05. めでたしめでたし
うちのとは違う馬車が停まった事に慌てて飛び出してきた執事のセバスはまずディル様の──マグノリア家子息の姿に驚き、次いでパーティーで当分戻らないはずの私の姿に驚き。
そして大事な話があるからと両親を呼ぶよう頼むと、ディル様と私をちらりと見て、何かを心得たように一つ頷くとディル様を応接室に通してくれた。
すぐにやって来た両親に、パーティー会場で殿下から婚約破棄を言い渡された事を報告すると、お父様はふむ、と顎髭を撫で、お母様はあらまぁ、と超絶素敵な微笑みを見せた。
「それで? ソレル殿下の筆頭護衛騎士であるディル・マグノリア殿は、なぜうちの娘と共に在るのかな」
お父様の問いに、ディル様はやっぱり見惚れるくらい綺麗な座礼をした。
「護衛の任は、下りる旨を先ほど殿下に伝えました。正式な手続きは明日になりますが……護衛に戻る事はありません」
そこでディル様は一度頭を上げる。
「私は一人の男として、ローズマリー嬢を一番近くで護りたい。どうか、その許可を頂きたい」
「護るだけ、ですか?」
お母様のいじわるな視線に、ディル様は一瞬私に視線を寄こすと、いえ、と首を振った。
「ローズマリー嬢を愛しています」
きっぱりと放たれた言葉に、私は自分の顔にかーっと熱が集まるのを感じた。
恥ずかしい。
何これすっごく恥ずかしい。
さっきも言われたけど。その時も真っ赤になってた自覚はあるけど!
両親の前で堂々と言われるのって、何だかすっごく居たたまれない気分になるんだ……!!
うわぁぁぁぁ! と脳内マラソンを繰り広げていると、お父様とお母様がやれやれとばかりに視線を投げてくる。
多分私の脳内が大騒ぎな事などお見通しなのだろう。
「この子は子供の頃から殿下の婚約者として生きてきました。故に女性としての経験値は少々不足しているだろうが、構わないかな」
「そんなところもかわ……魅力の一つです」
しれっと"かわいい"って言おうとした、この人。
絶対キャラ違う!
「まぁ私たちとしても愛のないアホ……あら、失礼。あんな殿下よりは、愛し愛される相手に嫁がせてあげたいのだけれど……。ローズマリー」
「は、はいっ!!」
お母様の視線に、私はしゃきっと背筋を伸ばす。
「あなたは、ディル・マグノリア殿で、良いのですね?」
その問いかけに、私はお母様と、お父様と、最後にディル様を見て、そしてお母様に視線を戻す。
「はい。ディル様が、良いです……ディル様でなければ、嫌です」
少し声が震えたのは、仕方がない事だと思う。
でもはっきりと伝えられた。はず。
ドキドキしながらお母様の反応を窺っていると、膝の上に置いていた手がそっと暖かいもので包まれた。
視線を落とすと、大きな手が私の手を包み込んでくれている。
ディル様の手だ。
そこで私は手の平に爪が食い込む程に強く、自分の手を握りこんでいた事に気付いた。
ぎこちなく指を緩めると、ディル様がぽん、と手を叩いてくれて、ちらりと笑みまで見せてくれた。
何か今日はディル様の笑った顔いっぱい見てる。
願望が鬼のように叶ってる。
どうしよう、幸せすぎて溶けてしまいそう。
えへへと微笑みあっていたら、うぉっほんとお父様が咳ばらいをした。
慌てて顔を引き締めて、背筋を伸ばし直す。
ディル様も手を引っ込めて……はくれなかった。
え、そこは離すところではないでしょうか。
お願いだから離しましょうよ、とチラチラとディル様に視線を送るけれど、どこ吹く風のようで、ん? とばかりに小首を傾げられた。
ちくしょう、可愛いって思っちゃったじゃないっ!
あとでもっかいやって貰お!
お母様がそんな私たちを見て目を細める。
「良いでしょう、私は認めます」
「お母様……!」
ぱっと顔を輝かせてしまった私に、お父様が苦虫を噛み潰したような顔をする。
「ほら、あなた」
お母様にぺしんっと膝を叩かれて、お父様はうむ、とかいやだが、とか呟いた後に一度天を仰ぐと、ふーっと大きく息を吐いた。
「ローズマリーと、ディル・マグノリア殿の結婚を、認めよ……」
「ありがとうございます」
お父様の言葉に被せ気味にディル様がきれいなきれいな座礼をかます。
お母様はあらまぁと微笑んで、お父様はむぎぎぎっと変な唸り声をあげていた。
こうして私とディル様は、光芒一閃、婚約者と相成った。
うん、その後ディル様がマグノリア家の権力を存分にふるいまくったおかげで電光石火の早さで結婚まで至ってしまったのだけど。
多分そこまでディル様が無茶をしたのは、お父様とフェンネルからの『清く正しいお付き合い』の厳命があった為と思われる。
清く正しいお付き合い……をしてましたよ?
