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リズ  作者: 八夕 由宇
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天界戦争編



「再会を祝して、乾杯!」

リズが掛け声をかけるとニアと二人でグラスをカチンと鳴らす。夜の居酒屋特有の騒々しい喧騒の中で二人は思い出話に耽る。

ここは王都クリスタル、その城門付近の居酒屋夜烏亭で酒を飲む。

リズがニアに吹っ飛ばされた後、気絶したリズを回収、そのまま一旦王都へ連行された。リズが結晶化して捕らえた邪教一派『ネオトピア』について聞くために。だが、本来ネオトピアの勘違いから起きたことからリズは本当に何も知らないため、お咎めなしという結果になり釈放された。冤罪的な拘束を受けた為、謝罪と共に賠償金及びネオトピア逮捕の協力による謝礼金が支払われた。

「にしても、私が封印されてから三百年程経っているとはいえ、まさか通貨が三度変わっているとは思わなかったわ。」

リズが持っている硬貨は現在使われておらず、しかも三回通貨変更される前の硬貨のため、現存する実物がほぼなく、歴史的観点から金貨、銀貨、銅貨問わず一枚のみでも相当な価格になる。

「じゃが、封印から出てすぐお金持ちになれたんだから御の字だろ?封印されてよかったな。」

ニアが軽く冗談混じりに笑い飛ばすとリズは無言で睨み返す。それを見てニアは更にケタケタ笑う。

「ところでリズ、これからどうするか決めてるのか?」

ニアが聞くとリズは迷う事なく答える。

「当面の間はかつての仲間たちに会いに行くよ。せっかく封印から出れたんだもの。やっぱり一緒に旅した仲間に会いたくなるわよ。」

「そうか。」

リズの答えにニアはニコリと微笑みながら嬉しそうに話す。

「じゃあまずはテトラに会いに行くのか?幼馴染だしな。」

ニアの提案にリズはそうねと肯定した。テトラは天使族の幼い頃からの友人だ。リズとニア、テトラの三人は幼い頃からよく一緒に過ごした家族のような存在でもある。

「まぁ一番会いに行きやすいのはウンディーネなんだけどね。だからこそウンディーネはいつでもいっか。」

リズが笑いながら話すとニアも肯定と共に笑う。ウンディーネとはかつてリズ達と共に旅をした仲間の一人である水精霊だ。と言っても当時はまだ力の制御が未熟であり、基本的に水の少ない所には存在を維持出来ず、共に旅してたのは分霊体であった。

「『ウンディーネ』は森のどっかの泉で名前呼べば速攻来るしね。」

リズがそう言った瞬間、居酒屋のテーブルに置かれた水の入ったコップが波紋を一度広げた。すると突如コップの上に渦が出て来た瞬間、陽気な声と共にウェーブのかかった長い蒼い髪を後ろで一本にまとめ、大きな胸を揺らしながら無駄に露出の多い水着のような格好をした女性が姿を現した。

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン♪」

意気揚々と両手を広げ、ふふんと自慢気に飛び出て来た女性はポカンと口を開けて驚いている2人に気が付くと更にテンションを上げた。

「あれ!?リズじゃん!久しぶり!♪♪」

キャーと言いながらリズに飛びつくように抱きついた。リズはそれを心底ウザそうに引き剥がそうとする。

「ウンディーネ、どっから湧いて来たのよ。前は泉とかじゃないと呼べなかったじゃない。」

未だに抱きつこうとしてくるウンディーネを引き剥がしながら聞くと、はてなを浮かべながらさらっと答える。

「そこだけど♪」

指を差した先にあったのは水の入ったコップ。ウンディーネは三百年前とは比べ物にならない程、力を制御出来るようになり、水が少なくても存在が維持出来るようになった。だが水が少しでもなければ存在を維持出来ないらしいが、それでも分霊体に頼らずとも本体が出てこれるようになった。

