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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
最後の希望は魔王城にしかない……!

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VS乱入者

相手はかなり鍛えている人物のようだ。比較して自分の情けなさが浮き出るけど、判断力が鈍いおかげで助かっている。が、空を飛んで安全圏から槍を降らせる戦法には参ったね。俺の戦い方は、上方向に陣取られると弱いんだ。にらみ合う俺たちの間に、一人の魔物が乱入。空を飛んだ龍人を一瞬で倒してしまう。水色の髪と両方に角を生やしたそいつは……

 純白の刀身をもつ騎士剣は、エイトさんの剣と比べて二回りは大きい。サイズで言うなら、両手で握る大剣とかバスターソード程じゃないが……片手で扱う剣よりは大振りだ。

 握り手にも水晶か宝石か、美しい装飾も施されている。いかにも伝説の剣めいた刃が俺に向けられ、その魔物は言葉を発さない。

 俺は……震えていた。

 強さは考えるまでもない。敵であることも間違いない。俺が激しく動揺を隠せなかったのは、全体の背格好から受ける印象だ。


 身に着けた服や鎧は、どことなく王城や『渓谷の砦』で見た兵士たちに似ている。彼らよりずっと多い装飾が、彼が上の人物であると誇示しているようだ。

 頭の両方に生えた角は、カーネリアと同じ赤と黒の捩れた角。その上髪の色まで同じ水色と来れば、思うとこがあるさね。

 カーネリアの血縁者を疑ったが、血縁の話をするなら……もう一人水色の髪の人物がいる。王城で倒した巨大ガイコツ……つまり王様のなれの果てと、目の前の男は同じ髪の色をしていた。

 

「ちきしょうが……!」


 王国と思しき装備一式と、王様と同じ髪色。奇襲とは言え一瞬で龍人を切り殺す技量を考えると……目の前のこの魔物の正体は一人しか思い当たらない。

『王族の勇者』――アンタも魔物になっちまったのかい。なぁ?

 語る言葉は持ち合わせておらぬ。そう言わんばかりに、厚めの剣が水平に振るわれた。龍人並みかそれ以上に早い剣術に、ギリギリのところでエイトさんの剣を合わせる。


 くそっ、まだ魔槍を喰らった傷が癒えてないってのに! 衝撃は重く指先を震わせ、危うくとり落とす所だったが、なんとか剣を離さずにすんだ。

 敵が一人減ったから、逃げて立て直す選択肢も考えたが……無理だな。完全に相手は殺る気になってやがる。勝てる自信はないけど、逃げ切れる可能性の方がもっと薄い。


「やってやらぁっ!!」


 ここまで来てビビってんじゃねぇ。相手が誰だろうが、もうやるしかないだろうが! 二回目の剣戟に踏み込むと、鈍い痛みが腰のあたりを打ち据えた。

 今までで二番目に重い一撃だった。魔槍よりは数段マシだが、それでも急所に当たれば命の危険を感じるパワーだ。頭と心臓に喰らうのは避けないとマズい。


 また鈍くなる身体に鞭打ち、エイトさんの騎士剣を突きいれる。中心を狙ったんだが、身体をずらして避けやがった。脇腹にかすっただけだが、これでも雑魚なら倒せるけど……そりゃ勇者様が簡単に負けるわけないわな。鎧に傷がついたけど、その程度で向こうも止まらない。ギロリと睨みつけた水色髪が、一呼吸で連撃を放つ。


「うおっ!?」


 大きめの騎士剣が、自分と別物の挙動で軌跡を描く。一瞬で三連続の攻撃にさらされ、俺の身体が激しく揺さぶられた。幸い、魔槍と違って自動回復リジェネは妨害されない。致命傷クラスや即死を貰わなければ大丈夫だけど、いつまで持つかわからん。

 早期決着を狙うべきだ。今は確かに疲弊してるけど、ここで押し切らなきゃ後がもっと辛い。俺は騎士剣のがむしゃらに振り、素人ながらも怒涛の勢いで攻勢に出る。


 が、流石勇者と言った所か。チート付与の騎士剣の攻撃を、きっちり自前の剣で防御してやがる。あの剣は聖剣か何かなのだろう。何度か撃ち込んだけど、壊れる気配が全くない。あわよくば叩き落としたかったが、俺じゃあるまいし簡単に剣を放す訳がない。


 俺が押し切れず攻撃をやめると、すかさず勇者は反転攻勢。近い形状の武器なのに、まるで生き物だ。流れるような連撃と剣筋は、もちろん防ぎきれるわけがない。

 だから俺は、頭と胸を守る事に集中する。ダメージが残ってしまうけど、回復の余地があるだけマシだ。相手が焦れて踏み込んだ所で、俺は剣を右手で握り、利き手でない左手の素人パンチを肩へ叩きこむ。


 少しだけ反応が遅れた勇者の、肩部分の鎧が弾け飛んだ。悪いな勇者さん、俺は剣だろうと拳だろうと威力はそう変わらんのだ。龍人にも使った手だが、王族の勇者にも有効らしい。


「くそ……」


 けれど、俺は少し焦っていた。今のでも十分、雑魚相手ならバラバラに砕け散っている威力だったが……この人もチートの効果が薄いようだ。純粋に能力を高めている人なのだろう。実際のスペックは俺の方が上だと思うけど、技量と実力で差を埋められちまっている。

 そしてもう一つ……俺が焦りを感じざるを得ない事情がある。戦闘時間が、今までで一番長くなっちまっているんだ。

 心配なのは、俺の疲労じゃない。カーネリアの事が頭をよぎっている。


 彼女は……長く魔法で隠れていられると言ったが、ずっとは隠れ続けられないとも仄めかしていた。これまでは瞬殺していたから問題なかったけど……龍人とも長い事戦い、さらに連戦で魔物化した勇者との戦闘に突入しちまった。


 チート補正で誤魔化している俺と異なり、彼女は戦闘に引きずり出されたら瞬殺されちまう。だからと言って距離を取った場合、逃げた先で魔物と鉢合わせないとも限らない。

 つまり……何とかして、俺はこの強敵を手早く倒さなくちゃいけないんだ。

 追い詰められている。その自覚が胸を重くするけれど――

 ぐっとエイトさんの騎士剣を握り、俺は水色髪の勇者と、何合も切り結んだ。

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