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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
空気がクッソ悪いけど、研究所が生きてるのを願うしか……

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遺物魔法

俺は今まで集めてきた情報から、この国に起きた出来事の順番を推理する。特にカーネリアも異論はないようで、なら俺たちが前向きに進むなら、向かう場所は一か所だ。『魔王の城』……つまり魔族側の事を知らないと、すべての真実はわからない。ここで心を折らないためにも、新しい目標を俺たちは定めた。

 さらに一日、安全な研究所内で休んだ後……俺達は出発前に、もう一度地下研究所を見て回った。

 取りこぼしがないか、念のためもう一度調査する。あまり期待は出来ないけど……まだ俺達にも未練があったのだろう。何か残っていてほしい願望が、俺達に行動を起こさせた。

 でも……研究所は完全に死んでいて、もう何も見つけられそうにない。研究者マーヴェルが死んだからか、研究所内の明かりも、改造魔物を生産する装置も止まっている。


「何も……残ってないですね……」

「……残念だ」


 全てを巡り終えた最後に、研究者マーヴェルのなれの果てを見つめた。

 魔物化の影響だろう。既に白骨死体と化している。無数の生えた足の分の骨が、彼の亡骸であることを雄弁に物語っていた。

 最も危険な目に合わされた相手だけど……同時に、最も真実に近づいた人でもある研究者マーヴェル。その亡骸の頭部に残った眼鏡を、俺はそっと拾い上げた。

 ……持って行くのが、研究資料だけじゃ味気ないよな。

 容量無限をいいことに、俺は彼の遺品も手元にしまい込む。見つめていたカーネリアが、ふと俺に質問した。


遺物魔法レリックマジックに使うつもりですか?」

「う、うん?」


 何度か目にしたり、聞いたことのある単語だけど……俺にはいまいちわからない。特に考えた行動じゃなかったけど、これを機に彼女に尋ねてみよう。


「何かに使う気はないよ。ただ……こんな暗い所で、朽ちさせるのが嫌なだけだ。遺物魔法に使う気はない。そもそも、俺はその魔法を良く知らないんだ」

「え……じゃあ、エイト様の事も分かってない……のですか?」

「そうだ。あの時は必死だったから……」


 魔物化したマーヴェルに追い詰められ、二人纏めて捕まりそうになった時……騎士エイトが俺達を助けてくれた。あれもどうやら遺物魔法って奴らしい。驚きと呆れを交えつつも、彼女は俺に教えてくれた。


遺物魔法レリックマジックは……遺品を元に発動するとされる魔法です。関係のあった人と、もう一度話したり……危機に陥った際に助けてくれると。でも……生前に強い関係がないと、発動しないとされています。狙って発動も難しいそうで……」

「じゃあ……エイトさんが助けてくれたのは、本当に奇跡みたいなものだったんだな。きっと君を助けるために――」

「私だけじゃない。きっとエイト様は、あなたの事も助けたかった」


 灰色の瞳が、俺と視線を合わせる。強い確信を含んだ言葉に戸惑いつつも、俺は目線を斜めに落として、本心で否定した。


「俺を? いやいや、そりゃない。偶然居合わせただけの……君を奪ったような男を、何で助けようとするのさ?」

「あの人は……エイト様は、クジョウさんの事を、悪く思っていない筈です」

「どうしてさ?」

「だって……ちょっと頼まれたからって、必死に守る理由なんてない。でもあなたは……ずっと、私と一緒に、ここまで歩いて来てくれたじゃないですか。その人を……たまたま会っただけでも、約束を守り続けた人の事を……エイト様は見捨てるような人じゃないです」


 ――……その言葉に、どう反応すればいいが分からなかった。

 護るって言っても、俺のチートパワーがあったから成立したことだし、それにカーネリアだって……旅するなら、知った顔のエイトの方が、ずっと良かったんじゃないのか?

 どこかで俺に危険があれば、見捨てて逃げちまった可能性だってあったじゃないか。現に一回、俺は暴走している訳だし。


「『旧境界線の町』で、一回俺は……全部、投げ出そうとしちまったじゃないか」

「……こんな世界で、一度も折れない方がおかしいですよ」

「んなこと言ったら、君だって折れてない」

「……辛い時、何回かあったんですよ? クジョウさんが、支えてくれましたけど」


 ちらりと流し目されても、俺には心当たりがない。いつの事かは分からないけど……彼女は改めて、俺と目線を合わせた。


「だから……だからエイト様も、もう一度あなたに任せるって、ちゃんと言えたんだと思います。あんな穏やかな表情は、私には見せてくれなかった。あの人はいつも、固い顔つきの人でしたから」

「………………そっか」


 堅物な気配は、なんとなくわかる。きっと剣術や鍛練一筋で生きてきたのだろう。でなければ魔物と化しても、限界を超えても、カーネリアの目覚めまで生きている訳がない。

 思わず俺は、彼の騎士剣を取り出していた。改めて聞くと、このつるぎがぐっと重くなった気がする。胸を打たれる俺に、ふと彼女が俺に尋ねた。


「そう言えば……ヨスガって誰です?」

「うん?」

「いえ……去り際エイト様が、クジョウ・ヨスガって……」


 なんか目線に変な圧を感じる。直感だけど、隠したりごまかしは危ない気がした。素直に俺は本名を語る。


「あれは、俺の名前だよ」

「? クジョウさんはクジョウさんで……」

「俺の世界では、一般人も姓と名があるんだ。九条は姓でよすがは名だよ」


 カーネリアが目をぱちくりさせた。多分彼女は、別々の人物の名だと思っていたに違いない。現に彼女も「カーネリア」としか名乗っていないから、勘違いもやむなしだろう。

 何故かほっと一息ついて、拗ねたように言う。


「だったら、最初からそう名乗ってくれればいいのに」

「悪かったよ。ややこしい事になると思ったんだ。それに……俺は自分の名前が好きじゃない」

「そうなのですか?」

「そうなのですよ」


 詳しい事を話したいと思ったが……もう、ここで長い事駄弁っている。名残惜しい気持ちもあるけど、俺は強引に話を切って出口へ手招きした。


「続きは……『魔王の城』に向かう途中で話すよ。そろそろ、前に進まなくっちゃ」

「それも……そうですね」


 こくりと頷く彼女を連れて『瘴気研究所』を俺達は後にする。

 最後の目標に向けて……もう一度俺達は、歩き始めた。


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