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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
転生したら世界が終わってる。俺が来た時にはもう遅い件について
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騎士と女性と

『純白の塔』の根元にたどり着いた俺は、そこで生活を続ける骸骨の騎士を見つける。明らかに臨戦態勢の騎士は、いきなり消えては背後に現れ、俺を何度も切りつけて来た。頑強な身体で死なない俺は、攻撃をせずに対話を求め続ける。ようやく収まったと思いきや、塔から流れた音声が騎士から力を抜いてしまう。

 限界をとうに超えていた騎士サンが守っていたのは、塔から出て来た女性だったのだろう。散り際に俺に『彼女を頼む』と言い残して、彼は消えて行ってしまった。

 真っ白い塔の下で、女性と俺、鎧だけになった騎士サンが佇んでいる。

 俺は顔を上げられず、女性は何も分からず、騎士は何も言えない。

 がっくりと肩を下ろす俺。なんだよ急に「彼女を頼む」って……こんなポッと出の俺に託すんじゃねぇよ……全然何もわかんないけどさ、それでも一つだけ俺にもわかるよ。

 きっとアンタは、一人でここまで粘って頑張って来たんだろ? めちゃくちゃになっちまった世界で、この塔を……今出てきた女を守ってたんだろ? 一目見ただけで満足して消えちまうなよ……

 辛気臭い気配を感じて、黙っていた女性だけど……いつまでも立ち尽くしていられない。彼女は距離を取ったまま、俺に尋ねた。


「あなたが……あなたが、エイト様を……?」


 殺したのか、とは直接言わない。彼女も彼女で混乱している。俺は「わからない」と答えた後に、想像のまま声に出した。


「俺は……騎士サンに攻撃はしなかったけど……騎士サンは必死に攻めてきて……それで消耗しちまったせいで、死んだのかもしれない」

「……」

「多分、君を守るために……こんな姿になってまで、理性とか正気とか……人らしさを保ってたと思う。とっくに限界を超えてて、それでも……ここを、守り切ったんじゃないかな」


 俺に言えるのはこの程度の事。そりゃそうだろ? 俺は何にも知らない。この世界に来てから、一日も経ってないし……人とは、まだ一度も口を利いてなかったんだぜ? ぼんやりとした推測しか、俺は彼女に話せなかった。

 その彼女に、俺はまだまともに目を合わせられない。騎士サンの事で、申し訳なく思ってて……恨まれてるだろうと感じてて、怖かった。

 本当はそんな事無かったろうけどな。この後の彼女の言葉にも、あまり棘は無かったし。


「一体……一体、何があったんですか……? 私が眠っている間に……」

「悪い。それも良く分からない」

「え? だって……」

「ざっくり話すと……俺もここに来たばっかなんだ。目が覚めたら朽ちかけた城に飛んでいて、城下町は化け物がうろついていて……遠目で見ても綺麗なままなのは、この塔ぐらいでさ……何とか無事な奴がいないか探して、ここに来たら……」


 ……ひでぇ説明だと思う。一応本当の事を、全部素直に話しているけど、いったい誰が信じるのやら。視界の隅の女性の足が、戸惑ったように足踏みする。そりゃそうだわ。

 お互い、どう距離を取ればいいかもわからなかった。この出会いは事故みたいな所がある。俺は騎士サンの鎧をじっと見つめたまま、彼女にこう告げた。


「あのさ……そこの小屋って、多分騎士サンが使っていたものだよな?」


 俺が指さした先に、小さなボロ目の小屋がある。最低限人が住めそうな形のソレは、彼女にも見覚えがないのか、返答に自信がなさそうだった。


「えぇと……多分」

「そっか……もしかしたら日記とか手帳とか、何か手掛かりが残っているかもしれない。俺の事は信用出来ないだろうけど……この騎士サンの物なら、君も信じられるんじゃないか?」

「それは……そう、ですね」

「俺も出来れば後で読みたいけど……先に君が探してくれ。俺は部外者だし」

「……わかりました。でもその間、あなたは……?」


 答えはもう、俺の中で決まっていた。


「彼を……騎士サンを弔いたい。シャベルとかスコップとか……穴を掘る道具があったら教えて欲しい。ないなら適当にやっておく」


 その感情だけは、俺の中で固まっていた。

 右も左も分からねぇし、ここに安全な場所や時間が、どれだけ残っているかも怪しい。弔っている暇なんざ、無い事はわかってる。

 でもこれは……感情の問題なんだ。俺の無事かどうかとか、目の前の女性のためだとか……理由はいくつでも付けられるけど、一番は俺の感情の問題だ。ほんの少しだけ触れただけでも……この騎士サンの思いは感じられたんだ。

 だからせめて、静かに眠らせてやりたい。一応縄張りの事もあるから、少しの間なら大丈夫なはずだし。

 塔の中から出てきた人は、本当に申し訳なさそうに、一言だけ言った。


「……すみません」

「いいよ。俺も君も、なんにもわかってないんだし……仕方ないさ」


 そう。仕方ない事さ。分からないことだらけで、なんとなしに思うところはあっても、正しいかどうかなんて確信はない。だから傷つけないように、傷つかないように、それとなく間合いを探りながら、お互いに関わりを作っていくしかないんだ。

 俺は墓を作る場所にアタリをつける。彼女は小屋の方に歩いて……ちょうどスコップがあったから、それをそっと置いてくれた。声はかけてくれなかったが、しょうがない。まだまだ彼女も混乱している。

 俺たちは微妙な距離を保ったままだ。でも彼女が騎士サンのメモか何か見つけてくれれば、誤解も少し解けると思う。俺が直接読まないのは……彼女の気に障りたくないのと、この世界特有の用語があると、どう判断すればいいかわかんなくなる。人任せにするようで悪いけど……俺もここで彼女と揉めたくない。

 俺がちょうど、墓穴を掘り終わった時だったかな。小屋の方から嗚咽が聞こえるようになった。何か騎士サンの痕跡を見つけたのだろう。しばらく俺は手を止めて、彼女が小屋から出て来るのを待っていた。

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