ウンディーネの指差した先を見て唖然と驚くと共にリズはウンディーネの肩に手を置き、(さと)すように言った。

「水が少なくても本体が出て来れるようになったのは凄いわ。でも…出てくる場所は選ぼう?」

隣でニアが無言で頷くと、ウンディーネはえ?え?と言った顔をして、リズとニアをキョロキョロと交互に見る。

そんな光景を居酒屋の中心で繰り広げたため、夜の居酒屋らしからぬ静寂が訪れた。本来、精霊は滅多に出会えることは無い貴重な存在なのだ。それをさも親しげに話し、呼び合うのを見れば唖然とするしかない。その空気を察知したリズはやべっと呟きながら、ニアとウンディーネを連れて逃げるように店を出た。

騒ぎになる前に近くにあった手頃な宿屋に駆け込むと一部屋だけを借り、ウンディーネを引っ張りながら部屋へと駆け込む。部屋の中は意外にもモダン調の質感を醸し出す木造の部屋であった。

魔法のランプに灯りをともすと、すぐさま部屋に鍵をかける。ふーっと息をつくと一気にベッドへと腰を落ち着ける。

「はーびっくりした!久しぶりね。ウンディーネ!」

リズが改めてウンディーネに言うととても嬉しそうに再び抱きつこうとする。案の定またウザそうにするが、今度は抱きつかれる前に頭を抑える。

「だから抱きついて来んな!鬱陶しい!」

嫌がっている素振りを見せながらも、リズもかつての仲間に会えて嬉しそうに顔を歪めるが、すぐに戻してしまう。それを見てニアは放置したら延々と騒いでそうだと思いながら、くすっと微笑み、ひとしきり眺めたあとウンディーネに問いかける。

「ウンディーネに聞きたいことがあんだけど、天界への行き方って分かるか?テトラに会いに行こうと思うんだが…」

それを聞いたウンディーネがきょとんとしながら答える。

「天界への生き方なんて知らないわよー。だって私ただの精霊だもん♪」

そりゃそうかと納得しながらニアは腕を組み考え込む。その姿を見て更に答える。

「でも王都郊外のスラムを抜けた先にムーンライト地区があるんだけど、そこの教会で定期的に降臨(こうりん)の儀を行って天使を呼び出してるそうよ♪」

リズはすぐさま行こうと言い、部屋を出ようとするがニアがそれを宥める。

「今行っても降臨の儀は多分まだ先よ?いや言うほど先じゃないかな?どうだろ?♪♪」

てへへと舌を出しながらウンディーネは補足する。分からないなら早めに行って待つ方がいいだろうという結論に至り、明日の明朝にムーンライト地区の教会へ行くことにした。


ムーンライト地区

「降臨の儀もうやってるってよ!」

ニアが地元の人に聞いたところ儀を執り行っている最中とのこと。無言でじとっとウンディーネを睨みつけながらリズ達は教会へ急ぐ。間に合うかなとリズがボソッと呟くとニアが補足する。

「儀自体は相当長い時間やってるらしいから間に合うけど話せるかどうか分からんらしい。何でも地元の人も天使様に神託(しんたく)を頂こうと色々引っ張りだこみたいでな。だから天使様が直々に気になった人に問いかける形式らしい。問われなかったらまた次の機会にって感じじゃないか?」

ニアの補足を聞いてるうちに、教会が見えて来た。入口付近にもちらほらと人影が出入りしてるのを見てまだ儀の最中であると確信し、安堵(あんど)する。

教会の中へ入るとそこには天使様に神託を頂こうと集まった人達が祈りながら問いかけられるのを待っている。その中心に大きな二枚の白い羽を広げた天使が(たたず)んでいた。テトラじゃないことにリズ達は若干残念に思ったが天界への行き方が分かればいいかと自分を納得させる。そう考えた矢先、アイリス様と信者達に呼ばれていた天使と目が合った。

