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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
最後の希望は魔王城にしかない……!

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終幕

 この時俺は気絶していたから……カーネリアの証言が多分に入ってる。悪いな。

 どうも……俺が集めて拾ってきた物が……厳密には物についていた人たちが、特に今まで対峙してきた人たちが、俺のことを助けてくれたようだ。女魔族と勇者だけははっきり覚えて……いや、本当はあんまりよく覚えてないんだ。無我夢中だったもんでな。でも……魔王に引導を渡したことだけは、はっきり覚えているよ。

「はぁっ……! はぁっ……!!」


 一生分の頑張りを使い切った気がする。身体の中にあった何もかもが、俺の外に出て行っちまったみたいだ。

 無我夢中で放った魔槍の一撃は、見るからに頑丈な魔法バリアを簡単に貫通した。

 そのまま心臓をブチ抜き、怪物は完全に力を失う。防壁も徐々に消え、ぐったりと倒れて死へと向かっていく。構成した肉体が崩れて、異常なサイズから人型の姿に落ち着いた。


「これが……本来の魔王か」


 派手な黒いローブに、禍々しく生えた両方の角、水色の髪の男性……その姿は、あまりにもカーネリアにそっくりだった。

 彼女に近い親戚なんだろう。俺はボロボロの身体を引きずって、まだ動いている元魔王に歩み寄る。全身が骨になって絶命していない以上、コイツはまだ生きているんだ。トドメを刺さないといけない。

 なのに……心は全然、その気にならない。


「魔王さん……あんたは……あんたもきっと……」


 不思議な事に戦いを終えた今……憎しみは湧いてこなかった。

 俺がこの世界にとって、外から来た異分子だとしても……この厄災を生み出した元凶は、この魔王の行動が引き金な事は分かり切っていた。

 けれど……けれどそこに至るまで、果たして彼だけが悪だったのだろうか? その結末に至るまでに……その過程は、果たして全部魔王が悪かったのか?


「きっと魔王さんも……あんたもあんたなりに必死だったんだ。みんな……みんな必死だったんだ」


 悪い結果を積極的に生み出したのは、確かに魔王が原因だったのだろう。でも魔王さんが絶望したのも……感情は共感できる。みんなのために必死だったのに、知らないとはいえ、守ろうとした相手に討たれちまった。ヤケクソになっちまうのも、分からなくはないよ。俺は……嫌味になっちまうのもわかった上で、死にかけの魔王に話しかけた。


「人間ってのはさ……分かりやすく悪い奴や、弱い奴に色々押し付けるモンだよ。反撃できないコッチ側に全部押し付けて……悠々としてるやつに、恨みを抱いちまう事だって……

 仕方なかったんだよ。全部何か一つ、何か少し足りなかったんだ。あんただけが……あんただけが悪かった訳じゃない。……自分の運命を、このクソッタレな運命を……せめて許して、安らかに眠ってくれ……」


 勝った奴が何言ったって、嫌味にしか聞こえないのは分かってら。

 俺だってその立場にいた事あるからよーく分かる。そんな理由で納得しろなんてのは、酷い話だとも。だったらさ……すべての事をキッチリ採点し尽してみろとでも言うのかよ? 人間にゃ感情があるんだ。物事をフラットになんか見れやしない。

 だから理解がいる。だから共感がいる。傷だらけの誰かを鞭打ったって、それで立ち上がれやしない。ただ『結果を出せなかったって』ってなじるんだったら……この世界で必死に生きようとして、死んでいった奴らは全員ゴミとでも言う気かよ?


 それを悲しめるのが人間だろうが

 それに寄り添えるのが人間だろうが

 他所からちょっと降り立った部外者だけど……弱り切ったこの世界の人を、蔑むことは出来なかった。たとえそれが、悲劇の引き金を引いた当人だとしても。

 言葉が届いたのかは分からない。特に反応もないまま静かに目を閉じて、魔王の身体は朽ちて骨になった。一通り済んだ魔王とのやりとりに、俺の身体がぐらりと揺らぐ。


「ヨスガさんっ!」


 倒れそうになった所を、現れたカーネリアが支えてくれた。安心したからか、すっかり俺は身体から力が抜けてしまう。どっと身体の芯からくる疲労に、なんとか彼女に笑って見せた。


「何とか、なったよ。俺一人じゃ、どうにもならなかったけどな」

「それでも……ヨスガさんは頑張りましたよ」

「へへ……」


 そうか……頑張れたか。

 でももう少しだけ、俺は頑張らないと。彼女の支えを振り切って、どうにかもう一度立ち上がる。魔王の巨体に隠れていた、奇妙な装置を俺は見ていた。

『塔』と同じ材質のソレは……『瘴気コントロール施設』の本体に違いない。ちらりと彼女に目線を向けると、何をすべきかを悟ってくれた。


 今は完全に停止している、奇妙な装置。ここに魔王が居座っていたのは、この装置を他者に触られないよう守っていたのだ。確か装置を使って、自分の身体に瘴気を取り込んでいたらしいし……変異もそれが原因だったかもしれない。

 タッチパネルとカメラのついた装置は、やはりSFめいた作りに見えた。先史文明の超技術……って奴なのだろう。試しに俺が触れて操作を試みるが、金属質な声が答えた。


「操作権限がありません」


『塔』と同じ声質が聞こえる。やっぱり俺には、この装置は動かせないらしい。正面からどいた俺の代わりに、カーネリアが装置に触れた。

 機械的音声が、俺とは違う反応を見せる。


「瘴気コントロール施設へようこそ。音声で指示して下さい」

「この辺り一帯の瘴気濃度を……装置が止まる前に戻してください。そして……外とこの周辺を隔てる、瘴気の壁を取り除いて下さい」

「指示を了解、演算中……調整完了まで一か月かかります。よろしいですか?」

「――お願いします」


 パネルと繋がった装置が、何か……空気清浄機とか、空調のファンとか、そうした空気に関わる機械のような音で動き出す。


「これで――これで、終わったんですね」

「そうだな……これで、きっと」


 時間かかるみたいだし、すぐには効果が実感できないけど……暴走した魔王は倒れ、そして瘴気の濃度も、これで元に戻るはずだ。

 世界を隔てていた瘴気の壁も、いつか綺麗になくなるだろう。

 全てをやり遂げた安堵から……俺はもう一度、静かに目を閉じた。

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