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すべてが終わったそのあとで  作者: 北田 龍一
空気がクッソ悪いけど、研究所が生きてるのを願うしか……

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研究者の追憶

俺が呼び出したエイトさんは、今度は骸骨の騎士ではなく、一人の男として俺に未来を託してくれた。すぐには受け取れなかったけど、俺は彼の剣をもう一度受け取る。泣くのもほどほどにして、俺たちは瘴気研究所に眠っていた、マーヴェルが探し出した真実を解読していく……

 この世界がぶっ壊れる前から、俺様は魔物や魔族について研究していた。

 魔族領と王国領の境界線では、たまに魔物が侵入してくる。衛兵が殺した魔物を検体として、細々と、それでも少しずつ魔物や魔族について理解を深めた。性質を理解すれば、効率よく魔物退治も出来るからな。必要な事さ。


 余裕がある時は、生きたまま捕まえてもらう。魔物は死体になると、骨を残して消えちまうからな。得る物が減るをの避けるには、弱らせて捕獲するしかない。

 まず最初に分かったのは、魔物って生き物は存在していないって事だ。

 いやいや、現に襲い掛かって来てるし、実体だって持ってるじゃないかって? これだから素人は困る。俺様が言いたいのは学術的な意味、つまり生物の分類として『魔物』という生き物は存在していない……そういう話さ。


『魔物』になった生き物には、必ず元となった生き物がいる。

 原種より凶暴性を増し、口から火の粉を吐く魔物ケルベロスは『犬』だし

 粘体で相手を取り込み消化する、スライムは超巨大化した『アメーバ』って生き物だ。

 捩れた二本角の馬型の魔物、バイコーンはそのまま馬が魔物化した姿だ。これは分かりやすいな。


 魔物の生きた組織を調べると、全ての魔物から『元となった動物と、同じ生体組織や細胞が発見された』

 つまり……誰がどう見ても別の化け物に見えるが、生物学の視点で定義するなら――『魔物』と『魔物と化す前の生き物』は、完全に『同一種族』と判定せざるを得ない。

 俺様も最初は、そんな馬鹿なと思ったさ。否定するために、俺様は相当苦労したが、ある実験を繰り返し行うことで証明した。


『魔物化前の生物と、魔物との交配実験』


 別の生物種であるならば、生殖することはできない。よしんば受精し、出産までこぎつけたとしても……他の生物との混血児は基本、生物学上のエラーだ。虚弱体質だったり、奇形児だったり、ともかく『生物として成立が難しい』レベルの欠陥を持って生まれてくるはず。どう見ても別種同士のそいつらを、上手い事焚きつけて実験するには苦労したが……結果は非常に有益だった。


 問題なく生まれて来たよ。どの生物も。

 どうあがいても別種にしか見えない、魔物化前と後の生き物。なのに完全な『同種』であることがこれで証明された。となると魔物化は、生物の法則とは全く別の変異や変化と考えるしかない。一旦ここで詰まった研究は、匿名の出資者様のおかげで発展した。


 その金額は……かなり度を越した物だったな。こっそり王様が金を出したんじゃねぇかってレベルの、巨大な金額だ。ただ、普通に国家予算からも貰ってる筈なんだが、わざわざ匿名にする必要あったのか……? まぁ疑問はあるけど、代わりに出資者様には注文が一つ。

『魔物、魔族の研究に加えて、瘴気についても研究して欲しい』

 つまりあれか、金を出すから口も出させろと、そういう話か。


 一方的に送りつけられたもんだから、色々と気に食わねぇ所もあるが……たっぷり金は出してもらってるし、俺様も必要と感じてはいた。時間と金がないから手を出していなかったが……その両方が揃ったなら、やぶさかじゃねぇ。


 俺様が意欲を見せて、ソッチ方面も研究し始めると……匿名の出資者様はさらに強力な援助もして下さるようになった。どこで入手したのかは知らねぇが、厳重に密閉封印された瘴気や、貴重な実験機材やらが送られてきた。ありがたい話だが……一体どこのどいつが協力してるのやら。ま、研究出来るなら何だっていいがな。


「瘴気……魔物化の原因だが……」


 ぶっちゃけ瘴気の研究は難航した。長い間吸い込ませると徐々に正気を……元の生物としての正常な状態から逸脱、肉体も変異を引き起こすって所までは、他の研究者たちも分かっている。だがこの瘴気ってモンは、物質としての性質は持っていない。一応気体に近いみたいだが……

 大きな発見はなかったが、多少進展はあった。瘴気を吸わせている相手の中に、肉体は変化しても行動への影響が少ない個体が見つかった。


 原因因子は特定できなかったが……どうやら瘴気への耐性は、個体差が大きいようだ。同じ量を吸わせても完全に魔物化する個体と、身体が禍々しくなるだけで普通な奴の違いがある。実験を繰り返すうちに、王様の方からも依頼が入って来た。


『王族の娘が、魔物と化す奇妙な症状に苦しんでいる。治療法を発見せよ――』


 俺様は目を丸くしたね。これではっきりわかった。謎の出資者様は、絶対に王族じゃねぇ。国からの予算も三倍近くに跳ね上げておいて、今まで通り謎の出資者様も援助して下さる。二重に援助するのはやり過ぎだ。

 そして俺様が驚いたのは……王族の娘さんが魔物化している点だ。


 どういう事だ? 瘴気を吸わなきゃ魔物化は起こらない。魔族の領域は瘴気が漂っているが、王城で瘴気が発生したなら、被害は娘さんだけで収まる訳がねぇ。何せ気体に近いからな。複数発症者がいるはずだ。

 王様は魔族、特に魔王の仕業と断定しているらしい。呪術を使ったのだと討伐隊を出発させたそうだ。呪いかどうかはともかく、魔王が一服盛った可能性は大いにあるな。


 んなことを俺様は考えていたが――実験が進み、王様がよこした罪人を使って、人間を瘴気に触れさせ魔物化する実験を繰り返していくと……俺様は完全に絶句した。

 瘴気を浴びて、禍々しい姿に変わった元人間は、全員が人型の化け物に変わっていった。だが魔物への耐性がある個体がいることも、別の動物で証明済みだ。

 俺様が探していたのは、人間の瘴気耐性者……何度か実験を重ねるうちに、遂に俺様はその個体を見つけ出す。

 ――その姿は、完全に魔族と同じ特性を持っていた。


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