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リズ  作者: 八夕 由宇
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プロローグ

「遅かったな、王国の騎士共よ。我らの悲願は叶った。我々の勝利だ!!!」

 黒いローブに身を包んだ集団は、とある封印石の封印を解きながら、リーダー格と思しき男は声高らかに嬉々として語った。

「この瞬間をどれほど待ち望んだことか。もう誰にも止めることは出来ない!!この世界はもう終わりだ!破壊と創造を繰り返し、世界を作り替える。そして我々は神となる!お前たちは記念すべき最初の犠牲者だ。我らの糧になってもらおう。」

 豪華な鎧に包まれた王国の騎士団長は言う。

「糧になるつもりはない。…がこの俺の命ごときでお前たち邪教一派を止められるのなら安いものさ」

 覚悟を決めた眼差しで邪教一派を睨みつけ剣を構える。それに習い、後続の騎士たちもまた剣を構え戦闘態勢に入る。

「小賢しい騎士共め。その覚悟、完膚なきまでに捻り潰してやる。さぁ!!封印から解き放たれ、姿を現したまえ!!赤晶(せきしょう)の悪魔!!」

 次の瞬間、身体が吹き飛ばされそうなほど強い突風と共に、目も当てられないほどの激しい光に辺りは包まれ、地面が震えるほどの轟音が鳴り響く。立っていることすら困難な程の揺れに、その場にいる全員が膝をつく。

 すると、突然爆発したかのような一際大きい轟音が鳴り響くと何事もなかったかのように静かになった。

「止まった…?」

「一体何が起きた?」

 騎士達は突然静まった事に動揺が隠せない。どよめいた空間の中に一人の騎士が指をさして叫んだ。

「あれを見ろ!」

 指の先には今まで誰もいなかったはずの場所に突然現れた、とある少女がいた。白銀の髪、赤い瞳、白い肌、猫の耳を持ち、首を軽く左に傾げながら佇んでいた。

「猫の獣人…?」

 騎士の一人が呟く。それを聞いた邪教一派のリーダーと思しき男が叫ぶ。

「何を言うか!この御方は赤晶の悪魔!万物を赤晶へと変え、この世界を滅ぼすことの出来る唯一の御方。この御方が復活された今、お前らに勝ち目はない!!」

 封印を解いていた男の一人が続いて叫ぶ。

「この御方は今から300年前に、その強大すぎる力を恐れられ、奇しくも封印されてしまった。だが再びこの世に復活された。この場に再び封印出来る者もいなければ、封印出来るだけの準備を整えるのも不可能。」

 邪教一派は勝利を確信した面持ちで少女に跪いた。邪教一派のリーダーは代表して少女に語る。

「赤晶の悪魔様。我々は貴方様の忠実なる下僕。貴方様を封印したこの憎き世界を共に滅ぼしましょう。時は来ました。我々と共に、この世界に復讐を!」

 騎士たちは真剣な眼差しで少女を見つめ、警戒していた。

『この少女…見た目は猫獣人。だが尋常ならざる気配を感じる…。こいつは危険だ。…だがここで野放しにすることは出来ない。止められるか?いや…この命を捨ててでも止めねば!!』

 騎士団長は心の中で呟き、再び覚悟を決めた。斬り込むために駆け出そうとした瞬間、少女は口を開いた。

「二つ、私の考えと訂正をしよう。まず一つ、私はこの世界を憎んでもいないし、復讐も滅ぼすつもりも無い。」

 跪いている邪教一派にどよめきの声が上がる。騎士たちも何事かと耳を傾ける。少女はそれらを無視して続ける。

「二つ、お前たちは何か勘違いをしている様だが、私は悪魔ではない。見ての通り、猫の獣人だ。」

 そう聞くなり、邪教一派のどよめきは更に増す。

「せ、赤晶の悪魔様…?ご冗談、ですよね…?」

 邪教一派のリーダーは動揺を隠すかのように訂正を求める眼差しを向けながら言い放つ。

「貴方様はただの猫獣人とは違い悪魔と同じ赤い瞳を持ち、赤晶化の呪いを操ることが出来る御方。例えご冗談でも悪魔ではないなどとおっしゃられては混乱を招きかねません。今後は控えていただけますと有難いのですが…」