「あら、珍しいお客さんね。あなたも私に何か聞きたいことがあるのかしら?」

ニコリと微笑みかけながらリズに問いかけると、周りにいた信者達がずっといたのに、新参者の癖にといったような恨みの表情を浮かべながらリズ達を一斉に睨みつける。

「あ、えーと…」

若干言葉に詰まりながらもはっきりと言う。

「天使族の友人のテトラに会いに行きたいから天界への行き方を教えて欲しいんだけど…」

リズがそう言った瞬間、アイリスは眉を一瞬ひそめた。そして笑顔崩してはいないがさっきと比べ無機質な作ったような笑顔でテトラとは誰ですか?と問いかけた。

「あ、テトラってのは愛称で本名は『テトラス・マスティマ』」

リズの解答を聞いた瞬間アイリスから笑顔が消え、圧をかけるような声で「あなたの名前は?」と問いかけられる。リズは内心なんだ?と驚きつつも正直に答える。

「私の名前は『リィズ・キャット』よ。」

名前を聞くとアイリスは軽く俯き、目を閉じた。

「そうですか…。やはり『禁忌』を犯してしまいましたか。」

アイリスがボソッと呟いた『禁忌』に反応したリズは尋ねようとする暇もなく殺意の(こも)った細い光の光線が襲う。間一髪でそれを回避し、体勢を整える。そばに居たニアとウンディーネも臨戦態勢に入る。リズは紅い結晶で片刃の直刀を作り出し、次なる攻撃に備えながら突然何しやがるとアイリスに問いかける。アイリスはそれに簡潔に答える。

「テトラスは『禁忌』を犯しました。よってテトラス及びリィズ・キャット、そして今同行している古龍と水の精霊、以上4名を…排除する。」

ギラッとした目つきでリズ達を睨みつけると再び光線で攻撃を開始する。その光景を目の当たりにした信者達は只事じゃないと感じ、このまま居れば巻き込まれて死ぬかもしれないと混乱を起こしながら教会から出ようとする。そんなことお構い無しにアイリスは殺意を込めた攻撃で教会ごと破壊していく。リズは紅い結晶を生成し、盾代わりにするが光線の威力が高すぎるのか一瞬で粉々にされ、貫通してくる。同時に複数出てこないのが幸いだが威力と連射速度が段違いに早過ぎて、回避するのが精一杯で反撃するために近づくことが出来ない。

「水固め『ウォーターロック』!!」

ウンディーネが水を生成し、アイリスを閉じ込めるように水を覆う。一瞬で無効化されてしまうがその一瞬、技を解くために隙が生まれた。僅かに生まれた隙を見逃さないでリズとニアは一気に距離を詰め、反撃をする。リズは左下から右上へ切り上げるように、ニアは古龍である本来の純粋な力で殴りかかる。だがその反撃も虚しく、高密度の光の粒子で生成された即席の盾に完全に防がれてしまう。アイリスはそのまま衝撃波のような光の波動を出し、リズ達を吹き飛ばす。その反動でリズ達は教会の壁を突き破り、外へと放り出された。

「諦めなさい。貴方たちがどれだけ抵抗しようと無駄よ。これも運命。死を受け入れなさい。」

アイリスが告げると挑発するように反論し、リズはゆっくりと立ち上がり武器を構えた。

「そんな運命なんて捨ててやるよ!未来は自分たちで切り拓く!決められた未来なんてつまらないだろう?」

ニアとウンディーネもリズに同意をした。

「確かに誰かに未来を決められるなんて御免だね。未来は自ら掴み取る!」

「私だって決まったレールの上を歩かされるのはつまらないもの。何が起こるか分からないからこそ私たちの未来は面白いんじゃない♪♪」

アイリスは呆れたような表情を浮かべ告げる。

「これ以上何を言っても無駄なようね。ならば望み通り、楽にしてあげましょう。」

アイリスが両手を重ね、前方へ伸ばす。光の粒子が収束され高密度の光球を生成する。すると突然光球が消えた。アイリスが技を止めたようだ。

「そなたが手を下すまでもない。アイリス。」

突然、低い男性の声が響く。

「かしこまりました。ガブリエル様。」

アイリスがガブリエルと呼んだ男の姿は見えない。どうやら通信魔法で声だけをその場に伝えているようだ。アイリスが従っているということは恐らく同じ天使族であり、アイリスより位が高い天使なのだろう。

「リズ、ニア、ウンディーネ…といったか?貴様たちはテトラスと共に処刑する。」

ガブリエルが宣言すると辺りに光の輪がいくつも形成し、そこから機械のような天使の形をした兵士が出現した。


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