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『寝転んでじゃれあう』 ―1

気が向いたらかくったー(https://shindanmaker.com/433599)さんからのお題:

『寝転んでじゃれあうディルとローズマリー』 です。

 ディルと結婚してから三月程。

 色々な事が落ち着いてきて、護衛騎士からただの騎士に戻って、何かと忙しく過ごしていたディルが久しぶりに休日となったある日。

 最近では明け方まで何度も抱かれるような事も減ってきて、だからこの日も、私はきちんと朝に目が覚めた。


「……ディル?」


 いつもは私が先に目を覚ましても気配ですぐに目を覚ますのに、私を抱きしめて眠っているディルが目覚める様子がない。

 そして、何となく伝わってくる体温が、いつもより高い気がして……

 私はそっとディルの額に手をあててみる。


「やだ、大変」


 ぽつりと呟いて、ディルの腕を剥がすとそぅっとベッドから抜け出してガウンを羽織ってから部屋を出る。


「エルダー、アンジー、いる?」


 パタパタと廊下を走る私に真っ先に気づいたのは、嫁いだ際に実家からついて来てくれた、子供の頃から変わらず私の一番の侍女のアンゼリカだった。


「どうかされましたか? ──まぁ、そのような格好でお部屋から出てはダメですよ」


 くるりと部屋に戻されそうになって、私は慌ててアンゼリカの手を掴む。


「違うの、アンジー。ディルが、熱があるみたいで……」


 即座に執事であるエルダーにその事が伝えられて、マグノリア家お抱えの医師の元へ遣いが出された。

 エルダーは、ディルがこの新居に越した際にマグノリア家から連れてきたまだ若い男性で、きちんと年齢を聞いた事はないけれど、多分ディルより少し上くらいだろうと思っている。

 実のところ、最近アンゼリカと良い雰囲気なんじゃない? と日々ニヤニヤ観察中だったりするのだけど……。

 二人であれこれしてくれている姿をニヤニヤ眺める心の余裕が今の私にはないので、今日は観察はお休みです……。


 医師(せんせい)が来るまでの間にと、アンゼリカが持ってきてくれたフルーツを軽くつまんで、身支度を整える。

 そして寝室に戻ると、ディルはまだ眠っていた。

 その呼吸は少し苦しそうで、私はアンゼリカが持ってきてくれた濡れタオルをそっとディルのおでこに乗せる。


「……ローズマリー…?」


 うっすらと目を開けたディルに、はい、と返事をする。

 顔の向きを変えたせいでずり落ちそうになったタオルを直して、ぼんやりしているディルの頬に手をあてる。


「熱が出ているんです。先生が来て下さいますから……それまでもう少し休んでいて下さい」

「熱……?」

「はい。 お水、飲みますか?」

「──あぁ」

「起きられますか?」


 ディルが普段よりも緩慢な動きで起き上がるのを、背中に腕を回して支える。

 サイドテーブルに置いておいた水差しからコップに水を注いで、ディルにコップを手渡すと、ありがとう、と少し掠れた声で呟いた。


 ディルが水を飲み終えて再び横になった時、寝室のドアがノックされてエルダーに続いて医師(せんせい)が入ってくる。


「先生、朝からすみません」


 眉を下げた私に、白い顎ひげがトレードマークの──赤い帽子と服を着せたらサンタさんになりそうだなぁと内心思っていたりするのだけれど──医師(せんせい)は穏やかに微笑む。


「いやいや、構いませんよ。 どれ、診ましょうかね」




 診断の結果は 『ただの風邪』 だった。

 私はあぁやっぱり、と息を落とす。


 三日前の夜、ディルは突然降りだした雨にやられたと、ずぶ濡れで帰って来た。

 身体がすっかり冷たくなっていたのですぐにお風呂に入らせたところまでは良かったけれど、お風呂上りのディルに「まだ寒いからあっためて」と、ここぞとばかりにベッドに連れ込まれ、しっかりと運動(・・)をして汗をかいて、そのまま眠った。


 絶対あれだわ、と私は頷く。

 翌日から少し喉の調子がおかしそうだなぁとは思ってはいたのだけれど、護衛騎士時代も体調不良で休むという事がなかったので、あまり心配はしていなかったのだけれど。


「ディル様は丈夫ですから、一日もすればケロッとしているでしょう。まぁ、今日は一日大人しくさせておいて下さい」


 子供の頃から診ているという医師(せんせい)のその言葉に、風邪だと分かっていてもやっぱり少し安心する。

 そして医師(せんせい)から一応出しておきますね、と解熱鎮痛剤を受け取ってから玄関まで見送ると、感染(うつ)ったら大変ですよぅと渋るアンゼリカに少しだけだからとお願いして寝室に戻る。


「出かける予定だったのに……すまない……」


 ディルの言葉に「いいえ」と首を振って、料理長が切ってくれた果物をフォークに刺してディルの口元に持っていく。


風邪(びょうき)なのですから仕方ありません。今日でなくてはならない用事ってわけでもありませんし」


 果物をしゃくりと噛んで、ディルが だが……と呟くので、私は小さく笑う。


「でしたら、次のお休みの日には連れて行って下さいね、デート」

「──あぁ、必ず」


 頷いたディルが私に手を伸ばして身体を引き寄せようとしたので、ダメですよ、とその口に果物を押し付ける。

 憮然としたようにもぐもぐと咀嚼しているディルに果物を全て食べさせて、そしてもう一度水を飲ませるとすぐにベッドに押し込める。


「今日はゆっくり休んで、早く良くなってくださいね」


 布団をかけてぽんぽんと叩いてから、普段よりも熱い額にそっと唇を落として離れようとすると、ぐっと抱きしめられた。


「ディル……?」

「少しだけ……」


 甘えるような声を出されて、思わずきゅんっとしてしまう。


「──もう、仕方ないですね」


 一度身体を離してベッドに腰かけてからそっとディルの胸に頭を預けると、すぐに背中に腕が回される。


「アンジーがうるさそうなので、本当に少しだけですよ」


 わかった、と言いながらも、腕にきゅっと力が入る。

 病気になると気弱になるあれかしらと思いながら、ディルの鼓動を聴くようにそっと目を閉じる。


 そうしてディルの鼓動を五十ほど数えてから、ディルの胸をとんとんと軽く叩くと、背中に回った腕が名残惜しそうに緩められた。


「おやすみなさい。また、見に来ますから」


 もう一度そっとディルの額に唇を落として、アンゼリカの雷が落ちる前にと寝室を後にした。


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