 少女は動じることなく、言葉を遮った。

「残念ながら冗談ではないな。事実だ。まぁただの猫獣人ではないのは確かだが、少なくとも悪魔ではない。」

「どういうことだ?」

「仲間割れか?」

「今がチャンスじゃないか?」

 騎士たちは様々な憶測を巡らせ、その様子を見守る。

「そうだな。ここらで自己紹介でもしておこうか。私の名前はリィズ・キャット。猫獣人キャット一族の突然変異種だ。突然変異の副作用により、呪適合化(のろいてきごうか)体質を手に入れた。つまりお前たちの言う赤晶化の力を扱えるのは赤晶化の呪いと適合した産物という訳だ。」

 そう聞くなり邪教一派は顔を強張らせ、絶望をしたかのような面持ちになる。邪教一派のリーダーは冷静さを失い、手段を選ばず強行しようとする。

「こ、この際お前が悪魔かどうかは置いておこう!だから、あそこにいる騎士共を片付けろ!お前が封印から出て来れたのは我々のおかげなのだ!!せめて恩義を返しなさい!!」

 命令をされたリィズは邪教一派のリーダーを睨みながら質問をした。

「その前にひとつ聞こう。あそこにいる騎士達を倒さなきゃいけない理由は?」

 邪教一派のリーダーはそんなことも分からないのかとでも言う様なイラついた表情を出し、叫ぶように言った。

「そんなの決まっているだろう!!この世界を創り変えるために!我々が神へとなるために!こんな所で終わる訳にはいかないのだよ!」

 リィズは軽く目を伏せ、「そうか」と呟いた。

 その瞬間、騎士団長は殺気とは違う、だが背筋が凍るようなおぞましい気配を感じた。

「総員!防御態勢!!」

 何か来ると感じた騎士団長は部下たちに防御態勢の指示を出し、防御の構えをしながら武器を構える。

『パキンッ!』

 それは刹那(せつな)の出来事だった。その場にいる誰もが起きたことを理解出来ずに呆ける。何故なら、その場に居たはずの邪教一派全員が赤い結晶に包まれていたからだ。

「私の封印を解いてくれたことには感謝してるわ。出来れば恩を返したい、だけど悪事には手を貸せないわ。罪を償って改心しなさいな。その時こそ、私は手を貸すわ。」

 邪教一派にそう告げた後、騎士達の方へ振り返る。一瞬戸惑った様な素振りを見せたが、すぐに警戒態勢を取る。武器を構えながら騎士団長はリズに尋ねた。

「お前は…敵か、味方か?」

 リズは少し予想外の反応かの様に目をぱちくりとさせてから答えた。

「そうね、一応どちらでもないかしら?敵対する意思はないし、だからと言って手を貸すメリットもないし…。まぁある意味今だけは味方の様なものかしらね。」

 騎士団長は警戒態勢を解かないままさらに尋ねる。

「どういうことか、詳しく説明を願おう。」

 リズは腕を組み、堂々とした態度で答えた。

「基本的には中立で居るけど、悪事を働こうとするならば、止めるために協力を惜しまない。それが私のスタイルだからよ。これでいいかしら?」

 騎士団長はリズの目を見つめた。

『嘘をついている様には見えない。恐らく事実なのだろう。だが邪教一派が封印を解いたことで復活した人物。完全に信用するわけにはいかない。形だけでも連行して陛下の判断を仰ぐか。』

「分かった。今はあなたの言葉を信じよう。だが邪教一派が封印を解いた結果、あなたが出て来た。それを踏まえるとこのまま野放しにすることも出来ない。形だけでも私達の国へと連行させてもらう。」

 騎士団長は一瞬の間に判断をし、そう告げた。近くに居た部下たちに手錠(てじょう)をかけるよう指示し、そのまま国まで連行するよう命じた。赤晶化された邪教一派達はこのままでは運べないため、一旦国に戻り準備を整えてから回収するため、とりあえず放置することにした。死ぬ可能性もあった大きな任務を無事に治めたことで、緊張の糸が一気に切れたのか騎士達は疲れた表情を浮かべていた。リズは洞窟を抜けると目を細めた。300年ぶりの外、陽の光ですら刺激が強く、目を開けられない。しばらくすると慣れてきたのか徐々に周りが見えてきた。青々とした木々に囲まれ、中央には1本の道、木々の隙間から見える空は、澄み切った青空が広がっていた。風に揺られ、木の葉がカサカサと音を立てる。

