東京綺譚伝-光と星と-
「綺麗……」
イルミネーションを見ながら六花が呟いた。
「暗くなったらもっと綺麗だよね」
「帰る頃には暗くなってるだろ」
一緒に歩いていた季武が言った。
六花は四天王のマンションで夕食を作った帰りだった。
普段は料理を作り終えた後、勉強を教えてもらっているのだが今日は見せたいものがあるからと言われて早めにマンションを出たのだ。
季武は六花を連れて都庁に向かった。
二人は展望台でエレベーターを降りた。
「混んでる。いつもこんなに混んでるのかな」
「今日は特別だろ」
「なんで?」
六花の問いに季武は窓の外を指した。
西の低い空に明るい星が輝いていた。
よく見ると隣にも星がある。
あまりにも近いので一つの星のように見えた。
「あれは……」
「ベツレヘムの星の候補の一つだ」
「それって東方三賢者の……」
六花が訊ねると季武が頷いた。
貞光達の予想通り六花は知っていた。
ベツレヘムの星とはキリストが生まれた時、西の空に見た事もない星が輝いているのを見た東方の三賢者がその星を目指してやってきた。
その星の指し示す場所には聖母マリアに抱かれたイエス・キリストがいたと言う話である。
クリスマス・ツリーの天辺に飾る星はこのベツレヘムの星に見立てたものだ。
貞光達が数百年に一度の現象だし六花ならキリストの話は知ってるはずだから見せてやれと言ってきたのだ。
「帰りは中央公園のイルミネーション見てからにしろよ」
と綱に釘を刺された。
女に関する事だけはマメだな。
そう思いながらも六花が喜ぶならと連れてきた。
「どっちがベツレヘムの星? て言うか、候補って?」
「二つが接近して一つの星に見えてるのがベツレヘムの星じゃないかって説がある」
キリストが生まれたとされている頃、木星と土星が接近した。
接近と言っても見掛け上の話だが。
惑星は移動速度が速い為、接近しているのは一日で翌日には離れてしまう。
しかも一つの星に見えるほど近付くのは今回の前は四百年近く前である。
ただ、あくまでもいくつかある候補の一つで彗星や超新星爆発、火球と呼ばれる普通の流れ星よりも明るく光る流星だった可能性もある。
「分からないものなの?」
「キリストの生没年がはっきりしてないから。惑星の接近は計算で割り出せるが一日だけだとその日に曇っていたら見えないし、地球の近くを通り過ぎたあと太陽系外に飛び出した彗星なんかだと探しようがないんだ。記録でも残ってれば別だがその頃の資料にそれらしいのは無いらしい」
二人が話している間に西の空まで闇に包まれ、二つの惑星も地平線の下に消えた。
「わぁ……」
都庁から出るとイルミネーションが輝いていた。
「綺麗だね」
「イブは明日だし、クリスマスは明後日だから明日と明後日も来よう」
「うん!」
二人はイルミネーションの光に包まれて家路についた。
完
東京綺譚伝はファンタジーですが、木星と土星の大接近は2020年12月23日の夕方に実際にありました。




