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第1話 【3分で読める948文字】

カクヨムにも掲載中

 彼は一台の『タンク』であった。


 名前もある。彼は自身を『ジャンブ』と呼称している。


 ある時、廃車になった彼は他のガラクタ一緒にどこかに運ばれていた。

 傍に転がっていた壊れた油圧装置に「これからどこへ連れていかれるのか?」と尋ねた。


『ペルデンテ』と名乗った彼女はただ一言―― 「墓場よ……」と呟くだけだった。

 ただ露命を逐い繋ぐことさえ叶わないと言いたげなか細い彼女の声が苦痛感をにぶらせてしまったからなのか。彼は少しだけ落着きを取り戻した。


 彼とペルデンテは共に無言だったが、ついに沈黙に耐えられなくなったジャンブが彼女に話しかける。


「……こ、これからどうなるんだ?」

「焼かれて、痛めつけられて、形を変えられるだけ。気にしても無駄よ」


「形を変えられる? どういうことだ?」

「私たちは溶かされて、また別のモノになって再利用される。記憶も何も無くなってね。全ては輪廻の繰り返しなのよ。中には前の記憶が残ってる奴もいるけど…… ほとんどは忘れてる。たまに生き物に生まれ変わる奴とかもいるみたいだけど」



「……再利用?」とジャンブは小さく尋ねたが、

「運が良かったらまた会いましょ……」と口にしたきり、彼女が言葉を発することはなかった。



 近くに埋まっていた故障したラジオから歌が流れてくる。



 そのラジオが自ら歌っていたのか、何かの電波を偶然拾ってしまったのかは分からない。


『さあ おけいこを始めましょう やさしいところから

 みなさん一緒に歌いましょう


 どんなときにも 手を繋いで

 みんな楽しく ファイトを持って

 空を仰いで ランラ ランランランラン

 再会の歌 さあ歌いましょう


 どんなときにも 列を組んで

 みんな楽しく ファイトを持って

 天を仰いで ランラ ランランランラン

 幸せの歌 さあ歌いましょう』


 そして――。



 ジャンブは廃棄物処理場テークシスに送られ炎にくべられた。



 彼の身が融解温度に達して、ドロドロに溶け切るその時までおよそ一五〇〇度の炎に焼かれ続けたのだ。


「痛いッ! 熱いッ! 苦しいッ! 止めてくれッ! 辛いッ! 助けてッ!」


 思いつく限りの苦悶の言葉を叫んでも誰も助けてはくれなかったし、周りの廃品・部品たちも同様の怨嗟の声を上げており、彼の言葉はたちまち埋もれてかき消された。



 叫ぶ気力すら無くなったジャンブは処理場の天井を凝視しながらとうとう意識を失った。

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