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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
最後の希望は魔王城にしかない……!

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よすが

俺たちはしっかりと休養を取った後、もう一度念のため隅々まで探す。機能を止めた地下研究所内で、白骨化したマーヴェルに俺は近づいた。持っていくのが、研究資料だけじゃ味気ない。遺物魔法に使う気かと尋ねるカーネリア。その魔法はエイトさんが、もう一度俺たちを助けてくれた魔法らしい。ほかにも色々話したけど、続きは魔王の城に向かう途中で話すことにした。

 魔族領の奥地に向けて、俺達は歩いていった。

 行く先は少し不安だけど、王城や旧境界線の町、そして瘴気研究所で見つけた地図を頼りに、俺達は道を進んでいく。獣道と化していても、やはり道だった場所は簡単に消えない。雑草ぼうぼうで歩きずらいが、問題はそれだけじゃなかった。


「どけどけ! 邪魔するんじゃねぇオラァン!!」


 元々瘴気が噴出していた、魔族の領域。

 どうやらおかしくなったのは、何も王国に留まっていないらしい。魔物と化した魔族や、耐性を持っていたであろう生き物たちが、手ごわい魔物となって俺達の道を阻む。おまけに数も多いから、さらに進む道のりに時間を喰うようになった。今は魔族の村の中で、群がる魔物たちと戦っている。


 けれど不思議と、俺の心に不安はない。チートで気が強くなったとか、そういう話じゃない。ここまで自分の足で歩いてきた自信と、すぐそこにある筈の真実が、俺の背中を押していた。

 きっと、あと少し。奇妙な確信が胸の中にある。エイトさんの騎士剣を強く握りしめ、迫ってくる敵を次々と切り伏せていった。


「ちぇあああぁっ!!」


 へなちょこ剣技も、少しだけマシになった。強ぇ奴との戦いで成長した……ってほどじゃないが、エイトさんや騎士団長さん、そして武器を使う元魔族の動きを、見よう見まねで扱っているだけ。ド素人の体術が、三流の技程度にレベルアップしたぐらいだろう。全くやらないよりマシな変化だが、それでも当たれば一発で敵を倒せる。多少良くなった動きと、手ごわくなった魔物で、進行具合はトントンより少し悪いかな……

 最後の一体を正面から切り伏せ、騎士剣についた血を振り払う。そのままアイテムボックスに収納したところで、カーネリアが俺に話しかけた。


「クジョウさん。今日はこれぐらいで」

「オーケーオーケー」


 まだ少し日はあるけれど、俺達は余裕をもって進むようにしていた。

 何せ魔族領内部については、あまり詳しい情報がない。王国も、砦の地図も、研究所に残された地図さえも、詳しい道筋は残されていなかった。


 そんなものだから、魔族領の詳細は分からない。見た目は異形でも中身は人だから、村や集落を作って生活する所は変わらないけど……どの間隔で集落があるかがさっぱりだ。近付いた所で、元魔族の魔物の群れにも襲われちまう。道中の襲撃も考慮すると、決して無理はしてはいけない。あと少しだからこそ、焦りは禁物だ。


「地図がないか、探してみましょう」

「だなぁ……」


 荒れ果てた魔族の集落にも、テーブルや椅子、本棚などの家具が残されている。

 その様子は、今まで見て来た壊れちまった村や町と、何ら変わりがないように思えた。マーヴェルが言った通り、実は人間だったのだろう。


 何故、交流を断ったのかが不思議でしょうがない。残骸を考えれば、文化に大きな差があったとは思えない。時間をかければ、和解も不可能じゃなかったんじゃないか? 交流があれば、俺達が今こうやって、地図を探す必要もなかったのに……やりきれない思いで探していると、カーネリアが小さく歓喜の声を上げた。


「見つけました。隣町までですけど……」

「いやいや、十分十分」


 休める拠点と、次の場所が見つかったんだ。荒れ放題のこの世界では、これだけでもありがたい。結界装置で安全を確保できるとはいえ、休む場所はやっぱり室内が落ち着くってもんさ。

