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02. 身の振り方

 殿下から婚約破棄された令嬢なんて、きっと色々面倒だから誰も見向きもしてくれないだろうな、と思う。

 これが歴代の悪役令嬢たちであれば実家で領地経営の手腕を発揮してバリバリキャリアウーマン化してみたり、実は貴女が好きでしたって颯爽と攫ってくれるどこぞのイケメンにあれこれ奪われてみたりするのかもしれないけれど……。


 残念ながら我が家には超絶優秀な弟がいて、既に父の右腕として手腕を発揮している。

 ちなみにその弟もウェデリア学園に在学していて、あのパーティー会場のどこかにいたはずなので多分もうすぐ追いかけてくるんじゃないかな。


 実は貴女が好きでしたパターンも、残念ながらありえないと言い切れてしまう。


 自分で言うのも何だけど、前世があるから許して下さい。

 一応ゲームのキャラクターなので、ローズマリーは美人なんです。


 愛想を振りまけばかなりモテると思う。しかも中々に良い身体をしている。

 前世の私はBカップだったので、ひそかにローズマリーの胸の感触を楽しんだりなんて……しました、ごめんなさい。

 ふにふにです。超気持ちいいです、Dカップ。

 Eカップならゴロが良かったのに……もっと上げて寄せればいけるかしら、Eカップ。



 だけど、子供の頃に前世を思い出してしまって、そこから十年以上殿下の婚約者をやらなければいけないし、婚約破棄されたらされたで扱いに困られてどっかに引っ込むしかないだろうし──

 なんて思ったら、何かこう……色々と無気力になっちゃいまして。

 無気力と言っても、それは主に対人関係に関してで、淑女の何たるかとか王妃教育とかお勉強とか、そういうのはちゃんとやりましたよ。


 万が一断罪されてしまった時の事を考えると色々辛くなりそうなので社交界で親しい友人も作らず、学園でも基本的には一人でマイペースに過ごしていたので……

 あれ。もしかしなくても私ってかなり寂しい子?

 ──まぁそんなワケで、密かなる想いを寄せられるような事を何もしていないので攫われるパターンはほぼない。ちょっと寂しい。



「姉さん!!」


 あ、来た。

 私はゆっくりと振り返る。


「フェンネル、パーティーは良いの?」


「……うん、知ってたけど、もう少し何とかしなよ」


 盛大に呆れを含んだ視線を送られて、私はへらりと笑う。


 そう、優秀な弟にはとっくの昔に私が婚約破棄される事を待ち望んでいる事なんてバレていたようで、多分緩んでしまっている顔を何とかしろと言っているのだろう。


「とりあえず家の馬車待たせてあるから、帰ろう」

「はぁい」


 自然と手を差し出してくる弟に自分の手を預けて、ゆっくりと歩く。


「お父様とお母様、怒るかしら」

「殿下にね」

「私、やっぱり暫くは傷ついたフリをしようと思うの」

「引き籠ってお菓子ばっかり食べるのは禁止だよ」

「え!? 少しくらい良いわよね? 一日三回は甘い物食べないと死んじゃう身体なのよ、私」

「出歩きもせずに毎日三回も甘い物食べてたら、どうなるか分かってる?」

「……うん、まぁ、そこは……適度な運動を心がけますので、何卒……」

「一日一回」

「せめて二回!」

「ダメ、一回──暫く傷心を理由に引き籠っても良いけどさ……その後、どうしたい?」


 フェンネルの問いかけに、私はうー、と唸る。


「分かってるのよ、お荷物だって。だけど、殿下から婚約破棄された女なんて誰も貰い手ないでしょう? だからっておじーちゃんの後妻とか、変な趣味持ってるおぢさんとかに貰われるのは嫌だし……」

「いや、別にお荷物でもないし、そんなとこにも()かせないから」

「フェンネルがいるから家の事で私がやれる事なんてないし……やっぱり修道院が妥当なところかしらね?」


 こてんと首を傾げると、フェンネルが驚いたように私を振り返る。

 あら、滅多に見ない表情だわ。


「修道院?? 本気で言ってるの?」

「割と本気よ。何でそこまで驚くの?」


 フェンネルだって案の一つとして考えなかったわけではないだろうに、と思ったけれど、驚きっぷりを見るにフェンネルの案には本当に入っていなかったのかもしれない。

 お姉ちゃんもビックリです。



「──彼の事は、良いの?」


 ぽつりと聞かれて、私は苦笑する。

 やっぱり気付かれていたか、と。


「だって、どうしようもないでしょう?」


 私の好みの人。

 最初は、単純に見た目だったと思う。


 見た目が好み。

 無駄なことをしゃべらない、寡黙な感じも好み。

 何せ殿下が俺ってカッコいー的な話を延々してるような人だったので。


 そこから少しずつ惹かれて……気が付いたら好きになっていて。

 あまり表情が動かないのに、たまーに、本当にたまーに見せる「今笑ったの?」みたいな仄かな笑みが大好きで。

 いつか私にも笑って見せてくれないかな、というのが最大の願望だった。


 けれどこんな気持ちは絶対に知られてはいけないと、むしろ彼には特別素っ気なく、ろくに会話も交わさずに来た。

 きっと彼にとって私は『自分が仕える主の元婚約者』以外の何者でもないだろう。


 それなりに夢を見てみた事もあったけど、彼が殿下に仕えている以上、夢は夢。

 この先彼と私の人生が交わることはないだろう。


「私、なるべく暖かいところが良いなぁ。寒いのは嫌いなのよ」


 きっとこれから私が入る修道院の候補を選んでくれるであろうフェンネルにそう希望を伝えて、それにフェンネルが何か言おうとした、その時──


「ローズマリー様!」


 ぐいっと、背後から腕を引かれた。


「きゃっ!?」


 引かれた勢いで、緩く重ねていただけのフェンネルから手が離れて、私はバランスを崩す。

 転ぶ……! と思った時には、既に背中はとんっと硬いものにあたっていて、転ぶこともなく私の身体はその硬い何かに支えられていた。


「何……」


 振り返って、私は目を瞠る。


「え……? ディル、様……?」


 夢が、そこに居た。


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