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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
最後の希望は魔王城にしかない……!

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遺品を集めて

ただでさえ押されていたのに、カーネリアをかばいながら戦えるわけがなかった。ぼろ雑巾と化した俺は、しまってあったものをガムシャラに投げつける。そうして投げつけたものの一つ……王城で戦った骸骨の王冠をぶつけると……王様の幻影が、勇者を抱きしめる。何を思ったのかは知らないけど、勇者は自分の胸を突き刺した。

 王族の勇者の絶命は、すぐにわかった。

 魔物化した生き物は、命を失うと骨だけになって消えちまう。心臓を刺したと思われるその魔物は、すぐに白骨化が進み骨がむき出しになった。

 他に残るのは、身に着けていた装備品のみ。身体を支えていた筋肉が失われ、その場にがしゃりと重力に引かれて落ちた。


「助かった……のか?」


 かろうじてわかったのは、それだけ。俺の身体は回復を始めているけど、まだ全回復には時間がかかる。血を失ったせいで頭もぼんやりしてたが、何を優先すべきかは分かっていた。

 よろよろと足をふらつかせ、重い身体を動かしてカーネリアに近寄る。青白い顔で身体を横たえる彼女は、何とか意識はあるようだった。

 開口一番、疲れ切った声が俺に届く。


「ヨスガ……さん…………すいません、でした」

「いや…………俺がチンタラ、戦ったせいだ」


 原理は知らないけど、精根尽き果てているのは彼女も同じ。まだ動けそうにない彼女を休ませようと、俺はアイテムボックスから敷物を取り出した。戦闘で荒れた場所から、比較的平坦な場所に敷く。何枚か重ねて置いた所で、ゆっくりと彼女を抱えて運んだ。


「ごめん……なさい。本当に…………」

「君は悪くない……今日はもう休もう。結界の奴だけ出してくれるか?」


 青白い顔でコクリと頷き、装置を取り出す。配置しようとする彼女を止めて、俺が周辺に結界の準備を進めた。起動ボタンだけ押してもらえば、あとは俺が配置しても大丈夫らしい。

 囲おうと周辺を歩いていたその時、漆黒の材質を持つ質量物が、俺の目に入ったのだ。ちょうど龍人が向かってきた、その方向にある。


 俺はカーネリアに断りを入れ、先に調べてみる事にした。激しい損傷を受けたであろうソレは……王国に存在していた塔と同じものに見える。

 本当に、ただの色違い。倒れた後に塔のパーツを集めたのだろう……多分あの龍人が、根元側に運んでいたんだ。


 俺は頭の中に、とんでもない想像が働いていた。

 王国には塔があり、そして塔を守護する騎士たち……エイトさんがいた。

 そして魔王の城にも同じような……いや、もう断定していいだろう。カーネリアが住まう塔と同じものが存在している。ならさっきの龍人は……エイトさんと同じように、塔を守っていた人物なんじゃないか……? 現にボロ小屋まで残っているし……


 気が付けば俺はアイテムボックスの中に、壊れた塔の内容物を詰め込んでいた。

 俺もカーネリアもボロボロになった。危うく死ぬところだったし、今日一日はもう、一歩だって動ける気がしない。けれど……その甲斐は間違いなくあった。

 塔と同じ材質のソレは、材質どころか中身まで同じかもしれない。それもカーネリアに見せれば分かるだろう。もしエイトさん同様に粘っていたなら、何か記録を残している。そこに……塔の真実が記されている可能性も高い。


「そうだ……龍人の死体も調べないと……」


 最初に戦った龍人、魔物化した勇者に落とされた戦士の亡骸に近づく。羽の生えた死体だけど、肋骨やら頭蓋、骨盤の形は人間そのものだ。どうやら鱗も骨に近いらしく、地面にボロボロと転がっている。メモ書きが残されていないか確かめてから、俺は探し物を手に取った。


 龍人が使っていた、先端の赤い槍……俺のチート防御と自動回復リジェネを貫く、何らかの効果を持った槍を握ってみる。特に弾かれたり、変な衝動も湧き上がる事はない。試しに軽く指を切ると、やはり普通に傷がついた。

 使えるかもしれない。そう思った俺は槍をアイテムボックスに収納する。ちゃんと収納できるか不安だったが、問題なさそうだ。空間を引き裂いて勝手に出てくる事もない。


「悪い……使わせてもらう」


 チート能力があろうと、相手によっては危険がある。研究者マーヴェルの時もそうだったが、慢心してはいけない。使える道具は使っていかなければ。罪悪感から、龍人の亡骸に短い黙祷を捧げ、小屋の中も漁らせてもらった。


 今度は勇者の死体に近寄る。彼からも、回収しなければならないものがあったから。

 王族の勇者が振るった剣……いかにも聖剣とか、伝説の一振りめいた輝きを持つ剣を握る。選ばれた者にしか使えない……なんて事もなさそうだ。不思議な事に、エイトさんの剣と同じ感覚で使える。使用者の負担を減らす効果があるのか? 便利なもんだ。ここから先はこの剣と、エイトさんの剣の二刀流で行こう。


 ガタリと勇者の骨が軋んだ時、着衣の隙間から厚めの手帳が見えた。どうやら彼はマメな男だったらしい。休憩時間の間に読み進めるとしよう。軽く黙祷を挟んでから、勇者の手帳も収納する。やる事は一通り済んだ。カーネリアの所に戻ろう。


「大丈夫か? 顔色は少し良くなったけど……」

「なんとか……もう少し平気と思っていたのですけど……すいません」

「俺達二人とも生きてる。それで十分だよ。周りを色々調べて、めて来た。休憩がてらまとめていこう」

「でしたら……ちょっといいですか?」


 弱った彼女は、専用のアイテムボックスからいくつか取り出す。見覚えのない厚めの日記を見せ、カーネリアがこう続けた。


「『旧境界線の町』で見つけた、女魔族さんの日記です。魔族についても書かれています」

「……じゃあ、それを含めて考えていけば――」

「はい……この世界の事は、ほとんど分かると思います」


 俺達は静かに息を飲む。

 そして知っていったんだ。

 龍人さんの視点、女魔族さんの視点、そして王族の勇者の視点……

 この世界で生きて来た人たちが何を思い、どう行動を起こし、そして……抗えず滅びていったのかを。

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