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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
最後の希望は魔王城にしかない……!

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もう一人のカーネリア

≪残された遺品と資料から、勇者の身に起きたことを推察した≫

 これが真実……疲れ果て、休息をとりつつまとめ上げた軌跡は、あまりにも重い内容だった。


「王族も、魔族も、元々は一つの民だったのですね……」


 水色の髪を持つ彼女は、そっと自らの角に触れた。

 一時は種族や出自で悩んでいたようだけど、その悩みは……いや、それだけじゃない。この世界にあった謎や違和感は、今回のまとめで答えが示されたようなものだ。


 王族や魔族が生まれるはるか昔……もしかしたら地球よりも優れていたかもしれない、そんな文明があった。

 ところが彼らは破滅を引き起こしたらしい。詳しくわからないけど、ともかくその時に、大量の死が起きた。これが原因で、この地域一帯は大量の瘴気が漂う地となった。『瘴気』は生命の断末魔……破滅が起きた時に大勢死んだのだろう。あまり想像したくはない。


 水色髪の一族とその民は、それでもこの地を目指すしかない事情があった。ここも詳しい経緯が分からないけど、一族は別の侵略者に追い立てられ、この土地で生きるしかなくなる。瘴気や魔物化、魔族化に苦しめられながら……

 けど幸運なことに『純白の塔』や、俺たちが見つけたときは倒れていた『漆黒の塔』……そして現魔王城にある『瘴気コントロール施設』を操ることで、何とかこの地で暮らす事が出来るようになった。


 が、そうして生存圏を獲得するや否や、放逐してきた者たちが軍備を整え迫ってくる。既に疲弊していた彼らは、分厚い瘴気の壁によって外部と断絶した。大本は同じ民が王族と魔族の二つの軸に分かれたのも、閉じた生存圏を維持するための……やむを得ない事情だった。


 多少突拍子もないところもあるけど『塔』周りのことを考えると、納得せざるを得ない。

 カーネリアが『塔』から持ち出したという無数の品々は、専用アイテムボックスをはじめ、地球基準でもイかれたスペックの道具ばかりだ。その道具をもし、戦争に使ったとしたら……致命的な破壊を引き起こすことだって、難しくはないのだろう。

 そして水色髪の指導者たちは……その技術を恐れた。

 致命的は破壊の名残と、強大に過ぎる先史文明の遺産。そして人の持つ争いの業……その諸々を丸く収めるために『塔』に眠る品々を封印したんだ。完全な瘴気耐性を持つ『人間の水色髪の人物』と『魔族の水色髪の人物』と一緒に……


「私は指導者一族の……魔族の耐性者だったんですね。ヨスガさん、大当たりですよ」

「どうだろう。これは簡単な話じゃない」


 最初のころ『純白の塔』の下での会話が思い出される。何故互いに瘴気に侵されないかの会話だ。俺がお決まりのパターンを参照して述べた推理が、何割か的中とは恐れ入る。けれど大当たりと言われると、ちょっと反論が湧いてくるかな……


「カーネリアは耐性者だった……でも同時に、塔の道具を封印する管理人でもあったんだ。カーネリア以外の人間が塔の道具を、使えないようにするための鍵。肝心の君が野心を持ったら危なかったけど……記憶や意識を、塔の技術によって調整していた……」

「私が色々と疑問を持たなかったのは……何にも気が付けなかったのは、塔のせいだったんですね。私はずっと、塔に守られていると思っていました。それはきっと間違っていなかった。けれどそれだけじゃない。同時に私は塔の番人だったんですね……」


 そう言い終えると、危うい足取りで彼女が立ち上がった。目的を訪ねてみると、彼女は塔の残骸を調べたいらしい。カーネリアしか見分けがつかない事もあるだろう。俺は周辺を警戒しながら、自分で拾った残骸も見せつつ、彼女に付き従う。

 何かを探して回りながら、カーネリアとの会話が続いた。


「塔の技術があれば、世界は救えたのかもしれません」

「けれど……当時の人は、力を使いこなせる自信がなかったんだろう。前の文明の人さえ、御しきれなかったのかもしれない」

「間違いなくそうでしょう。そして当時の人たちは……戦争で追いやられ、瘴気で仲間を失い……もう争いはもうこりごりだった。私に記憶はないですけど、もしかしたら……ここまでやろうと決めたのは、塔に入る前の私自身だったのかもしれません」

「……」


 水色の髪が愁いを帯びる。塔に入ったのは耐性者だったから……そこまでは自然な流れだった。けれど徹底した『調整』は、塔に入る前のカーネリアが、率先して決めたのかもしれない。

 ありえない、とは言い切れなかった。彼女は今まで俺に分かるように、遺品と資料から情報を纏めて伝えてくれた。地頭の良さについては疑いようがない。


 その彼女が……争いに疲れた当時の状況を考えて、自分に苛烈な処置をした……というのは、考えすぎだろうか? 彼女一人が力を独占しないようにと、周囲に納得させるためにも、必要な行いだったのかもしれない。

 その時ふと、俺は考え付いたことがある。純白の塔にあった予見について、俺は聞いてみた。


「ちょっと思い出したんだけど……王国にあった塔の伝承は何だったのだろう? 伝承と厄災は当たってる気がするが……」

「ううん。それとなくぼかして、伝承を作っただけだと思います。私は……いいえ、塔の二人は技術を封印する番人でしたけど、同時に瘴気の災害が起きた時のための、最後の希望。魔王の城の『瘴気コントロール施設』……でしたっけ? が故障したり、瘴気にまつわる何かが起きた時に私たちを使う……時代が経って風化する事も、計算に入れた作られた伝説……だと思います」

「なるほどね……」


 つまり『瘴気災害を予見していた』のではなく『瘴気によるトラブルが起きた時、説得力を持たせる』ための伝承だったわけか。何も起きないことが一番だけど、もしもの時にスムーズに事が運べるように……

 ゆっくりと俺は息を吐いた。カーネリアも悲しげに、倒れた塔の一部、何か大型のカプセルめいた残骸に手を伸ばしている。


「それは……?」

「私が、五年間の眠りにつくための寝具です。確か……」

「『リバイバル・スリープ』……一年分の老化を、五年かけて巻き戻す装置……か」


 やはり塔の技術だけSFじみている。『コールドスリープ』装置っぽい感触のあるカプセルは、人ひとりが眠れるサイズになっていた。割れてしまったガラスの隙間から、水色髪の白骨死体が見える。

 ――塔で眠っていた、もう一人の耐性者だろう。魔王が塔を倒しちまった時に、多分……

 こっちの彼女が生きていれば、あるいは未来は違ったのかもしれない。沈痛な面持ちの俺だけど、カーネリアが抱いた感情はそれだけじゃなかった。


「ちょっと残念です。この人となら私……友達になれたかもしれないのに」


 棺になってしまった寝具に向けて、カーネリアが寂しげにつぶやく。死んでしまったその人物は、もう一人のカーネリアだったかもしれない。

 今はもう動かない塔の番人に、俺たちはしばらく、黙悼を捧げた。

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