 カーネリアから地図を受け取り、紙に書かれた道筋を眺める。かなり小さめの地図だけど、確実に『魔王の城』に進んでいる。その根拠の一つは、集落にある死体の数だ。


 俺が倒した魔物以外にも、倒された白骨死体がいくつか残っていた。恐らく王族の勇者さんが、同じ道筋をたどったのだろう。死体が道しるべってのも嫌なものだが、完全に道筋を見失うよりはマシだ。俺がテーブルに腰を下ろした所で、カーネリアが隣に座る。一息ついた所で、カーネリアが俺に尋ねた。


「クジョウさん……話の続き、いいですか?」


 話の続きってのは、研究所での続きの事だろう。避けたい話題ではあるけれど、彼女が聞きたいなら仕方ない。


「名前の事だよな?」

「そうです。なんで……自分の名前が嫌いなんですか?」

「そうだな……よすがって、意味わかる?」


 少し考えた後に、カーネリアは首を振った。音として知っているだけで、意味までは知らないようだ。


「意味は……寄りかかるとか、縋るとか、そういう意味らしい」

「あ……」


 途端に彼女の顔が曇った。

 信じるってのは、一歩間違えば縋る行為になっちまう。

 そうして手を伸ばした物がババだった場合、碌な事にならない。それはまさしく……父と母のいう事を聞いて、いつか報われると縋って、自分で考えて生きてこなかった、俺の生き方を反映しているような名前だった。


「両親は別の意味でつけたみたいだけどな。全く逆の意味もあってさ。『誰かに頼られる』みたいな意味合いもあるらしい。俺は真逆になっちまったけど」

「……」

「カーネリアも……『カーネリア』とだけ名乗ったし……必要はないかなって、そう思って話さなかった。隠す気は……少しはあったよ。うん」


 九条くじょうよすが、名乗るのは片方で十分だと思ったし……エイトさんの名前を知った直後だったから、俺は九条とだけ名乗った。ちょっとズルいと思ったけど、いきなり長々と説明するのと、下の名前が嫌だったからな……

 ちょっと迷ってから、彼女は俺におずおずと尋ねた。


「今は……嫌いですか?」

「そうでもないかな……この世界を見てると、自分の悩みが小さい気がしてて……それどころじゃないって所も、あるんだろうけど」


 実際、小さいったらありゃしない。拗ねた所を見せた所で、カーネリアは静かに首を振った。


「世界と比べたら、私だって小さいですよ。私だけじゃない……私達が見つけて来た、人たちも、みんな小さな事になってしまいます」

「それは……そうかも、しれない」

「でも、その小さなみんなが、少しずつ何か間違えてしまったんです。王様の誤解も、マーヴェルさんのやり方も……エイト様や騎士団長さん、女魔族さんだって……どこか間違えてしまったのかもしれない」

「けど……俺は彼らが間違ったって、冷たく切り捨てたくはないよ」


 カーネリアの言う通り、誰もが少しずつ間違えてしまったのだろう。

 でもさ。全ての人間が、等しく満点を取れるわけじゃない。一歩引いた俺達は、いつだって満点を求めてしまうけど……身近な誰かが苦しんでいたり、世界が歪んでいくのを目の当たりにて、冷静に最善解を出せたら……それは、あまりにも人間らしくないんじゃないだろうか。あまりに感情を置き去りにした言い方じゃないだろうか。


「失敗はしただろうさ。結果だって出せなかったさ。でも……でもそれを、無意味だって俺は言いたくない。誰だって失敗なんてしたくないだろ。誰だって……結果を出したいだろ。みんな必死だったんだ。その必死さで間違えちまったのかもしれないけど……俺は」


 間違えて、失敗しちまった誰かの事を、必要以上に鞭打ちたくない。

 ……ハハ、こんな性格だから俺も失敗したってのに、全く懲りてねぇな。

 言いよどむ俺に、そっとカーネリアが囁く。


「あなたは……あなたは、それでいいと思いますよ。ヨスガさん」

「お、おう……」

「なんで顔を赤くしてるんですか?」

「い、いや……改めて言われると……なんか、ハズい」


 いちいち変な反応してんじゃねぇよ。女慣れしてねぇのがバレるぞ。相変わらずカッコ悪ぃな、俺は。

 分かりやすくしどろもどろになる俺に、クスクスとカーネリアは笑っている。

 久々に見えた彼女の笑顔が、俺にはとても輝かしくて……やっぱりしばらく、正面から顔を見れなかった。

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