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イケボなんだけど……

 親父が再婚すると言ったのが二ヶ月前。


 話はトントン拍子に進んで、都内のファミレスで顔合わせをすることになり、今は目の前に二人の女性が座っていた。


 これから俺の母親となる女性は白いタートルネックのセーターを着ていて、二つの大きな山が胸の大きさを強く主張している。髪は黒くて長く、顔にシワはない。二十代でも通用するような若さを持ち、優しそうな顔立ちをしていた。


 その隣いる少女――義妹は、未成熟な美しさを持っていた。目は二重でぱっちりとしていて、鼻筋の通った端整な顔だち。肌は陶器のように白く、薄茶色の長い髪はキラキラと光っているようにも見る。


 これから何人もの男を惑わす女性に成長する。そう思わせるほどの魅力を持っていた。


「初めまして。これから姫川麻衣さんの父親になる涼風当夜(すずかぜとうや)です。隣にいるのは息子の涼風優希(ゆうき)です」


 そんな二人に見とれている間に親父は淡々と自己紹介を進める。

 目だけを動かして俺を見た。

 わかってる。これでも大人だ。挨拶ぐらいできるさ。


「父から紹介してもらった涼風優希です。今はフリーでエンジニアをやっています」


 最初はこの程度で十分だろ。


 一気に言われても覚えられないだろうし、後は食事をしながら小出しにしていけばいい。時間はたっぷりあるのだから、焦らずじっくりと交流を深めていこう。


 会話の進行は親父に任せて、俺は義妹となる少女を見る。


 両手で口を隠して目を見開いていた。


「えッ、うそッ、超イケボなんだけど……」


 小声で何かをつぶやいていたが、親父のうるさい笑い声でかき消されてしまい聞こえなかった。


 多分、成人済みの義兄ができて驚いているのだろう。その気持ちは分かる。


 一緒に暮らしていけるのだろうか、仲良く出来るだろうか。そんな不安を抱えているかもしれない。


 だが安心して欲しい。俺だって同じだ。


 親父は再婚するとしか言ってなかったのだ。まさか24歳を過ぎてからこんな大きい義妹ができるなんて、夢にも思わなかった。しかも美少女だ。


 ドッキリでしたと言われた方が納得できる。そのぐらい現実感がなかった。


 他人との交流が減ってしまった俺にとって、まぶしすぎる存在だ。本当に家族になっていいのだろうか? 家族になる相手を間違いていませんか? と聞きたいぐらいだ。


 見た目がさえない親父が美人と再婚するだけでも奇跡だといえるのに、一生分の運を使ってしまったかもしれない。


「ご丁寧にありがとうございます。私は姫川みきえです。隣に座るのが娘の麻衣まいです」


 今度は新しい母となる、みきえさんが挨拶をしてくれた。


 俺たちは麻衣が名乗り上げるのを待っている。


 体調が悪いのか目の焦点があっていない。

 ぼーっとしているようで反応がなかった。


 みきえさんが肘で横腹をつっつくと、ようやく麻衣の意識が現実に戻ったようだ。


「あ、わ、私は姫川麻衣です。この春、高校一年生になります」


 丁寧に頭まで下げて自己紹介をしてくれた。


 それにしても高校一年か。十歳近く歳が離れている。家族として上手くやっていけるか、不安で仕方がないが……まあ、四人で住むのでなんとかなるだろう。


 下心があると警戒されても嫌だし、二人っきりにならならないよう注意しよう。たまに会う親戚の叔父さんぐらいの距離感で接するのが一番だ。


「よし、堅苦しい時間は終わりだ! 好きな物を注文するといい!」

「まぁ、当夜さんったら。真面目な時間は数分しか持ちませんでしたね~」


 親父と義母の二人が笑いながら仲良く話している。俺の母親は小さい頃に亡くなったので、異性と親しく話している光景に違和感を持つが、悪い気分ではなかった。


 同じ立場の麻衣さんがどう思っているのか気になって見る。


 片耳にイヤホンをつけてスマホを操作していた。口角が上がって楽しそうにしている。


 彼女はこの再婚に興味ないのだろうか?


 それとも、反対しているのか?


 だから、わかりやすく態度で不満だとアピールしている?


 何を聞いているのか気になって質問しようとしたが、みきえさんに動かれてしまった。


「麻衣。こんな時にまでイヤホンはつけたらだめよ」

「ごめんなさい」


 麻衣さんの方は素直に従ったところを見ると、二人の関係は悪くはなさそうだ。反発しているように見えないので、出だしからギクシャクせずに済みそうで安心した。


「私、これ食べたいな。お母さんは?」

「うーん。海藻サラダとスープね。肌にいいのよ~」

「えー。じゃぁ、私も食べようかなぁー」


 楽しそうに話しながら二人はメニューを選んで決めていった。


 最初は慣れないかもしれないが、四人の新しい生活は楽しくなりそうだ。


「よし。注文するぞ!」


 店員を読んで注文を終わらせると、親父から発表があった。


 なんと新しい新築のマンションを買ったとらしいのだ。みきえさんには伝えていたみたいだが、俺と麻衣は今知らされたので驚いてしまった。


 四人家族用で部屋は人数分ある。広さも十分ということだ。春から通う麻衣の高校にも近いらしく、通学は楽になるらしい。


 他にも引っ越しの準備について親父が中心となって話を進めると、一カ月後に四人の新生活が始まることが決まった。

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