キスは、清く正しいお付き合いの範囲内だそうです。ディル様比だそうですけど。
唇だけじゃなくて、なんかあちこちされましたけど。
これもキスだよ、と微笑まれれば、私に抵抗なんて出来るはずもなく……。
とにかくキスだけで我慢しまくってくれたらしいディル様は結婚式の誓いのキスでとっても熱烈なのをかまして下さって、むぎゃーっとなった私の心中を察した司祭様が、多分進行にも障りがあったのだろうけど、さりげなく手にしていた聖杖でディル様を突っついてくれた。
あれでディル様が浄化されてくれれば良かったのにな~と、今私はディル様との新居の、夫婦の寝室の、キングサイズのベッドの上で、悪霊退散お色気霧散! と脳内で全力祈祷を行っている。
「あ、あの、ディル様……」
「ディルで良い」
「ディル……さま。やっぱり無理ですすみません」
「いきなりは無理か」
「そーですね、いきなりは……あの、追々……」
出来ますれば、ディル様のそのやる気満々なそちらも、追々が……
とはこわくて言えないけどっ!
「ローズマリー」
名を呼ばれて、ぴくりと身体が震える。
はい、と返事をしたつもりだったけど、掠れて音にはならなかった。
「やっと、抱ける」
もう数えきれないほど落とされた口付けを、そっと受け取る。
唇から首筋へ、鎖骨へと、少しずつ下がっていくディル様の唇に、その先が怖くなってしまった私はその肩を押し返してしまう。
前世では未経験だったし、今世でも当然──なワケで。
「あ、あの……はじめて、で……ですから、その……」
「うん。ゆっくり、するから」
ちゅっと瞼に、目尻に、ディル様の唇が落ちる。
うん、いや、私だってディル様の事が好きで、大好きで、
一つになりたい、と思わないわけがない。
だけどやっぱり未知の世界──それもずっと好きだった人との初夜、というものなワケでして。
うるさく鳴る心臓の辺りをきゅっと握りしめながらちらりとディル様を見上げてみたら、欲情の色を宿した瞳と、ぶつかった。
こくりと、喉が鳴る。
「……や………やさしく、して ください……」
私の嘆願は、蕩けるような微笑みと、深い深い口付けによって、許諾された。
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「ローズマリー」
どうやら少しだけ意識が飛んでいたようで、気が付いたらディルが心配そうに私の髪を梳いていた。
シーツの海に沈んでいる私は、瞼を持ち上げるのも億劫で──
「ローズマリー?」
だけどあまりに心配そうな声音に、これはきっと返事をしてあげないと可哀想なやつだなとぼんやり思って、頑張って重たい瞼を持ち上げてみた。
そうしたら想像通り──ううん、それ以上に心配そうに覗き込んでいた焦茶色に、思わず小さく笑う。
「ディル」
最中に「様付け禁止」とあれこれ色々と意地悪をされたおかげで何とか定着したその名前を呼ぶと、ほっとした様に呼びかけに応えて口付けてくれたディルがその腕に私を抱き込んだ。
殿下との婚約破棄を願ってはいたけれど、その後自分が誰かとこうして添い遂げられる未来なんて全く想像もしていなくて。
きっと家族から少し厄介者扱いされながら、どこか遠い地でひっそりと生きていくのだと思っていた。
好きな人とこうして一緒にいられる奇跡のような幸せな時間を噛みしめて、
私はディルの胸に甘えるように額をくっつけると、そっと目を閉じた──
-Fin.-
お読み頂きまして、ありがとうございました!
あらすじでも書いた通り、勢いだけで書いたので色々ぼんやりしていますがご容赦下さい。
少しでもお気に召して頂けましたら☆を★に変えていただけると嬉しいです( *´艸`)
ちなみにローズマリーはこの後、ディルの奥様として社交界でちゃんと社交してw
脳内てんやわんやを理解してくれる優しくて面白い友達とかできると良いなと思ってます。
特に考えてませんが、ソレル殿下とロベリア嬢はラブラブのはずです。
弟のフェンネルにも婚約者がいるはずです。




