黒騎士は守れない
それは魔法大国にかつて存在していた、哀れな魔法騎士の物語。
今はもう、騎士ではあれなくなった、可哀そうな魔法騎士の物語。
騎士は剣を使えない。
なぜなら。
使う剣を持たず、使う理由も持たないから。
真っ黒な鎧に身を包んだ騎士。
とても重々しい鎧に身を包んだ騎士。
騎士は寡黙で、喋らない。
ただ無言で、果たすべき役目をこなすのみだった。
そんな黒騎士には、仕える主がいた。
その主は、可憐な少女だ。
紫のドレスを着た少女。
儚い雰囲気をまとった人物。
黒騎士はその少女を守らなければならない。
それが黒騎士の仕事だからだ。
しかし、その騎士は騎士剣をふるう事ができない。
今は少女を守れない。
なぜならば。
黒騎士が持っている騎士剣は、使えない。
半ばで刀身が折れてしまっていたからだ。
それは昨日、今日に折れたものではない。
かなり昔に、とっくの昔に折れてしまっていたからだ。
だから黒騎士は守れない。
守りたい存在を守れない。
今の、黒騎士が守るのは「仕えている主」の事ではなく、「仕えていた主」の幻だった。
守れない幻を守る、哀れな騎士の誕生だった。
かつての昔。
黒騎士の中には、真っ黒な感情があった。
それは、制御できないほど、巨大な感情だった。
かつて、その感情にのまれて剣をふるった黒騎士は、間違ったものを斬ってしまった。
嫉妬の感情に飲まれていた黒騎士は、少女を守れる唯一の騎士は自分だけで良いと思っていた。
だから、仲間と剣を交え、己の剣を折る事になった。
少女は、そんな黒騎士の醜態を見て、何も言わずに去っていった。
だからかつての過去、騎士剣は折れてしまっていた。
剣も、そして心も。
黒騎士は、二度と剣を振る事が出来ない。
二度と主を守る事ができない。
折れた剣と心では、
幻の少女を守る事すらできない。