかと厨二病になる。
発火はイメージ。写真だけでも火を付けることができることが判明。リアルタイムに見なくても放火できる。そして、研究の結果、着火しているのではなく、核融合を見ただけで起こしているのも確認。
人間核兵器として、国の極秘エージェントとして教育を受けることになった。その話はいつかするかも知れない。