「久しぶりの外だろうが我慢してくれ。」

 そう一言告げた後、騎士団長は先頭に行くなりそのまま騎士達を率いた。二十分程歩くと以前森ではあるが開けた場所に出る。すると突然身体が痺れるかのような圧と共に、耳を塞ぎたくなる咆哮が聞こえてくる。

「嘘だろ…。」

 騎士の一人が絶望の表情を浮かべながら、空を見上げる。それに釣られて周りの騎士達も空を見上げる。その後、騎士達は同じ様に絶望した表情を浮かべ、言葉を失う。

 騎士団長は絶望した表情を浮かべる騎士達と同様に空を見上げる。咆哮の正体であろうそれの姿を見て目を見開く。それは大きな影を騎士達の上に落としながら目の前に勢いよく着地した。

『ドオォォォォォンッッッッ!!!』

 とてつもなく大きな音を立て着地したそれはゆっくりと顔を上げ、こちらを見た。

「古龍…!!!」

 それの正体は古い時代から生きている龍の一種、古龍であった。古龍は龍種の中で特に強い種族で討伐するには国の軍を総動員し、遠距離火力で一気に叩く必要がある程の力を有している。

 騎士団長は再び窮地に立たされたことを実感し、絶望している暇はないと自らに言い聞かせ、騎士達に戦闘態勢を取らせる。だが絶望し切った騎士達は腰が引けてしまっている。このままでは全滅すると予感したが、どうにか生き残ることに思考を巡らす。魔法士も居るには居るが、古龍を相手にするには火力が足りなさ過ぎる。考えがまとまる間もなく視界の端から勢いよく飛び出していく影が見えた。手錠をかけたままリズが古龍へと特攻する。ハッと息を飲むが止めることも叶わず見ていることしか出来なかった。リズはそのままの勢いで古龍の頭上へと飛び上がった。体勢を整えリズは古龍の頭へかかと落としを決める。予想外に古龍は耐えること叶わず、地面へと叩きつけられた。

 リズはそのまま地面に伏した古龍の頭上に着地をすると、古龍はいきなり顔を勢いよく振り上げた。その反動でリズも軽く吹き飛ばされそうになったが吹き飛ばされる瞬間に自ら飛んだため、難なく地面へと着地した。

「いきなり何をする!?痛いではないか!!!リズ!!!」

 着地したリズを睨みつけ古龍は怒鳴りつけた。だがリズの名前を呼んだことにより、リズと古龍の繋がりが謎めき、騎士達は呆気に取られた。

「あはは、ごめんごめん。久しぶりね、ニア。」

 少し茶化す様に謝り、リズは古龍のことをニアと呼んだ。

「ウゥー…酷いぞ。300年振りの再会だと言うのに…」

 ニアはブツブツと文句を言いながらいじけたような態度を見せる。そんなニアをなだめながらリズは騎士達に紹介をする。

「この子はニア、私の友人よ。ニアとは幼い頃からの付き合いだから、幼馴染とでも言った方が正しいかしら」

 古龍を幼馴染と言ったリズに対し、騎士達は一種の恐怖を覚える。古龍と繋がりがあったのみならず、出会い頭に体術で古龍を地面へと叩きつける事が出来る程の強さを持つこの少女が大人しく拘束されているということに驚きを隠せないようだ。その気になればいつでも拘束を解き、その場にいる全員を倒し逃げ出せるはずなのに。

「ニア、そろそろ人化してくれない?いい加減見上げて話すのに首が疲れるのよ」

 ため息混じりに告げるとニアは大人しくそれに従う。みるみる身体が小さくなり少女の姿になる。リズより少しだけ背が低く、胸も小ぶり。だが仮にもドラゴンと感じさせるかのように頭には角が生えており、尻尾も着いている。

 驚くことの連続で騎士たちは唖然としたまま、何も言うことが出来ない。

「ぷぷぷ、相変わらず胸がちっちゃいわね。お子ちゃま体型♡」

 リズがあからさまに煽った瞬間、間髪入れずにニアは全力のアッパーを叩き込む。

「お前も似たようなもんだろがっ!!!」

 ニアの悲しい叫びと共にリズはアッパーを諸に喰らい、豆粒かと思える程小さく見える所まで吹っ飛ばされた。

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