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01. 婚約破棄

 ソレル殿下はよく通る声で、しっかりはっきりと、ビシッと私に指を突きつけながら仰った。


 人を指さしてはいけませんって幼稚園で……

 あ、幼稚園なかったわ、この世界。


「ローズマリー、君との婚約を破棄する!」


 はーい、知ってまーす。

 というか待ってました!


 笑いそうになるのを堪えて、でも、少しだけ哀しみを抱えて、私はそっと俯く。

 周りから見たらきっと悲し気に見えるだろう表情を作って、仕上げに涙を一粒ポロリ。



 婚約破棄イベントの定番である学園の卒業パーティーの場。

 突然の宣言に静まり返っていたその空間に、私の涙が見えたらしい人達からざわめきが広がっていく。



 ざわめきが大きくなる前に、私はゆっくりと顔を上げる。

 たっぷり間を取って、浅く息を吸ってから、少しだけ声を震わせて──


「……承知、致しました」


 ドレスの裾を持ち上げて、片足を斜め後ろに引いてから反対側の膝を曲げて、ソレル殿下に跪礼をして。


 そして姿勢を戻すと、そのまま踵を返してパーティー会場の入口へと向かう。

 一瞬だけ、最後に姿を見ておきたくて視線が反れてしまった事は見逃して欲しい。

 だってきっと、その姿を見られるのはこれが最後だから。



 無事に婚約破棄された喜びで走り出したいような逸る気持ちを抑えて、ゆっくりと歩く。

 ショックを受けているけれど、気丈に耐えているように見えるように、きゅっと唇を引き結んで。


 そして扉の前で一度会場へと向き直ると、もう一度ドレスの裾を持ち上げて軽く礼をする。

 皆さま、お騒がせして申し訳ございません、の礼だ。


 戸惑いつつも扉を開けてくれた学園の警備担当者に小さく目礼すると、ビシッと見事な敬礼を返してくれた。

 良いのに。単純にお礼なんだから。

 元日本人だから、その辺どうしたって「当然です」と素通りする事が出来ない私は、世間からは少し変わり者の令嬢扱いだ。


 扉を出て、遠慮がちに閉じられたのを音で確認すると、私は小さく「よっしゃ!」と拳を握った。




 私はローズマリー・シブレット。

 公爵家の長女で、ついさっきまで、ここアローカリア王国の第一王子であるソレル殿下の婚約者だった。


 今まで私たちが学んでいたこのウェデリア学園で、ソレル殿下はヒロインであるロベリア嬢と恋に落ちた。らしい。


 私はこの卒業パーティーでその婚約が破棄される事も知っていたから、別にショックでも何でもない。

 むしろ全く好みではないソレル殿下の、つまらない話の相手を務める事すら面倒だったのでようやく晴れの日を迎えられた! という気分。


 何で知ってたかって?

 それはもうあれです。


 異世界転生 というやつです。



 五歳の頃に、少しお転婆だった私はよじよじ登ってみていた庭木(低木)から落っこちた。

 その時に頭をごいーんと打ってしまって、そして目覚めた時には全てを思い出していた、というワケ。


 前世の私は日本人で、そしてどうやらここはその前世で、友人がハマっていた乙女ゲームの世界らしいと気付いた。


 大事なことなので二回言います。


 友人がハマっていた乙女ゲームの世界、です。


 そう。私はそのゲームをやった事がなかった。

 友人が「○○様がステキで~~」だとか「悪役令嬢がイラつく~!」だとか毎日のように言っていたから、諸々の名前を憶えてはいたけれど、攻略対象者毎のストーリーだとかはほとんど知らない。

 ウェデリアという学園を舞台に、何やかんやあってヒロインが幸せになる物語、という大雑把な認識しかなかった。


 木から落っこちた時には既に私と殿下の婚約は成っていて、だからこそすぐに気付けたワケだけど──

 婚約していなかったら、その時点では気付けなかったかもしれない。


 友人がゲームの内容をぺらぺらしゃべっていたから、登場人物の簡単なプロフィールくらいは知っていた。

 だから国の名前と自分と殿下の名前、そしてウェデリア学園という存在から、どうやら私はそのゲーム内での殿下の婚約者の、いわゆる悪役令嬢なんだと気づいた。

 そのあともさりげなく情報収集をして、攻略対象者と同じ名前の人物が存在している事を確認して、確信したってわけです。


 いや~、でもゲーム知らないし、殿下はちっとも好みのタイプじゃないから、殿下の為にと自分を磨いたり、殿下を恋い慕うあまりヒロインに嫌がらせしまくったりなんて事はどう頑張っても出来そうになかったので。


 全部放棄して、何もしませんでした!


 何もしなかったから、殿下の私に対する印象がマイナスに振り切れる事はなかったみたいだけど、だからと言っていつでもつまらなさそうにしている婚約者に惚れるかと言ったら、それもなかったようで。


 ヒロインが別の人のところに行ったらどうしよう?

 もっと積極的に殿下に嫌われに行った方が良いのかしら??

 と思った事もあったけど、理由もないのにわざわざロベリア嬢をいじめるのも嫌だったので、暫くは様子を見てみよう、という事にして。

 そして順調にヒロインに対する好感度が上がって行っているらしい殿下を見て安心した。


 他の攻略対象の方々とも満遍なく仲良くなっているようだと知った時は、殿下に走ってくれる事を全力で祈願したものです。

ロベリア嬢が殿下と違う人とくっついてしまったら、私は殿下と結婚しなければならない。


 それはどうしても避けたかった。

 だって本当に殿下の事好きでも何でもないし。

 ──他に好みの人がいたし。


 なのでロベリア嬢が無事に殿下ルートに入ったらしい、と確信した時は思わずワルツを踊りたくなったりして。


 ヒロインに嫌がらせなんてしていなかったから、本来は『断罪イベント』となるはずだったであろう卒業パーティーも、ゲームの強制力とやらでありもしない罪を被せられたらやだな~なんて心配していたけど、ただの『婚約破棄宣言』で終わったのもまた一安心。


 まぁでもとりあえずは家に帰って両親に婚約破棄されちゃいました~って報告しないとね。

 その後は……今までも考えてはいたけれど、『断罪』されてしまう可能性もあるし──と決め切れずに来たこの先の身の振り方を早めに確定させないと。


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